2 / 4
第一章
(1)
しおりを挟む
「オン・コロコロ・センダリマトウギ・ソワカ」
その祈りの声は、力が込った重々しいものだった。
「あの……験者様、本当に大丈夫……?」
だが、聞いている者が何か不安になるような……芝居がかった……それも田舎芝居がかったものだった。
その家の主は、従五位の下……一応は帝の居る清涼殿に昇殿を許される大蔵大夫だった。
と言っても河内かどこかに所領を持っており、従五位の位と大蔵大夫の役職も賄賂で「買った」ものらしいが……。
よりにもよって都で伝染病が猛威を振っている最中に、その大蔵大夫の娘が妊娠してしまい、安産祈願の為に修験者の龍水が呼ばれる事になったのだが……。
「あの……娘の胎内の子の父親は、さるやんごとなき公卿でして……」
「オン・コロコロ・センダリマトウギ・ソワカ」
「もし、万が一の事が有りますと……我が一族の将来にも……」
「オン・コロコロ・センダリマトウギ・ソワカ」
「えっ?」
家の主は、素頓狂な声を上げた。
護摩壇の横に座っていた修験者の連れの憑坐の童女が大欠伸をしたのだ。
「叔父ちゃん……お礼もらうんだから、もう少し真面目にやろうよ……」
「な……?」
「いくら、八方塞がりだからって……力を使わずにフリだけってのは、どうかと思うよ」
「はあっ?」
「あ……この憑坐にモノノケが取り憑いたようで……」
「あ……あたし、マズい事、言っちゃった?」
「待て……この小娘の言ってる事は……本当か?」
「あ……あの……その……」
「答えろ。本当か?」
「本当。下調べをやった時に、ウチの叔父ちゃんより遥かに力や腕前が上の人でも苦労しそうだってのが判ってた」
「ま……待て……では、儂の娘とその子供は……?」
「多分、両方とも死ぬ。あと……修法なんかを、やればやるほど、更にマズくなる。家族や修法を行なった人まで死ぬ」
「……」
「あ……あの……」
「出ていけ~ッ‼」
その祈りの声は、力が込った重々しいものだった。
「あの……験者様、本当に大丈夫……?」
だが、聞いている者が何か不安になるような……芝居がかった……それも田舎芝居がかったものだった。
その家の主は、従五位の下……一応は帝の居る清涼殿に昇殿を許される大蔵大夫だった。
と言っても河内かどこかに所領を持っており、従五位の位と大蔵大夫の役職も賄賂で「買った」ものらしいが……。
よりにもよって都で伝染病が猛威を振っている最中に、その大蔵大夫の娘が妊娠してしまい、安産祈願の為に修験者の龍水が呼ばれる事になったのだが……。
「あの……娘の胎内の子の父親は、さるやんごとなき公卿でして……」
「オン・コロコロ・センダリマトウギ・ソワカ」
「もし、万が一の事が有りますと……我が一族の将来にも……」
「オン・コロコロ・センダリマトウギ・ソワカ」
「えっ?」
家の主は、素頓狂な声を上げた。
護摩壇の横に座っていた修験者の連れの憑坐の童女が大欠伸をしたのだ。
「叔父ちゃん……お礼もらうんだから、もう少し真面目にやろうよ……」
「な……?」
「いくら、八方塞がりだからって……力を使わずにフリだけってのは、どうかと思うよ」
「はあっ?」
「あ……この憑坐にモノノケが取り憑いたようで……」
「あ……あたし、マズい事、言っちゃった?」
「待て……この小娘の言ってる事は……本当か?」
「あ……あの……その……」
「答えろ。本当か?」
「本当。下調べをやった時に、ウチの叔父ちゃんより遥かに力や腕前が上の人でも苦労しそうだってのが判ってた」
「ま……待て……では、儂の娘とその子供は……?」
「多分、両方とも死ぬ。あと……修法なんかを、やればやるほど、更にマズくなる。家族や修法を行なった人まで死ぬ」
「……」
「あ……あの……」
「出ていけ~ッ‼」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
「悪の組織」からの足抜けを手伝いますッ♥/第一部「安易なる選択−The Villain's Journey−」
蓮實長治
SF
現実と似ているが「御当地ヒーロー」「正義の味方」によって治安が維持されている世界。
その「正義の味方」が始めた新しい「商売」である「悪の組織からの足抜けと社会復帰の支援」を利用して、落ち目になった自分の組織の「お宝」を他の組織に売り渡し、輝かしい第二の人生を始めようとしたある悪の組織の幹部(ただし、幹部の中でも下の方)。
しかし、のっけから事態は予想外の方向に……。
同じ作者の別の作品と世界設定を共有しています。
「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「pixiv」「Novel Days」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。
(pixiv,GALLERIAは完結後の掲載になります)
こちらに本作を漫画台本に書き直したものを応募しています。
https://note.com/info/n/n2e4aab325cb5
https://note.com/gazi_kun/n/nde64695e2171
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる