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第10話 ダブラン登場
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「じゃあ、また」
受付嬢に別れを言って彼が振り返ると、目の前が急に真っ暗になった。
というのも、彼の前に巨体の持ち主が立っており、それがララクの視界を妨害したのだ。
その正体は、だらしなく出ている太った腹だった。
「おいおい、ララク。お前が何を倒したってぇ??」
威圧的に話しかけてきたのは、腹を出した男だ。肌の上からレザーのベストを着ており、チャックを閉めずに腹を出している。全体的に巨漢で坊主頭だ。
身長が高く、ララクを睨みながら見下ろしている。
「あ、ダブランさんじゃないですか。お久しぶりです」
ララクとダブランという男には面識があった。面識どころか、2人はかつて仲間だった。
「チャミもいるよ」
ダブランにララクが軽く挨拶すると、その後ろから獣耳がひょっこり飛びだしてくる。彼女はチャミングという少女だ。猫人《ねこびと》族で、小さな耳と可愛らしい髭が特徴的だ。
「ぼくも忘れるなっ」
そしてもう1人、ダブランの背中から姿を笑わす。彼もまたチャミングと一緒で人間ではなかった。彼の体は木造で出てきている。しかし、しっかりと二足歩行で自立していた。体には木特有の木目がいくつも入っていた。これはキノピオ族の特徴だ。
彼の名はトッドーリだ。
「皆さん、お揃いで」
「おうよ、【ダブランファミリー】はいつでも一緒よぉ」
「そうニャのだ」
「その通りです!」
彼らは、現在3人で活動しているパーティー【ダブランファミリー】の連中だ。ちなみに、ファミリーだが血は繋がっていない。後ろの2人は、昔ダブランに拾われて、このパーティーに加入したのだ。
「あの使えなかったお前が、ケルベアスを倒せるはずがねぇだろ!」
彼がいちゃもんをつけているのには、理由がある。というも、ララクは以前ダブランファミリーの一員だった。
もう1人子分を作ろうとララクを入れたが、例のごとく使えなさ過ぎて追放された。つまり、100個のパーティーの1つだったということだ。
「そうニャのだ。ララクは、まるで使えニャかったのだ」
子分の1人であるチャミングも同意見なようだ。彼らの認識では、ララクは弱くヒーラーとしても使い物にもならない冒険者なのだ。
「足手まといのララク、嘘をつくなっ」
キノピオ族のトッドーリも、彼が嘘を言っていると思い込んでいるようだ。他の2人よりも、彼は嘘に敏感だった。
「嘘ではないんですけど。信じられないのは無理もないと思います」
彼らや他の人間が自分を疑う理由は、ララク自身も理解しているようだ。
「そもそも、ゴブリン退治だって疑わしいぜぇ」
「ゴブリン1匹に怯えてたよね、ララク」
「あの姿は滑稽だったよ」
4人で活動していた時のことを思い出すダブランファミリーたち。あの時のララクは、ゴブリンが出るとすぐに彼らの元へと逃げていた。
「あの、疑うのは別にいいいですけど、ボクもう行くので。漁師さんたちのために、出来るだけ早くシーサペントを倒したいので」
「シーサペントだとぉ? やめとけ、死ぬだけだぜ」
「そうニャのだ。無駄死にニャのだ」
「大人しく、薬草採取でもした方が良いよ」
煽った態度のわりには、彼らの意見はララクを心配してのこと、とも捉えることが出来る。
「ご心配に入りません。しっかりと倒してきますので」
ララクは彼らの言葉を好意的に受け取ったのか、3人に笑顔を見せた。そして、会釈をしてその場を後にした。
「……あいつ。あんな自信たっぷりの野郎だったかぁ?」
「……随分変わったね、あいつ」
