上 下
28 / 30
第2章:ETERAL 0 or -1.0

(13)

しおりを挟む
 怪しい。
 何で、同じ神様(神様だとして)から「お互いのやる事を邪魔し合え」って命令を受けてるのか?
 何で、僕達を捕まえた奴の片割れが、僕達を助けるのか?
 しかし……他に手段は無さそうだ。
 ともかく謎の女(2人目)は、僕達を牢屋から出してくれた。
 外は……もう夜中。
 町の城壁の外に有る屋敷らしい場所の倉庫に偽装された建物……それが僕達が入れられていた牢屋の出入口だった。
「持ってけ。あと、昼間の間は、その布で顔を覆ってろ。お前の顔の皮膚の一部が太陽の光に弱くなってるとしても、これを被ってりゃ、外の様子は見えるが、火傷になるのは防げる筈だ。と言っても、外の様子は見えにくくなるんで、夜の間だけ行動するのがオススメだがな」
 謎の女(2人目)は、倉庫に偽装されてた建物の中から持って来た武器や衣服、その他、リュックみたいな背負い鞄を地面に並べる。
「何故、こんな事をするのですか? 貴女の話では、貴女達にも、私達が敵か味方が判っていないのでは?」
 聖女様は、そう訊いた。まぁ、当然と言えば、当然だ。
「そうだ。あんたらが敵か味方か判らないから、なるべく、あたしらの選択肢を減らさない方法を取った。ただ、あいつは、あんたらを監禁しておいた方が、こっちの選択肢は増えると判断し、あたしは、あんたらを自由にさせた方が、こっちの選択肢は増えると判断した」
「困った事に、それを議論しても、時間がかかるだけだ。どっちを選ぶにせよ、一番リスクが高いのは、決断に時間がかかる場合だ、ってのはお互いに意見が一致してると思うが……」
 その時……。
「やっぱ……こうなったか……」
「う……裏切ったの?」
「え……えっと……まぁ……何と言うか……」
 そう答えたのは……謎の女(2人目)。
「お前たちからすれば『裏切った』になるかも知れんな」
 続いて答えたのは、謎の女(1人目)……つまり平気で人を殺しまくるサイコ女。
 サイコ女の背後には……ああ、やっぱり……。「白人を差別してるのに、格好はKKKそのまんま」という悪趣味にも程が有る白頭巾軍団。
「そいつらが、お前の新しいお友達か?『國民の創生』でも上映したらどうだ?」
「あいにく、PCやらネット回線やらスピーカーやらモニタやらが無い。あと、こんな人種差別主義者レイシストの下衆どもなんて友達じゃない」
 サイコ女が、そう言った途端……KKK軍団が白頭巾を取り……。
 ある者は……顔中に血管みたいなモノが受かんでるが……その血管みたいなモノは鮮やかな緑色。
 ある者は、額の真ん中に鉄の杭みたいなモノを打ち込まれ……それでも生きてる。
 ある者は、一見すると能面みたいな仮面を被っている……けど、その能面と顔の皮膚の境目が見えない……まるで、仮面と顔が一体化してるように……。
「たしかに、友達にやる真似じゃねえな……」
「私は、殺していい人間が居るなら、誰かを殺してもいいと思ってる奴だと考えてる。だから、私的には、このKKKもどきどもは、殺していい奴らだ。そして、生きてはいるが、もう人間とは言えないし、元にも戻せない。死んでるも同じだな」
「ちょ……ちょっと待ってよ?『誰かを殺してもいいと思ってる人間こそ殺してもいい』なら、あんたは、どうなるんだよッ⁉」
 流石に、僕もツッコミを入れざるを得ない。
「そこが問題だ。私を殺せる奴が、そうそう居ない。私が死んで当然の糞野郎で、私みたいなのは絵に描いたような『正義の味方』に壮絶かつ無様に負けた方が子供の教育上良いのは、私自身が自覚してる。けど、誰かに殺される事で罪を償いたくても、その誰かに巡り会えない。3~4人がかりなら私を殺せそうな奴らには何組か心当りは有るが、そいつらでも、内1人は確実に死なせてしまうんで『無様な負け方』とは言えんな。困ったもんだ」
 サイコ女は……大真面目な表情かおで、そう言った。本気で言ってるにせよ、ギャグのつもりにせよ……このサイコ女、やっぱり、ガチのサイコ女だ。
「じゃあ、提案だ。そいつと、私の『道具』を戦わせて、そいつが勝ったなら、その『聖女』とやらを解放する。これでどうだ?」
「勝手に決め……」
「ああ、やっぱり、私の言う通りにするのは嫌か。まぁ、そうだな、散々、酷い真似をやったんだから仕方ない。では、私は『ただし、戦うのは1人だけで、どいつと戦うかは、そっちで選んでいいぞ』って条件を付けるつもりだったが……そんなに私の提案を飲むのが嫌なら……全員と戦ってくれ」
「ちょっと待てッ‼ そんな罠、有ってたまるかッ‼」
「注意力が無かった、お前が悪い。注意深く聞いてりゃ判った筈だ。私が『道具』と単数形で言った事を……」
「あたしが手を貸してもいいか……?」
 謎の女(その2)から助け船。
「向こうの世界から持って来た酒は、あと何本残ってる? ただし、飲みかけのと、店で定価で買った場合にクレーム付けたくなるような状態のヤツは除く」
「サントリーのオールドが3本と、吉四六と南泉の小瓶が2つづつ」
「サントリーは七〇〇㎖のヤツか?」
「うん」
 ちょっと待て、こっちの命がかかってるのに、何の話をしてる?
