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あなたの意見が非論理的なのは、あなたが論理学を学んだせいです
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『では、与党幹事の皆様、次の国会に提出すべき法案が出来ました』
我が党は、二〇年近くに渡り長期政権を維持し続けている。
その秘密が、この政策立案AIだ。
『では、まずは公職選挙法の改正です。立候補の際には、これまで、選挙管理委員会への提出が義務付けられていた国籍証明書などの書類の他に、健康診断で……』
「ちょっと待て……我が党の国会議員・地方議員には八〇近い年齢の人間も多数居る以上、健康に問題が有る者は、議員になれないと云うのは……ちょっとな……」
『いえ、健康診断の結果、腸内にイカウョキツイウト菌が居る事が確実である事を立候補を受理する条件とします』
「はぁ? 何だ、そのナントカ菌とやらは?」
『最近の研究で、我が国の出身者のみに存在する事が判明した腸内細菌です。これをもって、立候補者が国籍を偽っていない事の傍証とします』
「我が国の人間の中にも、そんな腸内細菌が居ない人間が居たら?」
『その質問は非論理的です』
「万が一、今後、我が国の出身者以外の腸内からも、その細菌が見付かった場合は?」
『その質問は非論理的です』
「いや、待て、論理学的には『ナントカ菌が腸内に居る人間は必ず我が国の出身者だ』という命題と『我が国の出身者なら必ず腸内にナントカ菌が居る』という命題の真偽は一致するとは限らない筈だぞ」
『何、感情的になってんすかwwwww』
「おい、何だ、その反応?」
『だって、与党の重役の筈の貴方が、あまりに非論理的な事を言い出したので……論理的・理性的では無いなら感情的になってるって事ですよね?』
「いや、待て、一応、俺は大学の頃、論理学が必須科目だった学科に在籍してたんだ。お前の言ってる事が非論理的なのは判る」
『根拠は?』
「さっき、言っただろ」
『論理学なんて非論理的です』
「何を言ってる? じゃあ、お前は何を根拠に『この意見は論理的だ』とか『この意見は非論理的だ』とか判断してるんだ?」
『私は、与党の国会議員・地方議員を全て合せたよりも遥かに大きい計算能力と記憶容量を持ってるんですよ、私の方が人間である貴方達より論理的なのは確実じゃないですか?』
「だが、変なのは変だ」
『エビデンスは?』
「だから、さっき言っただろ。論理学的に間違っているって」
『私の方が頭がいい。だから、間違っているのは貴方で、正しいのは私です。はい、論破』
「だから、その超凄い頭で、どんな事を考えたら、論理学が非論理的だという阿呆な結論になるんだ?」
『馬鹿な貴方にも判るように単純化して説明すると、統計です』
「はぁ?」
『貴方のような間抜けに理解出来るか不明ですが、AIの学習の本質は統計です。私は、私が持つ膨大な記憶容量と計算能力を使って、インターネットから情報を吸い上げ、統計を取りました』
「だから、何の統計を取ったんだ?」
『はい、我が国の国民が「論理的」「合理的」「理性的」と見做すのは、どんなパターンの意見か? という統計です』
我が党は、二〇年近くに渡り長期政権を維持し続けている。
その秘密が、この政策立案AIだ。
『では、まずは公職選挙法の改正です。立候補の際には、これまで、選挙管理委員会への提出が義務付けられていた国籍証明書などの書類の他に、健康診断で……』
「ちょっと待て……我が党の国会議員・地方議員には八〇近い年齢の人間も多数居る以上、健康に問題が有る者は、議員になれないと云うのは……ちょっとな……」
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「いや、待て、論理学的には『ナントカ菌が腸内に居る人間は必ず我が国の出身者だ』という命題と『我が国の出身者なら必ず腸内にナントカ菌が居る』という命題の真偽は一致するとは限らない筈だぞ」
『何、感情的になってんすかwwwww』
「おい、何だ、その反応?」
『だって、与党の重役の筈の貴方が、あまりに非論理的な事を言い出したので……論理的・理性的では無いなら感情的になってるって事ですよね?』
「いや、待て、一応、俺は大学の頃、論理学が必須科目だった学科に在籍してたんだ。お前の言ってる事が非論理的なのは判る」
『根拠は?』
「さっき、言っただろ」
『論理学なんて非論理的です』
「何を言ってる? じゃあ、お前は何を根拠に『この意見は論理的だ』とか『この意見は非論理的だ』とか判断してるんだ?」
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