「……まさかっ、別人!?」
それぞれララクの変貌ぶりに驚いているようだ。自分の知っている情報と全く違う情報が流れ込んでくると、ダブランファミリーは少しだけ大人しくなった。
「あんたたち、ララクにちょっかいを出すのはやめなさいよ」
さっきの光景を見ていた受付嬢が、彼らに釘をさす。
「あぁん? 元メンバーなんだ。声をかけるぐらいいいだろうがよぉ」
「そうニャのだ。ララクは元・仲間ニャのだ」
「一応ですけどね」
ダブランファミリーは硬い絆で結ばれている。本当の家族のような存在だ。故に、一瞬とはいえ加入していたララクの事を、心配しているかは分からないが、決して忘れてはいないようだ。
「まぁ、あなたたちが突っかかるのも分かるよ。私もまだ半信半疑だし。でも、あの子が嘘をつくようには思えないのよね」
受付嬢は、彼の戦闘能力を知っていると同時に、その人柄も知っている。
「……確かになぁ。トッドと違って、あいつは嘘なんかつかねぇよな」
「な、ぼくだって嘘なんてつかないですよ! って、っあ」
ダブランにトッドーリが反論した瞬間、彼の持つバッシブスキルが発動してしまう。
彼の鼻が一瞬で、倍以上に伸びていたのだ。
これが彼の持つ希少スキル【嘘鼻《うそばな》】だ。嘘をつくと鼻が一定時間伸びるのだ。これはキノピオ族のなかでもほんの僅かしか発現しないという希少スキルだ。さらにこれは、不吉の象徴して扱われている。
「ほら見ろ」
「トッドは嘘つきニャのだ」
「う、嘘つきじゃない! っあ」
再び【嘘鼻】が発動して、さらに倍に伸びてしまう。通常の4倍なので、それはそれは立派な鼻だった。
「あんたたち、騒がしいから早く出ていきなさい」
カウンターの前でたむろするダブランファミリーを受付嬢が一蹴する。
「わーかったよ。お前ら、いくぞ」
「はいはーい」
「ちょ、待って親分」
こうして、少し癖のあるダブランファミリーはギルドを後にするのだった。
受付嬢に別れを言って彼が振り返ると、目の前が急に真っ暗になった。
というのも、彼の前に巨体の持ち主が立っており、それがララクの視界を妨害したのだ。
その正体は、だらしなく出ている太った腹だった。
「おいおい、ララク。お前が何を倒したってぇ??」
威圧的に話しかけてきたのは、腹を出した男だ。肌の上からレザーのベストを着ており、チャックを閉めずに腹を出している。全体的に巨漢で坊主頭だ。
身長が高く、ララクを睨みながら見下ろしている。
「あ、ダブランさんじゃないですか。お久しぶりです」
ララクとダブランという男には面識があった。面識どころか、2人はかつて仲間だった。
「チャミもいるよ」
ダブランにララクが軽く挨拶すると、その後ろから獣耳がひょっこり飛びだしてくる。彼女はチャミングという少女だ。猫人《ねこびと》族で、小さな耳と可愛らしい髭が特徴的だ。
「ぼくも忘れるなっ」
そしてもう1人、ダブランの背中から姿を笑わす。彼もまたチャミングと一緒で人間ではなかった。彼の体は木造で出てきている。しかし、しっかりと二足歩行で自立していた。体には木特有の木目がいくつも入っていた。これはキノピオ族の特徴だ。
彼の名はトッドーリだ。
「皆さん、お揃いで」
「おうよ、【ダブランファミリー】はいつでも一緒よぉ」
「そうニャのだ」
「その通りです!」
彼らは、現在3人で活動しているパーティー【ダブランファミリー】の連中だ。ちなみに、ファミリーだが血は繋がっていない。後ろの2人は、昔ダブランに拾われて、このパーティーに加入したのだ。
「あの使えなかったお前が、ケルベアスを倒せるはずがねぇだろ!」
彼がいちゃもんをつけているのには、理由がある。というも、ララクは以前ダブランファミリーの一員だった。
