【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました!

高見南純平

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第8話

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 ララク・ストリーンが【追放エナジー】を獲得し、ケルベアスを討伐した数日後の事。

 ここ、魔鬼《まき》の森でララクは自分の力を試そうと思っていた。

 ここは全体としては魔熊の森よりも規模は小さい。が、魔物の数は多いと言われている。それと同じぐらい、薬に使える植物なども多く育っており需要が高い。
 そのため、薬を安全に調達するために、魔物討伐の依頼、いわゆるクエストが冒険者ギルドに定期的に申請される。

 そしてララクも、そのクエストを行うためにもここへやってきていた。

 クエスト内容は以下の通りだ。

【小鬼たちが大量発生】

 皆さんもご存知の通り、ゴブリンたちが魔鬼の森に大量に生息しています。特に今は繁殖期で、その数はとてつもないです。
 けれど、この時期にしか咲かない花などもあるので、採取に行かないわけにはいきません。
 毎度のことですが、ゴブリン退治を早急にお願いいたします。

       依頼主・薬物研究協会 副理事長


 ゴブリン退治は、おそらく冒険者が一番行うクエストでもある。それだけメジャーなモンスターであり、人に不利益をもたらすのだ。

 ララクもまた、何度もこういったクエストに同行したことがあった。しかし、ヒーラーであり攻撃スキルを持っていなかったララクは、実はというとゴブリンを一度も倒したことはなかった。

 おそらくだが、ララクが人生で初めて倒したモンスターは、魔熊ケルベアスだ。彼はケルベアスを倒したことにより、以前よりもレベルアップしていた。


 名前  ララク・ストリーン
 種族  人間
 レベル 45


 元のレベルが40だったので、一気に上昇した。レベル60のモンスターを討伐したので、かなりの経験値を獲得したようだ。

 普通ならスキルの1つぐらい新しく獲得してもいいところだが、残念ながらそういったことはなかった。
 しかし、彼には十分すぎるほどのスキルがある。

 ララクがゴブリンを探しに森の中を捜索していると、それはすぐに表れた。
 人間の幼子ほどの身長で二足歩行、全身くすんだ緑色をしていて、目と歯がぎらついている。手にはこん棒のようなものを持っている。
 これが、飽きるほどララクが見たことのあるモンスター ゴブリンだ。

 小さい見た目で個々の戦闘能力は高くないが、驚異的なのはクエスト内容にもあった通り、その数だ。

 草影から、1匹、2匹、と頭を出し、いつのないか数10匹の大群が、ララクの前に立ちふさがった。

「繁殖期か。前のボクだったら、すぐ逃げていただろうな」

 以前のララクの場合、例えたったの1匹であっても、こちらが1人の場合は一目散に逃げていたはずだ。
 しかし今回は、大量の小鬼たちを前にしても、堂々としていた。

 ケルベアスに比べれば、随分可愛く感じるだろう。

「よし、まずは魔法系からかな」

 ララクはスキルを発動する態勢に入る。どうやら、【ウィンドカッター】のような無から何かを生み出す魔法系統のスキルを試すようだ。

「まずは、【ダメージサンダー】」

 片手をゴブリンたちの前にかざすと、そこから凄まじい稲光が発生。そしてそのまま、電流がゴブリンたちに向かって放電される。

 放たれたそれは、ゴブリンが避ける間もない超スピードで、「ジジジジジィ」と音を出しながら、奴らの体にヒットする。

「グギィィィィ」

 一斉に苦痛の声をあげるゴブリンたち。電流によるダメージと雷系統特有の効果で、体が痺れてしまっている。

 一瞬身動きが取れなくなったことを確認して、ララクは畳みかける。

「【フレイムショット】」

 こちらは炎系統の一般的なスキルだ。しかし、ララクが使うと恐ろしい爆炎となっている。今度はゴブリンたちに、炎の波が押し寄せる。

 炎はゴブリンたちを包み込み、そこには丸焦げになっているであろう奴らのシルエットだけが見えている。

「あ、まずい! 【ウォーターボール】!」

 ゴブリン退治は順調に進んでいるが、火力が強すぎて森の木々に引火してしまっている。薬を調達するためにゴブリン退治をしているのに、それらを破壊してしまってはもともこうもない。
 ララクは慌てて、炎を打ち消す水系統のスキルを発動する。

