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2話

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次の日になればまたすぐにつらい訓練が始まる。
走り込みに筋力トレーニングは朝早くに起きて始める。メニューが終わったら朝食を早々に食べ終え剣技の訓練に移る。私、改め俺の得物はナイフで普通の剣は得意ではないけれど、カインくんは自分の得物でなくても使いこなしていたから俺もできるようにしなくちゃいけないのだ。

「まずは自分の得物を理解しろ。自分の手に会った武器を探すんだ。」

「はい。」

アベルは最初は自分の武器探しから始まった。剣や弓、ナイフや棍といったいろんな武器を渡されては振ってを行っていた。
最初から俺と一緒に訓練なんてことになったらどうしようかとも思っていたけれど、そういうつもりは父にはなかったらしい。

「せいっ!!」

「うっ!!」

するとずいぶん俺はアベルのことを気にしすぎていたようで、打ち合い相手に木刀を当てられてしまった。
しりもちをついて木刀を弾き飛ばしてしまった。

「どうしたんすか?坊ちゃん。随分と気が散ってるじゃないっすか。」

「……すまないダドリー。」

「そんなに弟が気になるんすか?」

「そういうわけじゃない……」

俺のわかりやすい嘘を聞いてダドリーは呆れたようにため息を吐いた。
ダドリーが下を向くのと同時に髪がその爽やかな顔にかかる。

ダドリーはヒルデガルド家の専属騎士団の人間だ。17歳で俺とは4歳差。騎士団では若輩も若輩だからよくパシられてるのを見るけど、最近では俺のいい打ち合いの相手だった。

くすんだ赤髪と黄色の瞳は彼の爽やかで人のいい笑みを一層際立たせていた。領地内の町で過ごしていたらしく、この騎士団では数少ない俺と気軽に接してくれる団員の一人だった。

「どの口が言うんすか…ホント旦那様に見つかったらただじゃすまないっすよ?」

「わかってる。」

他の事に気を取られて一本取られたなんて知れたら、それこそ説教じゃすまされない。

「カイン。」

「!?は、はい。なんでしょうか…父様」

噂をすれば何とやら。後ろから聞こえてきた冷たい声に思わず肩が上がった。
気が付くとすでにダドリーはおらず、逃げたことがうかがえた。
見られていたのかと思いながら恐る恐る父様を見上げると父様は目線だけで奥にいるアベルを指示した。

「アベルの武器が決まった。私は仕事があるから、これからはお前が指導しなさい。」

「も、もうですか?」

あまりにも早すぎる。俺の時は3日ぐらいかかったのに……
しかも俺が指導って、まじかぁ。

「お前と違って得手不得手がわかりやすかったからな。何か問題でも?」

「いえ……ありません。」

「そうか。」

背を向けて去っていく父の背中を見て俺はこっそりとため息を吐く。本当にあの人は苦手だ。仕事に真面目な姿勢は尊敬しているけれど冷たい声と瞳を向けられるのに未だ慣れない。

「兄さん。」

「あぁアベルか。武器が決まったと聞いた。いったい何になったんだ?」

「針です。」

うーんこればっかりはちゃんとゲーム通りに進んでるかわかんないんだよなぁ。
アベルはカインくんを殺すとき、態とカインくんの得物を使って殺して来た的なことを言っていた気がする。
……逆にゲームに出てこないってことはあんまり関係ないのかな……?

「針なら、接近戦になるが使いようによっては暗殺向きだ。毒についていくらか知ってるか?」

「……すみません。」

「いやいい。午後はそれらを含めた勉強になる。」

午後になれば勉強の時間になる。一緒に勉強すると言っていたからその時に教えればいいだろう。
俺はカインが持っていた針と同じ大きさの針を持つ。針の使い方は随分前に理解したから教えることに問題はないだろう。

「針は剣と使い勝手が違う。暗殺に使うならばすれ違いざまを、戦闘に使うのならば急所を確実に突け。」

アベルを刺さないように柄の方をゆっくりと突きつけていく。
目、喉、心臓、そこに柄を突きつければ何かを感じたのか、アベルは数歩後ろに下がった。

「人は即死することはそうそうない。まずは目をつぶして相手から反撃の手段を奪う。喉をつぶして仲間を呼ぶ手段を奪う。この時強く刺せば刺すほど致命傷になるし、逆に浅くすれば苦痛を与えながら相手を情報源にすることもできる。」

どうして俺は将来俺を殺すかもしれない相手に人を殺す術を与えているんだろう。
でも仕方ない。きっとカインくんはこの時こうやって弟にちゃんと教えていたんだから。
大丈夫。恐怖を隠すことぐらい、きっとわけがない。俺は俺じゃなくカイン・ヒルデガルドなのだから。

「そして最後に……心臓だ。人間の生命の中心といってもいいここは絶対に外すわけにはいかない。それに、これに毒が加われば攻撃力はもっと上がる。……随分と良い武器を選んだな。」

「…っ!!」

次の瞬間、急に目にも止まらぬ速さでアベルが後ろに飛びのいた。
一体急に何事かとも思ったがよくよく見るとアベルの顔色は真っ青になって嫌な汗も流していた。

「アベルどうした?顔色が悪いぞ。」

「う……ぁ」

駆け寄れば動揺した声を上げた後聞こえもしないような小さい声で何事か呟くとアベルは俺の腕を振り切って走って行ってしまった。
残された俺は呆然とそこに立ち尽くすしかなかった。
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