魔導兇犬録

蓮實長治

文字の大きさ
上 下
14 / 20
第一章:海にかかる霧

(13)

しおりを挟む
 まだ「本物の東京」が無事だった頃、俺が所属していた魔法結社「薔薇十字魔導師会・神保町ロッジ」は「本物の靖國神社」まで地下鉄で一駅……「本物の東京」で地下鉄で一駅ってのは余程の年寄か体が不自由でもない限りは歩いて行ける距離って意味だ……の所に有った。
 毎年、八月一五日になると、右翼の街宣車が流す軍歌が聞こえ……いや、軍歌だけじゃなくて、何故か、クラシックや昔の歌謡曲を流してるのも有ったが……近くの大通りでは右翼団体の構成員と警察の機動隊員が追いかけっこをやっていたり、車両が通行止めになってたりした。
 良く有る終戦の日の風物詩だった。
 そうだ……八月一六日……前日の喧騒の反動で、どこか気が抜けたような気がしていた日に、突然、富士山が火を吹き、旧首都圏と旧政府は壊滅し……俺は生き残る事こそ出来たが……。
 俺が居た「魔法結社」の呼び方では「第2階梯セカンド・オーダー」「内陣結社インナー・サークル」と呼ばれる「幹部クラス」の一員になったばかりで……少しばかり思い上がっていた俺は……あまりの天災を前にして、何も出来ぬまま呆然と立ち尽し……その代り、俺を助けてくれたのは……何の「異能力」も持たない一般人だった。
 あの時……俺は……自分の力への信頼を失ない……。
 そこまで思い出して……再び、呼吸を整え……心を落ち着かせる。
 そう言えば……東京……それも「本物の靖国神社」の目と鼻の先……に居た十年ほどの間、よくよく考えたら「本物の靖国神社」に行った事は片手の指で数える程しか無かった。
 多分、この「偽物の靖国神社」は、結構、良く出来た「偽物」なんだろう。
 でも、どこまで「本物」に似てるかは……はっきり言って判らねえ。
 バカデカい青銅の鳥居と、この神社のオリジナル版を作ったらしい幕末の侍の銅像が俺達を出迎えてくれた。
 「偽物の浅草」に有るらしい超巨大雷門なんかとは違って、どうやら原寸大のようだ。
 本物は、富士山から吹き出す火山性ガスが雨雲に混ったせいで降った酸性雨のせいでエラい事になってるらしいが。
 「バイオテクノロジーで作られた一年中花を咲かせる桜」が辺り一面、この町の他の場所にも増してゾロゾロと有るが、霊感が有る奴にとっては「嫌な感じのする町にビョ~キの木がウジャウジャ生えてる」ようにしか思えねえだろう。
 外国から来た観光客の中には、呑気に花見をしてるのも居るが……俺からすると、腐臭のする中、腐りかけた花をでながら飲み食いしてる面白おかしい変態どもに見えない事もない。
「そう言や、『本物』が無事だった頃、この見世物小屋には一度も入った事が無かったな……」
「その手の話は、ここの『従業員』に聞こえないように言って下さい。ここの『従業員』にとっては、こここそが『本物の靖國神社』なんですから」
「探ったらマズいか?」
 お目当てのブツは……この「遊就館」とか云う見世物小屋の地下倉庫に有るらしい。
「多分、『気』を探ったら……『英霊顕彰会』にバレますね」
 霊的・魔法的なモノを検知する手段は、大きく分けて2種類有る。
 1つは、パッシブ・センシング。こっちは何もせずに、相手が放つ気配・気・魔力・霊力などを検知する。
 この方法は、相手に、こっちが探っている事を気付かれる危険性は小さいが……得られる情報の精度はイマイチ。
 もう1つは、アクティブ・センシング。こっちから「気」を放ち、相手の反応を見る。
 この方法は、得られる情報の精度は高くなるが、相手に気付かれる危険性が有る。
 そして、「得られる情報の精度は高くなる」と言っても、どこまでの情報を得られるかは、やるヤツの技量うでに依存する。医者の打診や聴診みたいなモノで……結構な職人芸であり、当然ながら、長い間「現場」から離れていれば、適切なタイミングで適切な探り方をやったり予想外の反応が起きた時に事態の把握や対処を短時間で行なう為の「勘」や「経験値」は失なわれていく。
 パッシブ・センシング的な「探り方」では、それらしい呪物の気配は感じられない。
 吾朗や、かつての妹弟子にして現・総帥の話が本当でも……多分、集められた呪物の周囲には、呪物の気配や力を隠す「結界」が張られている。
 そして……そこそこの技量うでが有る「魔法使い」系のヤツなら……その「結界」内を「気」で探ろうとしたヤツが居たなら、その事を検知出来るようにしているだろう。
 最盛期の俺なら……「中に有る呪物の気配を隠す結界」「誰かが中を『魔法的』な手段で探ろうとしたら、その事を検知する結界」の裏をかけたかも知れねえ……。
 けど、それをやるには……綿密な下準備・下調べと、かなり微妙で職人芸的な「気」の制御と長時間の精神集中が必要になる……。そうだ……喩えるなら……金庫破りの名人が金庫の番号を探り出すような……侵入予定の建物の図面を元に、防犯カメラの死角になる侵入・逃走ルートを割り出すような……「勘と経験」と「綿密かつ合理的な思考」の両方が必要になる。今の俺は、どちらも失なった。
「ああ……バレるな……。特に……今の俺だと……」
「ま……今回は下見って事で……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Neo Tokyo Site 01:第一部「Road to Perdition/非法正義」

