30 / 32
二年目 四月上旬 憲法学者・中沢清介
しおりを挟む
「送付していただいたペーパーは疑問箇所に赤を入れて、そちらに送りました。私の理解では、与党執行部としては、一部で唱えられている『シン日本男子のY染色体の積極的保護』を合憲とする憲法解釈は有り得るか? と言いたい訳ですね」
調査委員会に所属する憲法学者の中沢は、研究室のPC上で起動しているビデオ・チャットで連絡役の官僚に、そう訊いた。
「は……はい」
「では、申し上げます。そんな憲法解釈は有りません。他の憲法学者も同じ意見でしょう」
「そ……そんな……」
「そもそも、与党は改憲派の議員が多数を占めている筈だ。憲法第二十四条を改正する改憲案を出せば良いのでは?」
「しかし、それをやると、最早、日本は諸外国から非人道的な国家としか見做されなくなります」
「解釈改憲でも、本当の改憲でも、『国が特定の条件を満す男性に結婚相手の女性をあてがう』ような事をすれば、諸外国は、最早、日本を非人道的な国家としか見做さなくなりますよ。その覚悟無しにやるべき政策じゃない」
「は……はぁ……」
「やるとするなら、公的機関が介在しない民間の企業や団体が……マッチング・アプリでしたっけ? そう云うモノを使ってやるならば、合法でしょうが……」
「なるほど……それで検討しておきます」
「あと、調査委員会の法律部門のメンバーを増やしていただく事は可能ですか? このままでは、当初予想したよりも作業量が約2倍になる可能性が高いので」
「どう云う事でしょうか?」
「まず、前提として、ある社会におけるマジョリティ・マイノリティは単なる数の問題では無い。構成員の大半が奴隷状態にある社会では、数で勝る奴隷状態にある人々がマイノリティになる。極端な女性差別が横行している社会では、その社会の男女比が1:1に近くても、女性はマイノリティになる」
「あ……あの……それが何か?」
「我々は、これまで特異型男性がマイノリティになる可能性のみを考慮して、それに対応する法改正を検討してきた……。しかし、状況は変わりつつ有る」
「あ……あの……どう云う事でしょうか?」
「今の状況では、2パターンの法改正の検討が必要になります。マイノリティとなった特異型男性をそれ以外の人々から護る為の法改正と、特異型男性が特権階級と化すのを防ぐ為の法改正の両方の検討が必要になると考えます」
調査委員会に所属する憲法学者の中沢は、研究室のPC上で起動しているビデオ・チャットで連絡役の官僚に、そう訊いた。
「は……はい」
「では、申し上げます。そんな憲法解釈は有りません。他の憲法学者も同じ意見でしょう」
「そ……そんな……」
「そもそも、与党は改憲派の議員が多数を占めている筈だ。憲法第二十四条を改正する改憲案を出せば良いのでは?」
「しかし、それをやると、最早、日本は諸外国から非人道的な国家としか見做されなくなります」
「解釈改憲でも、本当の改憲でも、『国が特定の条件を満す男性に結婚相手の女性をあてがう』ような事をすれば、諸外国は、最早、日本を非人道的な国家としか見做さなくなりますよ。その覚悟無しにやるべき政策じゃない」
「は……はぁ……」
「やるとするなら、公的機関が介在しない民間の企業や団体が……マッチング・アプリでしたっけ? そう云うモノを使ってやるならば、合法でしょうが……」
「なるほど……それで検討しておきます」
「あと、調査委員会の法律部門のメンバーを増やしていただく事は可能ですか? このままでは、当初予想したよりも作業量が約2倍になる可能性が高いので」
「どう云う事でしょうか?」
「まず、前提として、ある社会におけるマジョリティ・マイノリティは単なる数の問題では無い。構成員の大半が奴隷状態にある社会では、数で勝る奴隷状態にある人々がマイノリティになる。極端な女性差別が横行している社会では、その社会の男女比が1:1に近くても、女性はマイノリティになる」
「あ……あの……それが何か?」
「我々は、これまで特異型男性がマイノリティになる可能性のみを考慮して、それに対応する法改正を検討してきた……。しかし、状況は変わりつつ有る」
「あ……あの……どう云う事でしょうか?」
「今の状況では、2パターンの法改正の検討が必要になります。マイノリティとなった特異型男性をそれ以外の人々から護る為の法改正と、特異型男性が特権階級と化すのを防ぐ為の法改正の両方の検討が必要になると考えます」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ノック
國灯闇一
ホラー
中学生たちが泊まりの余興で行ったある都市伝説。
午前2時22分にノックを2回。
1分後、午前2時23分にノックを3回。
午前2時24分に4回。
ノックの音が聞こえたら――――恐怖の世界が開く。
4回のノックを聞いてはいけない。
怪異相談所の店主は今日も語る
くろぬか
ホラー
怪異相談所 ”語り部 結”。
人に言えない“怪異”のお悩み解決します、まずはご相談を。相談コース3000円~。除霊、その他オプションは状況によりお値段が変動いたします。
なんて、やけにポップな看板を掲げたおかしなお店。
普通の人なら入らない、入らない筈なのだが。
何故か今日もお客様は訪れる。
まるで導かれるかの様にして。
※※※
この物語はフィクションです。
実際に語られている”怖い話”なども登場致します。
その中には所謂”聞いたら出る”系のお話もございますが、そういうお話はかなり省略し内容までは描かない様にしております。
とはいえさわり程度は書いてありますので、自己責任でお読みいただければと思います。
オーデション〜リリース前
のーまじん
ホラー
50代の池上は、殺虫剤の会社の研究員だった。
早期退職した彼は、昆虫の資料の整理をしながら、日雇いバイトで生計を立てていた。
ある日、派遣先で知り合った元同僚の秋吉に飲みに誘われる。
オーデション
2章 パラサイト
オーデションの主人公 池上は声優秋吉と共に収録のために信州の屋敷に向かう。
そこで、池上はイシスのスカラベを探せと言われるが思案する中、突然やってきた秋吉が100年前の不気味な詩について話し始める
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる