A2:洗脳密令

蓮實長治

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第一章:毒戦寒流

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 気を失なった男は、当然ながら……身分証明書の類は持っていない……しかし……。
「多分……警視庁の公安だよね、こいつ……」
 証拠は無い……。しかし……雰囲気や身のこなしは……「同業他社」のヤツに特有のモノだ。
「と……思いますけど……」
 何故か「同業他社」と思われる連中から、監視され、身元に関する情報を探られてたらしい以上、携帯電話で上司に連絡するのは危険だった。
 そこで、相棒が、馴染の立ち食い蕎麦屋のバックヤードの電話を借りて上司に連絡。
 あっと云う間に「人質」にされてる私の実家に、勤務先の岡山支局の「レンジャー隊」が急行する手筈を整えてもらった。
 さっきのポケベルでの連絡は……「レンジャー隊が私の実家に向かった」の意味だ。
「全く……危ない真似してるな……」
 その時、駐車場に入って来たバンの運転席には……若干の東北訛のイントネーションの無精髭の三十男。
 私達の上司である斎藤ちから警部補だ。階級は民間企業で言うなら係長クラス、通称は役職名である「チーム長」。
 当然ながら「異能力を犯罪に使う異能力者を取締る異能力者」である以上、異能力を持っており……その能力は……赤外線視力。
 いわば「熱を見る」能力なので、夏の間と昼間は能力ちからに制限が出る。
 とは言え、近くに居る人間の体温の変化から体調や感情を読み取れる上に、「非魔法系」の異能力なので、能力を使用しても「魔法」による検知が出来ない。
 もっとも、この能力には代償が有る。
「あの……チーム長が車を運転してきたんですか?」
「他の奴らは、出払ってるんでな」
「あの……よく……その……」
「慣れりゃ、何とか成るもんだよ」
 斎藤チーム長は……「赤外線視力」の代償として、赤い色と緑の色の区別が付きにくいらしい。「赤緑色盲」と呼べるほどの重度では無いが、「色弱」と言えるほどの軽度でも無いビミョ~な状態だそうだ。
 ただし、「捜査に必要」と云う理由で、特例として運転免許所持している。
「帰りは私が運転します。いいですね?」
「判ったよ」
 チーム長の「視力」は、「異能力者」の存在が判明して以降に表面化した問題の1つに過ぎない。
 少数派であっても無視出来ない程度の数の人間が、由来も強弱も……そして、どのような「能力」かも違う、あまりに多様な「異能力」を保持しており……その一部が「能力」と表裏一体の「デメリット」を持っているのなら……人間の能力や才能の優劣とは、一体、何なのか?
 能力の優劣とは、環境や状況に大きく依存するモノなのでは無いのか?
 今後、世の中が大きく変るような事が有れば……それまで「優れた能力の持ち主」だった人々が、一世代か……下手したら数年で「障害者」と化す……そんな事は無いと誰が言い切れるのか?
 異能力者の存在が明るみに出た事で多くの人々が感じている恐怖……それは、自分より優れた能力を持つ者が、どこに居るか判らない為だけではなく……「能力の優劣」の基準そのものが、いつ、引っくり返され、自分達が持って生まれた能力や、努力によって身に付けた何かが、いつ、ハンディキャップと化すか知れたものでは無いからではないのか?
 ……だが……私は、この時気付いていなかった。……私が、いつも薄々思っていた事こそが……これから私が巻き込まれる事件の本質を突いていた事を……。
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