 本来、【ウォーターボール】は手のひらに収まるぐらいの水玉を生成し放つスキルだが、彼が使うと彼自身をすっぽり入れてしまうほどの大きさになっている。
 腕を振り上げ、頭上へとその大きな水の弾を持っていくと、炎へと思いっきりぶつける。

 そしてそれは、炎とぶつかり合うと水しぶきをあげて破裂した。
 少しの時間、破裂した【ウォーターボール】が雨のようになって、火災場所へと降り注いでいく。

 スキルで作り出す水は、通常の水よりも炎系統に強い効果がある。そのため、すぐに炎は鎮火していった。

 炎で荒れていた場所は、ゴブリンの死体が残らないほど丸焦げになっている。
 しかし、すぐに消化できたので、被害は最小で済んでいた

「ふぅ、効果が強すぎるのも問題だな」

 初級的なスキルであっても、【追放エナジー】の「被っているスキルはその数だけ強化される」という能力によって、上級、いやそれ以上の効果を発揮する。

 初のゴブリン退治は、オーバーキルで終わった。

 だが、これでクエストは終了ではなかった。

 今度は、ララクを囲むように、繁殖しすぎたゴブリンたちが姿を現す。
 スキルを使ったことで、ララクの存在が群れに伝わったようだ。

 普通なら逃げる場所がなくなり、危機的状況だが、彼の場合は「探す手間が省けた」と捉えているはずだ。

「グギィィッィィ」

 同胞を失った悲しみからか、ゴブリンたちは激怒している。
 息を合わせて、一斉にララクに飛び掛かる。

「それなら、【ウェポンクリエイト・ハード】」

 前回はこのスキルで、ゴールデンソードを作り出した。だが、このスキルが作り出せるのは剣とは限らない。

 ララクの手に握られているのは、銀色の鎌・ソウルライドだった。全長2メートル近い巨大な鎌だ。
 対多数には、剣よりもこちらの方が有利に戦えると判断したようだ。
 それと、この武器に対応したスキルをララクは所持している。

「はぁぁ、【オーラサイズ】!」

 手に持ったソウルライドから、紫色の禍々しいオーラが出現する。それにより、ソウルライドは一回り大きくなっている。
 このオーラにもダメージ判定というものがあり、当たればただではすまない。
 これにより、一撃で抉り取れる面積が増えるのだ。

 ララクは鎌を思いっきり後ろへと振りかぶる。

 そして、ゴブリンたちが自分に充分接近したところで、それを振り払う。
 脚を軸に動かすことで、【オーラサイズ】は360度相手を斬りつける。

「グギィィィィ」

 美しいほど綺麗な太刀筋で、そして一瞬でゴブリンたちを、上半身と下半身で真っ二つにしてみせた。

 すぐにただの肉片となったゴブリンたちの死体は、地面にぼとぼとと落ちて行く。

「これで、終わりかな?」

 ララクの予想通り、次にゴブリンの援軍が姿を現すことはなかった。
 あらかた倒しきったのか、ララクに恐れをなしたのかは分からない。

 けれどどちらにせよ、これだけ倒せればクエストは大成功だ。

「キルバさんのスキル、こういう時役にたつなぁ」

 彼が言っているのは、魂狩りのキルバという冒険者のことだ。この人物とも、以前ララクはパーティーを組んでいた。

(鎌系のスキルと何かを組み合わせれば、もっと強くなるよな。複合スキルはまだまだいっぱいあるし、研究の必要があるな)

 単純にスキルを放つだけで強力なのだが、ケルベアス戦で行った複合スキルの活用と、スキルの組み合わせに比べると、何か物足りなさを感じていた。

(やっぱり、強敵と戦った方が色々と思いつきそう)

 ゴブリンのように一瞬で倒せてしまうと、スキルを組み合わせる必要がないので、インスピレーションが刺激されないようだ。

「よし! 今度は、ケルベアスぐらいのモンスターに挑戦しよう!」

 ゴブリン退治を終えたばかりのララクだが、すでに前を向いていた。
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