蓮實長治
SF
平行世界の「東京」ではない「東京」の千代田区・秋葉原。 父親の形見である強化服「水城(みずき)」を自分の手で再生させる事を夢見る少年・石川勇気と、ある恐るべき「力」を受け継いでしまった少女・玉置レナは、人身売買組織に誘拐された勇気の弟と妹と取り戻そうとするが……。 失なわれた「正義」と「仁愛」を求める「勇気」が歩む冥府魔道の正体は……苦難の果てにささやかな誇りを得る「英雄への旅路」か、それとも栄光と破滅が表裏一体の「堕落への旅路」か? 同じ作者の「世界を護る者達/御当地ヒーロー始めました」「青き戦士と赤き稲妻」と同じ世界観の話です。 「なろう」「カクヨム」「pixiv」にも同じものを投稿しています。 こちらに本作を漫画台本に書き直したものを応募しています。 https://note.com/info/n/n2e4aab325cb5 https://note.com/gazi_kun/n/n17ae6dbd5568 万が一、受賞した挙句にマルチメディア展開になんて事になったら、主題歌は浜田省吾の「MONEY」で……。

Storm Breakers:第一部「Better Days」

蓮實長治
SF
「いつか、私が『ヒーロー』として1人前になった時、私は滅びに向かう故郷を救い愛する女性を護る為、『ここ』から居なくなるだろう。だが……その日まで、お前の背中は、私が護る」 二〇〇一年に「特異能力者」の存在が明らかになってから、約四十年が過ぎた平行世界。 世界の治安と平和は「正義の味方」達により護られるようになり、そして、その「正義の味方」達も第二世代が主力になり、更に第三世代も生まれつつ有った。 そして、福岡県を中心に活動する「正義の味方」チーム「Storm Breakers」のメンバーに育てられた2人の少女はコンビを組む事になるが……その1人「シルバー・ローニン」には、ある秘密が有った。 その新米ヒーロー達の前に……彼女の「師匠」達の更に親世代が倒した筈の古き時代の亡霊が立ちはだかる。 同じ作者の別の作品と世界設定を共有しています。 「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「pixiv」「Novel Days」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。(pixivとGALLERIAは掲載が後になります)

Neo Tokyo Site 01:第二部「激突‼ 四大魔法少女+2‼ − Asura : The City of Madness −」

蓮實長治
SF
平行世界の「東京」ではない「東京」で始まる……4人の「魔法少女」と、1人の「魔法を超えた『神の力』の使い手」……そして、もう1人……「『神』と戦う為に作られた『鎧』の着装者」の戦い。 様々な「異能力者」が存在し、10年前に富士山の噴火で日本の首都圏が壊滅した2020年代後半の平行世界。 1930年代の「霧社事件」の際に台湾より持ち出された「ある物」が回り回って、「関東難民」が暮す人工島「Neo Tokyo Site01」の「九段」地区に有る事を突き止めた者達が、「それ」の奪還の為に動き始めるが……。 「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「pixiv」「Novel Days」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。(pixivとGALLERIAは掲載が後になります)

リインカーネーション

たかひらひでひこ
SF
いく度もの転生、再びの出会いを繰り返す、えにしの者たち。 それぞれが綾なす人生は、どう移り変わっていくのか。 オレは、新しき出会いに、めまぐるしく運命を変遷させる。

―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――

EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。 そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。 そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。 そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。 そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。 果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。 未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する―― 注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。 注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。 注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。 注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

Dive

日向 和
SF
[穴の中の子グマ大界を知る。されど……] 自分の世界が家の中だけだった女の子が、小学校入学して広い世界を知っていく話。 注意点 ・主人公が出てこない事が多い(頭に×のある話は出ません) ・サイエンスフィクションというよりサイエンスファンタジー ・子グマは少しチートかもしれません ・大熊は一部バグってるかもしれません ・話の展開はゆっくりです ・恋愛<成長

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

処理中です...