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第2話 【追放エナジー】

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「はぁ、せいせいするぜ。おい、レニナ、ガッディア。こんなやつ置いて、とっと帰るぞ」

 清々した様子のデフェロットは、休憩を追えてとっと泉から去ろうとした。

「おいデフェロット、まさかララクをここに置いていく気か?」

 パーティーを解消したとはいえ、ガッディアはララクのことが心配なようだ。

「あのなぁ、こいつはお前の息子でもねぇし、もはやパーティーでもねぇ。俺は一刻も早く、こいつの顔を見たくねぇんだよ。
 しおらしい態度を見せるわけでもねぇし、余裕な感じがイラつくんだよ」

 ララクがあまり驚いた様子をしていないのは、今まで99回も追放されてきたからなのだが、それがデフェロットには癪なようだ。
 彼はきっと、「追放しないでくれ」と一度くらいは抗議されると思っていたのだろう。

「そうそう。お荷物くんは置いて、とっと帰りましょ。足並み揃えてたら、日が暮れちゃう」

 レニナもリーダーと同意見なようで、ララクにはもう興味がなさそうだった。

「ボクは大丈夫ですから。モンスターにあっても、逃げればいいだけですし」

 ララクは自分のことでこれ以上悩んでほしくないと思ったのか、自分から別行動することをガッディアに提案した。

「そうか。すまんな。無事を祈っているよ」

 本人が離脱の意志を示していることもあって、それ以上ガッディアはとやかく言わなかった。
 ガッディアには、まだ小さい娘が1人いる。
 ララクは男で、18歳とそれなりに成熟しているが、30代後半のガッディアからしたらまだ幼い子供だ。
 そう言った理由もあって、少し気にかけていたのだろう。

 しかし、お互い独り立ちした冒険者だ。
 必要以上の情けは無礼だと感じたのかもしれない。

 ララクとパーティー契約を解除した面々は、傷が完全に回復をしていないものの泉を後にした。
 ガッディアは浮かない表情だったが、他の2人は清々しい顔をしていた。

「ふぅ、これで100かぁ。さすがに堪えるなぁ」

 独りぼっちとなったララク。
 ついに追放回数が3桁に突入したので、いつもよりも落ち込んでいる様子だった。

「もう、冒険者は諦めた方が良いのかなぁ」

 今までは何度追放されてきてもめげずにパーティーに加入してきた。
 しかし今は「このあたりが潮時」と思っているようだ。

 泉で1人寂しく、森の風に吹かれている時だった。

「ん? な、なんだこれ」

 先程、契約解除に使ったララクの紋章が、何のまえぶりもなく光りはじめたのだった。

「なんで光ってるんだろう」

 何故、紋章が突然輝きだしたのか、ララクには皆目見当つかなかった。

「レベルアップ? いや、モンスターは倒していないし」

 数値が一定を超えると、生物の肉体は一段階レベルアップする。
 その際に、こうして紋章が光って知らせてくれる。
 しかし、それとはまた違った光り方だった。

 レベルアップした場合は輝いた後にすぐに消えるのだが、今回は紋章が点滅している。
 実は、この光の反応は、新しくスキルを会得したことを知らせるものだった。

 しかし、生まれてから、一度も新しいスキルを獲得したことがないララクに分かるはずもなかった。

 予想外の出来事に困惑していると、さらに不可思議なことが彼に身に起きた。

「光の玉? あ、こっちに来る」

 泉のある森の上空を、いくつもの眩い光を放つ球体が飛行していた。
 そしてそれは、吸い込まれるようにララクの元へと向かってくる。
 そのまま光の球体は、紋章へと入り込んで次々と消えていった。

 光の数は、100をゆうに超えており、全てがララクの紋章に取り込まれるまでに、数分時間が掛かった。

 しかし、彼に痛みはなく、特にめまいなどの体調不良も起こしていなかった。
 それどころか、さっきよりも体が軽い気がしてならなかった。

「な、なんだったんだろう今の。詳細、分かるかな」

 疑問に思ったララクは、その紋章を指で軽く触れた。
 すると、点滅しなくなった代わりに、紋章からノートサイズの光の結晶版が現れた。
 四角く半透明のそれには、文字が刻まれている。
 これは冒険者の間では、スキル画面と言われている紋章の機能の1つだ。