もう1人子分を作ろうとララクを入れたが、例のごとく使えなさ過ぎて追放された。つまり、100個のパーティーの1つだったということだ。
「そうニャのだ。ララクは、まるで使えニャかったのだ」
子分の1人であるチャミングも同意見なようだ。彼らの認識では、ララクは弱くヒーラーとしても使い物にもならない冒険者なのだ。
「足手まといのララク、嘘をつくなっ」
キノピオ族のトッドーリも、彼が嘘を言っていると思い込んでいるようだ。他の2人よりも、彼は嘘に敏感だった。
「嘘ではないんですけど。信じられないのは無理もないと思います」
彼らや他の人間が自分を疑う理由は、ララク自身も理解しているようだ。
「そもそも、ゴブリン退治だって疑わしいぜぇ」
「ゴブリン1匹に怯えてたよね、ララク」
「あの姿は滑稽だったよ」
4人で活動していた時のことを思い出すダブランファミリーたち。あの時のララクは、ゴブリンが出るとすぐに彼らの元へと逃げていた。
「あの、疑うのは別にいいいですけど、ボクもう行くので。漁師さんたちのために、出来るだけ早くシーサペントを倒したいので」
「シーサペントだとぉ? やめとけ、死ぬだけだぜ」
「そうニャのだ。無駄死にニャのだ」
「大人しく、薬草採取でもした方が良いよ」
煽った態度のわりには、彼らの意見はララクを心配してのこと、とも捉えることが出来る。
「ご心配に入りません。しっかりと倒してきますので」
ララクは彼らの言葉を好意的に受け取ったのか、3人に笑顔を見せた。そして、会釈をしてその場を後にした。
「……あいつ。あんな自信たっぷりの野郎だったかぁ?」
「……随分変わったね、あいつ」
「……まさかっ、別人!?」
それぞれララクの変貌ぶりに驚いているようだ。自分の知っている情報と全く違う情報が流れ込んでくると、ダブランファミリーは少しだけ大人しくなった。
「あんたたち、ララクにちょっかいを出すのはやめなさいよ」
さっきの光景を見ていた受付嬢が、彼らに釘をさす。
「あぁん? 元メンバーなんだ。声をかけるぐらいいいだろうがよぉ」
「そうニャのだ。ララクは元・仲間ニャのだ」
「一応ですけどね」
ダブランファミリーは硬い絆で結ばれている。本当の家族のような存在だ。故に、一瞬とはいえ加入していたララクの事を、心配しているかは分からないが、決して忘れてはいないようだ。
「まぁ、あなたたちが突っかかるのも分かるよ。私もまだ半信半疑だし。でも、あの子が嘘をつくようには思えないのよね」
受付嬢は、彼の戦闘能力を知っていると同時に、その人柄も知っている。
「……確かになぁ。トッドと違って、あいつは嘘なんかつかねぇよな」
「な、ぼくだって嘘なんてつかないですよ! って、っあ」
ダブランにトッドーリが反論した瞬間、彼の持つバッシブスキルが発動してしまう。
彼の鼻が一瞬で、倍以上に伸びていたのだ。
これが彼の持つ希少スキル【嘘鼻《うそばな》】だ。嘘をつくと鼻が一定時間伸びるのだ。これはキノピオ族のなかでもほんの僅かしか発現しないという希少スキルだ。さらにこれは、不吉の象徴して扱われている。
「ほら見ろ」
「トッドは嘘つきニャのだ」
「う、嘘つきじゃない! っあ」
再び【嘘鼻】が発動して、さらに倍に伸びてしまう。通常の4倍なので、それはそれは立派な鼻だった。
「あんたたち、騒がしいから早く出ていきなさい」
カウンターの前でたむろするダブランファミリーを受付嬢が一蹴する。
「わーかったよ。お前ら、いくぞ」
「はいはーい」
「ちょ、待って親分」
こうして、少し癖のあるダブランファミリーはギルドを後にするのだった。
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