頭がおかしい阿呆に監禁されてる以外は、ごく平凡なサイコパス連続殺人鬼ですが……

蓮實長治

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頭がおかしい阿呆に監禁されてる以外は、ごく平凡なサイコパス連続殺人鬼ですが……

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「書き直して下さい」
「……待て……何度目だ、これ?」
「もっと、いいアイデア出さないと……食事は2日に1回に減らしますよ」
 くそ……こいつに監禁される前は……この俳優のファンだった。
 でも……俳優とか漫画家とか小説家とかの真の姿を知るとガッカリする事が多い。
 しかし……どうやれば……こいつに……わからせる事が出来るんだ?
 それも……俺自身が……「何となく」しか判ってない巧く言葉に出来てない事を……。

 ドゴォッ‼
 自分でもビョ~キだと思ってる、あの衝動を解消し、俺の欲望の犠牲になった哀れな一家が住んでた都心まで電車で1時間・最寄り駅までバスで二〇分ぐらいの場所に有る一戸建てを出た途端……頭に衝撃を感じた。
 自分自身にはビョ~キの治療だと言い訳してる人殺しを終えた後は、どうしても、変な感傷に囚われてしまう。
 時々、俺に目を付けられたのが運の尽きな一家の血で、壁に「俺を止めてくれ」とか書いてしまうぐらいだ。
 だから、油断していた。
「あれ? 中々、気絶しないモノだな」
「な……何しやがる、てめえ?」
「おっと」
 ゴン‼ ゴン‼ ゴン‼ ゴン‼
 殴ったな。
 ゴン‼ ゴン‼ ゴン‼ ゴン‼
 また、殴ったな。
 親父にも殴られた事無いのに、とか言うつもりは無い。
 俺の親父は……俺を全く殴らなかった訳でも、極端なDV親だった訳でもない。
 善い点も悪い点もあると云う意味では普通の親だ。
 まぁ、あの年齢の男が息子を殴る頻度としては、こんなモノだろ、程度に俺を殴ってたと云う意味でも普通の親だ。
 俺は、その他、ありがちな理由で連続殺人鬼になったんじゃない。
 俺が殺人鬼になったのは……多分、過去のトラウマのせいじゃない。
 何となくだ。
 気付いたら、病み付きになってただけだ。アル中がアル中になった切っ掛けを良く覚えてないのに近い。……多分だけど。
 時々、義務感で殺してる時も有る。
 普通の人間が、休みの日ぐらい運動してみるか、とか、来週一週間は、いつもより1本早い電車で職場に行ってみるか、とか、いつやってもかまわない自宅の便所掃除を今日の内にやっておくか、と思う事が有るのに近い。……多分だけど。
 つまり、俺が連続殺人鬼になったのに、判り易い何か劇的な理由が有る訳じゃない。ヤク中になるのに、過去のトラウマとか親がアレだったからとかの有りがちな理由が無いのに近い。……多分だけど。
 よくある「生まれ付き」と「その後の運命や偶然」の共同作業の結果だろう。思い返してみても連続殺人鬼になるまでに、それまでの生き方をガラッと変えるほどの何か重大な決断をやったり、自分の心の中の良心やら人間性やらの大事な何かを捨てたり殺したりした記憶が無い。
 普通の連続殺人鬼として、普通に人殺しを続け、普通に警察に捕まって、普通に「容疑者は、殺せるなら誰でも良かった、と供述しており」とか報道されて、普通に死刑になるだろう……。捕まる時や、死刑になる時は……見苦しい真似とかすんだろ~なぁ~、とか普通に思ってたのに……何か普通じゃない末路が待ってた。
「って、お前、誰?……がががががが……」
 俺をバールのようなモノで何度も殴り付けた何者かは……中々、俺が気絶しないのを見て、俺にスタンガンを押し当てた。

「探しましたよ、古川リョウさん」
「へっ? あ……あんた……たしか……」
 目がさめると……目の前に居たのは……そこそこ以上に知られた俳優だった。
 たしか、ド○○エをパロった深夜ドラマで主演をやってたり……でも、最近は、監督の方に商売替えをしたようだが……どうも、そっちの方では鳴かず飛ばずだったような……。
「いや……あなたが一連の連続殺人事件の犯人だと特定するのは大変でしたよ。……県警同士が仲が悪い3つの県にまたがって犯行をしてなかったら……警察に先を超されてたでしょう」
「はぁ……そ……そうかい」
「では、助かりたければ、私に協力して下さい」
「いや……ちょっと待て、あんた、言ってる事が変だぞ」
「そう、そこが問題なんです」
「はぁ?」
「僕は……もっと変になりたい。でも……僕の中の常識やモラルが邪魔をする」
「すまん。俺みたいなブッ壊れたロクな末路が待ってねえ人間からすると、皮肉抜きでホントに結構な事にしか思えねえが……」
「何を言ってんですか? あなたは、極悪人だと思ってたのに……そんな常識人だったなんて……」
「わ……わかった……極悪人になる。自分の内なる野獣を解き放つ。あんたの為なら……第2のヒトラーにだってなってやる。だから……その……」
 俺の足には……頑丈そうな鎖付きの……これまた頑丈そうな足枷がハメられていた。
「それでこそ……僕の見込んだ……連続殺人鬼です」

 その俳優は……俺に犯罪モノの映画のアイデアを出せと言ってきた。
 極悪人が考える超極悪こそ……ポリコレだかコンプラだかに囚われた頭が固い奴を震え上がらせる超極悪な話になる筈だ……。
 そう思ったらしいが……。
「あの……何で、出たアイデアの8割で、警察が悪なんですか?」
「いや……だって……」
 悪と言うのが自分の存在を脅かすモノなら……そりゃ、俺みたいな連続殺人鬼にとっての「悪」が何かは言うまでも無い。
「あのですねぇ……腐敗警官モノも、ダーティ・ハリー症候群も、もうネタは出尽してんですよ。何、連続殺人鬼のクセに、こんな出涸らしみたいな……」
 ぐぅ……。
 腹が鳴った。
「す……すまん……空腹で……脳に栄養が行ってない……。だから……頭が回らない……。たのむから……飯だけは……」
「駄目です。僕が満足するアイデアが出るまで、食事は3日に1回です」

「あのねえ……何、考えてんですか?」
「……」
「『連続殺人鬼を監禁して、次回作のアイデアを出させようとする映画監督』って、誰が、そんな無茶苦茶な『悪』にリアリティを感じるんですか」
「……」
 俺です。
 俺が置かれてるクソな現実リアルそのものです……。
「明日までに、何としてもアイデアを出して下さい」
「……」
「返事は?」
「……はい……」

「結局、何も、アイデアを思い付けなかったのかよ? 連続殺人鬼のクセに、使えねえな、あんた」
「……」
 あ~あ……これって……傍から見たらギャグなんだろうなぁ……。
 ギャグにしては陰惨だが……。
 大体、何で、連続殺人鬼の俺より、明らかにおかしい奴が、今まで社会生活……待て……。
「ちょっと待て……喩え話をさせてくれ……」
「僕が求めるアイデアに関係有る話なら、聞いてあげますよ」
「たとえば、頭のおかしい阿呆がやってる事は傍で見てて笑える事が有るかも知れねえ。だからと言って、そいつにとっての『普通』が傍から見てると笑えるような頭のおかしい阿呆にお笑いの台本を書かせてもだな……」
 ザクッ‼
 俺が言いたい事を言い終える前に、俺の頚動脈をスコップが断ち切った。
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