 紋章の持ち主が、いくつスキルを獲得しているのか、そしてそのスキルはどういった内容なのか、といったことを確認することができる。

「っえ、えぇ!?」

 普段から、あまり驚くことのないララク。
 先程、デフェロットから解雇通知をされたときも声を荒げることはなかった。

 しかし、そんなララクでも、スキル画面に記されたその文字を見て驚かずにはいられなかった。


 名前  ララク・ストリーン
 種族  人間
 レベル 40

 アクションスキル 一覧
【ヒーリング(Ⅰ)】【エアスラッシュ(Ⅶ)】【フィジカルアップ(Ⅸ)】【スピードアップ(Ⅶ)】【スラッシュムーブ(Ⅳ)】【クイックカウンター(Ⅱ)】【挑発(Ⅴ)】【ディフェンスアップ(Ⅶ)】【カウンターブレイク(Ⅳ)】【ギガクエイク(Ⅲ)】【シールド・アタック(Ⅳ)】【ウェイトアップ(Ⅳ)】【サーチング(Ⅴ)】【ウィンドブレイク(Ⅴ)】【スピントルネード(Ⅲ)】【空中浮遊(Ⅲ)】【嗅覚強化(Ⅱ)】【ウィンドカッター(Ⅵ)】【ウィンドスラッシュ(Ⅷ)】……NEXT

 パッシブスキル 一覧
【追放エナジー】【剣適正(Ⅸ】【盾適正(Ⅸ)】【魔力上昇(Ⅹ)】【スキル効果上昇(Ⅶ)】【身体能力上昇(Ⅹ)】【防御力上昇(Ⅹ)】【俊敏性上昇(Ⅹ)】【体力上昇(Ⅶ)】……NEXT


「ど、どうしてこんなにスキルが!?」

 ついさっきまで、【ヒーリング】しか所持していなかったはずだが、一気に20個以上も増えている。
 しかも、一番最後のスキルの後ろに、NEXTと書かれているので、そこを押せばさらにスキルが載っているということだ。

 アクションスキルというのは、所持者の意志で発動して効果を発揮するものだ。
【ヒーリング】であれば、発動すれば対象の軽傷を治すことができる。

 それに対して、パッシブスキルというのは、本体の意志関係なく常に発動しているものだ。中には特定の状況になると自動で発動するスキルもある。

(あれ、このスキルってデフェロットさんやレニナさんの所持スキルだよな)

 スキル画面に映っているスキルのほとんどを、ララクは知っていた。
 先程、パーティー契約を解除したばかりの【疾風怒涛】メンバーたちの所持スキルばかりなのだ。

 猛剣のデフェロット 剣などのスキルは彼の所持スキルだ。
 守護戦士ガーディア 盾や仲間を守るためのスキルは彼の物。
 狐風のレニナ    風を操るスキルや嗅覚を強化するスキルの所持者は彼女だ。

(もしかして、このパッシブスキルの影響?)

 そんな多彩なスキルを、何故ララクが急に手にすることができたのか。
 それは、ララクがついさっき手に入れたあるパッシブスキルが関係していた。

 ララクは、気になった【追放エナジー】という見たことも聞いたこともないスキルに手を触れた。
 すると、別の小さな画面がさらに映し出される。
 そこには、選択したスキルの詳細が記されていた。

【追放エナジー】詳細

 獲得条件……パーティー契約を100回解除される。自分から解除した場合、あるいはわざと解除された場合はノーカウント(通算100回)。

 効果……パーティー契約を解除してきた相手、並びにそのパーティーメンバーのスキルを獲得できる。
 同じスキルがある場合、その数だけ効果が上昇する。


(っえ、これって今までパーティーを組んだことのある人たちのスキルを、僕が使えるってこと?
 まさかこれって、噂の隠れスキル??)

 通常、スキルはレベルアップすることで追加される。
 しかし、中には何らかの条件をクリアすることで、会得できるものもある。

【追放エナジー】のような、条件が難しく獲得可能者が少ないスキルは、俗に隠れスキルと言われている。

 ちなみに、この隠れスキルを判明させることのできる希少なスキルも存在する。

 そのため、ララクは今まで「100回追放される」という獲得条件を知らずに、自然と条件を満たしたということだ。

「……この力があれば、もっとボクは戦える。これで、一人前の冒険者になれるかもしれない」

 生気の薄かった彼の顔に、一筋の光が差し込んだ。
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