 こいつら、他人の命を何だと思って……。
「よし、お前が、そいつを魔法で1回支援する毎に、1本寄越せ。どれを寄越すかは、お前に任せる。それで手を打とう」
「わかった」
 え……っ?
 いや、待ってよ、人の命を賭けの対象にするよ~なデスゲーム系の話は大好きだけど……ここまで賭金(代り)が安っぽいデスゲーム系のギャンブルが有ってたまるかッ‼
「ところで、お前の手下、全員と戦えってのは……」
「こっちの話を聞こうともせずに、一方的にこっちの提案を拒絶した、そいつらの自己責任だ。そいつらに頑張ってもらうしか有るまい」
「なるほど……仕方ねえな」
 仕方なくないよッ‼
「でも、せめて1対1の……えっと、そっち何人出すつもりだ?」
「5人」
「じゃ、1対1の5番勝負で手を打ってくれ」
「わかった。1対1の5番勝負、その阿呆男の全勝で、そいつらは解放。お前が魔法で支援する度に、そっちの酒を1瓶渡せ。他の連中が、代表選手のマヌケ野郎を魔法で支援するのは、かまわん。勝ちの条件は、相手が気絶その他の戦闘不能状態が一〇秒以上継続か死亡。もしくは、相手側の代表選手か相手側の誰かによるギブアップ。私は道具どもに指示はするが、魔法や科学技術を用いた支援は行なわない。その条件でいいか?」
「引き分けは?」
「そっちの勝ちと認める」
「あと、こっちがギブアップする場合は、そいつか、その『聖女』サマによるギブアップ宣言しか認めん。あたしは『ギブアップしろ』と助言するかも知れんが、最終的なギブアップの決断は、こいつか『聖女』サマだけが行なう資格を持つ事にしろ」
「なるほど。いいだろう。以上の条件で交渉成立ディールか?」
交渉成立ディールだ」
 なに、勝手に話を進めて……。
「すまんな……聞いての通りだ。お前を、あたしの魔法で助けられるのは……
「え……えっと……さっきの話だと7回じゃ……?」
「1回しか助けられん」
「いや……待って、7回……」
「1回だ」
「だから、酒瓶は7本……」
「何度言わせる? 酒瓶が2本しか無くても、逆に数えきれんほどの数有っても1回だけしか助けん。判ったな? この世界の全部の酒樽を持って来ようが、あたしがレズで、その『聖女』サマをお前らが、あたしに献上しようが、1回は1回だ。話は、これで打ち切り。さっさと戦闘準備に入れ。戦いが夜の内に終んねえと、お前が不利になんだぞ、判ってんのか?」
「そ……そんな……」
「ま、この世界には、まだ、……」
「ち……違いますッ‼」
 謎の女(その2)の最悪な台詞に続いて、聖女様の絶叫。
「転生者が何人居ようとも……貴方が……貴方だけが、ようやく巡り会えた私にとっての特別な……たった1人の御方ですッ‼」
 多分……他人事だったら、すごくクサくてダサい台詞だろう……。
 でも……。
 ごお……っ。
 体の中から、力が湧いてきた。
 これまでの「火事場の馬鹿力」とは何かが違う……力が……。
 負けてもいい……死んでもいい……ただ、この瞬間だけでも、僕が聖女様にとっての、特別な……たった1人でされ有れば……それでいい……。
 不思議だな……。死んでもいいと思った瞬間……負ける気がしなくなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...