凍て付いた死の仮面

蓮實長治

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序章

敗戦

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 勝てる筈の戦争だった。
 だが、俺達の親父か祖父じいさんの時代までは「同じ国」だった隣国を再併合する為に始まった戦争は、序盤から思わぬ苦戦が続き……気付いた時には、俺の国はボロボロになっていた。
 いや、戦争の前から、俺の国はボロボロだったのかも知れない。戦争は、最後の一押しに過ぎす、俺達が気付いていない内に、俺達の国は、いつ谷底に堕ちてもおかしくない崖っ縁に有っただけなのかも知れない。
 政界の大物達は、大統領を裏切り、他国へ亡命し……食料は不足し……俺達の国は産油国の筈なのに、軍用車両を動かす為の燃料さえ前線に届かなくなっていった。
 俺達の国の誰も「負けた」と云う実感は無いのに……俺達の国は負けていた。より正確に言うなら、自分達で始めた戦争を継続する事が出来なくなっていた。
 俺達の国に進駐してきた多国籍軍はNATO中心の筈なのに……思ったよりも色んな人種が居た。
 白いのだけじゃなくて、黄色いのも黒いのも……。
 政府は瓦解……国会は多国籍軍の命令で解散し、総選挙が行なわれ……そして、新しい「民主的」な憲法が制定され……。
 だが、旧大統領派の政治家の大半は公職追放を受けていて、立候補さえ出来なかった。
 いや……それも全て後から聞いた話だ。
 前線で兵員輸送車の燃料が尽きた俺達の部隊は、あっさり敵軍に捕まり……捕虜収容所にブチ込まれ、ようやく復員したのは、終戦……俺達の国の人間の多くは「敗戦」では無く「終戦」と言い続けていた……から2年近くが経ってだった。
 実家に帰り着いた時……家族は誰も居なかった。
 近所の連中に家族を行方を尋ねたが……。

 隣の家の夫婦は、五〇代で、子供は全員、遠く離れた都会に働きに行っている筈だった。
 だが……家の中には……赤ん坊が居た。
 多分、1歳未満の……。
「あんたの妹の子だよ」
 隣の家のおばちゃんは……そう説明したが……その赤ん坊の肌の色は……俺達とは明らかに異なっていた。
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