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今の基準で過去の価値観を評価する事に対する一考察

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 正義や倫理は時代によって違うと言う意見が有る。
 我々の時代においては、正義・倫理は唯一無二だが、今の「正義」「倫理」と百年後の「正義」「倫理」が同じとは限らない。
 今の「正義」「倫理」は目的を達成すれば、時代遅れのものとなり、次なる時代に対応した新しい「正義」「倫理」が○△◇∴(注1)より授けられるだろう。
 一方で百年後の「正義」「倫理」を今の時代に適用すれば、それは、能力・人格などが発展途上にある子供に大人と同じ事をやらせるような無理が生じるだろう。
 その過程を経て、我々人類は、○△◇∴の理想に近付いていく。
 ○△◇∴の▼■×◎(注2)以降の「正義」「倫理」とは、そのようなモノだ。

 しかし、過去の「正義」「倫理」は違う。その時代における「唯一絶対の正義・倫理」が確固として存在する我々の時代の「常識」をもって、「過去」を理解しようとしてはならない。
 例えば、18世紀アメリカ南部において、奴隷制度は「正義」「倫理」だったか? を考えてみよう。
 当然ながら、奴隷主である白人、奴隷を持てるほどの財産の無い白人、奴隷である黒人、解放奴隷である黒人、あの時代にアメリカ南部に存在してはいたであろうが少数派だった中南米系などの様々な人々で「奴隷制度」についての考えは変ってくるであろう。
 そして、○△◇∴の▼■×◎以降と以前では、別の点も異なってくる。
 我々の時代は「正義」「倫理」と「法律」が一致しており、そして「法律」に違反しているかは極めて明確に白黒を付ける事が出来る。
 そして、「法律を守れば社会が維持出来なくなる」可能性など無い。そのような可能性が生じるとすれば、不完全な存在が社会または法律を作っていた場合のみで、現在では絶対に有り得ない。
 だが、過去の時代では、その時代・その地域の「正義」「倫理」と一致しない法律が作られる事が有り得た。
 18世紀のアメリカ南部において、奴隷制度を前提とした社会が作られ始めた時、アメリカの連邦法では、奴隷の所持は違法では無かったが、奴隷の輸入が禁止された。
 つまり、この時代のアメリカ南部は「連邦法に違反した奴隷の密輸」をする者が居なければ社会を維持出来なくなっていたのだ。

 つまる所、「今の価値観で過去の『正義』『倫理』『法律』を断罪すべきか?」と云う質問の答は、その質問のニュアンスに依る。
 そもそも我々の時代と過去では「そもそも『正義』『倫理』『法律』とは何か?」が全く異なる。
 現代の「正義」「倫理」「法律」は一致しており白黒が明確であるが、過去の「正義」「倫理」「法律」が一致しているとは限らずグレーゾーンが極めて大きい。
 現代の全世界の全人類は、寸分違わず同じ「正義」「倫理」を共有しているが、過去においては、同じ時代・同じ地域・同じ集団に属する人間同士でも「正義」「倫理」が一致しているとは限らない。
 これが、過去の「正義」「倫理」「法律」を現代の観点から論ずる場合において、統計学や「真か偽か? 0か1か?」の通常の論理学ではない多値論理の知識が必要となる理由である。

注1:
21世紀前半の日本語への翻訳は困難。
神、それも一神教における「唯一絶対の神」に近い意味だが「人造物」のニュアンスも有る。

注2:
21世紀前半の日本語への翻訳は困難。
「神のような存在がこの世の顕現・降臨する事」「キリスト教・イスラム教などにおける『最後の審判』後の『神の支配』の実現」に近い意味だが「何らかの優れた存在が誕生する」のニュアンスも有る。
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