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第三章:自由と平和の護り手
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このシーンのオリジナル版を撮影した連中は……時代劇の馬上戦闘の延長だと考えていた。
そして、実際にやった結果、判ったのは……バイクに乗って斬り合いをやるのは、馬上での斬り合いより遥かに危険だったと云う当り前の事。
しかし、「鬼面ソルジャーズ」のような特撮TV番組は……少なくとも日本では前例は、ほとんど無く、全てが手探りだった。
そんな当り前の事さえも……やって見るまでは、どのレベルでの「当り前」かさえ判らなかった。
新しい事をやりたいが……それを実現するのに、どれほどのハードルが有るかさえ見当が付かない。
そんな状態で撮影が行なわれた。
俺が親友の跡を追わずに済んだのは……幸運の賜物に過ぎない。
そして……やりたい事に技術も予算も追い付いていなかった。
今、モニターごしに見えている、このシーンも同じだ。
アイデアは出たが実現困難な上に、余程の「観巧者」にしか判らない……子供番組でやっても何の意味も無いシーンの筈だった。
時代劇の馬上戦闘でも、このような「バイクに乗っての斬り合い」なんて無茶苦茶なシーンでも……人間の少なくとも9割は右利き。
そして……時代と洋の東西を問わず「剣を扱う技術」は右利きを前提に組み立てられている。
当然ながら、馬上での斬り合いは「相手を右手で攻撃出来る位置を確保する」が基本となる。
もし……左手で剣を操れる者が居れば……そいつの有利さは、馬上での戦いにおいて更に増す。
それは、「鉄の馬」と云うべきバイクに乗った場合でも同じ。
だが……それは理屈であって、「左手かつ馬上で剣を操る技術」は……事実上存在しない。
有るとすれば、誰かから習ったモノではなく、独自に編み出したもの……。
万が一、「馬上で剣を左手で操る」体系化された技術が有ったなら……それは「馬上での戦闘」の「ルール」「常識」の隙間を突く戦法。野球の左投げピッチャーやサウスポーのボクサーどころでは無い有利さを得る事が出来る……。
が……くどいようだが、そんなモノは事実上存在しない筈だった。
しかし、更にくどいようだが……目の前に実在していた。
多分、それが判らない者には……何故、このシーンで主人公が苦戦しているかも判らないだろう。
こちらは攻撃し易く、相手は攻撃しにくい位置を確保した筈なのに……何故か相手は平気で反撃してくる。
「誰なんだ? 一体、誰の動きを取り込んだ?」
誰に訊けば答が判るかさえ判らない……それでも、思わず口から出た疑問……。
それを日本語が出来るスタッフが聞き付け……監督に伝わり……。
「この映画の出資者の1人です」
「えっ?」
監督の答は……あまりに予想外のモノだった。
だが……。
「そして……アニマトロニクス・ドロイドの技術を開発した台湾のベンチャー企業の創業者です」
更に予想外の話が出た。
「あそこで見学されてますよ」
そう言って、監督が目を向けた先には……。
七十年以上、あまりロクな使い方をしてこなかった……自分で思っていたよりも古臭い偏見に凝り固まっていたらしい俺の脳は……その人物が「台湾のベンチャー企業の創業者」である事を……しばらくの間、理解出来なかった。
中国服……なのだろう。
と言っても……チャイナドレスでは無い。
中国武術の練習着を思わせる……が……違和感が有る。
その手の服にしては……詰襟が高い。まるで、軍服だ。
いや、待て、何故……「軍服」なんて連想をした?
ともかく……その人物は……長く癖の無い黒髪を首の辺りで束ねた……アジア系だが彫りが深い……ハイヒールの靴を履いている訳でもないのに俺とほぼ同じ位の背丈に見える……そして、せいぜい二〇代前半ぐらいの齢らしい女性だった。
そして、実際にやった結果、判ったのは……バイクに乗って斬り合いをやるのは、馬上での斬り合いより遥かに危険だったと云う当り前の事。
しかし、「鬼面ソルジャーズ」のような特撮TV番組は……少なくとも日本では前例は、ほとんど無く、全てが手探りだった。
そんな当り前の事さえも……やって見るまでは、どのレベルでの「当り前」かさえ判らなかった。
新しい事をやりたいが……それを実現するのに、どれほどのハードルが有るかさえ見当が付かない。
そんな状態で撮影が行なわれた。
俺が親友の跡を追わずに済んだのは……幸運の賜物に過ぎない。
そして……やりたい事に技術も予算も追い付いていなかった。
今、モニターごしに見えている、このシーンも同じだ。
アイデアは出たが実現困難な上に、余程の「観巧者」にしか判らない……子供番組でやっても何の意味も無いシーンの筈だった。
時代劇の馬上戦闘でも、このような「バイクに乗っての斬り合い」なんて無茶苦茶なシーンでも……人間の少なくとも9割は右利き。
そして……時代と洋の東西を問わず「剣を扱う技術」は右利きを前提に組み立てられている。
当然ながら、馬上での斬り合いは「相手を右手で攻撃出来る位置を確保する」が基本となる。
もし……左手で剣を操れる者が居れば……そいつの有利さは、馬上での戦いにおいて更に増す。
それは、「鉄の馬」と云うべきバイクに乗った場合でも同じ。
だが……それは理屈であって、「左手かつ馬上で剣を操る技術」は……事実上存在しない。
有るとすれば、誰かから習ったモノではなく、独自に編み出したもの……。
万が一、「馬上で剣を左手で操る」体系化された技術が有ったなら……それは「馬上での戦闘」の「ルール」「常識」の隙間を突く戦法。野球の左投げピッチャーやサウスポーのボクサーどころでは無い有利さを得る事が出来る……。
が……くどいようだが、そんなモノは事実上存在しない筈だった。
しかし、更にくどいようだが……目の前に実在していた。
多分、それが判らない者には……何故、このシーンで主人公が苦戦しているかも判らないだろう。
こちらは攻撃し易く、相手は攻撃しにくい位置を確保した筈なのに……何故か相手は平気で反撃してくる。
「誰なんだ? 一体、誰の動きを取り込んだ?」
誰に訊けば答が判るかさえ判らない……それでも、思わず口から出た疑問……。
それを日本語が出来るスタッフが聞き付け……監督に伝わり……。
「この映画の出資者の1人です」
「えっ?」
監督の答は……あまりに予想外のモノだった。
だが……。
「そして……アニマトロニクス・ドロイドの技術を開発した台湾のベンチャー企業の創業者です」
更に予想外の話が出た。
「あそこで見学されてますよ」
そう言って、監督が目を向けた先には……。
七十年以上、あまりロクな使い方をしてこなかった……自分で思っていたよりも古臭い偏見に凝り固まっていたらしい俺の脳は……その人物が「台湾のベンチャー企業の創業者」である事を……しばらくの間、理解出来なかった。
中国服……なのだろう。
と言っても……チャイナドレスでは無い。
中国武術の練習着を思わせる……が……違和感が有る。
その手の服にしては……詰襟が高い。まるで、軍服だ。
いや、待て、何故……「軍服」なんて連想をした?
ともかく……その人物は……長く癖の無い黒髪を首の辺りで束ねた……アジア系だが彫りが深い……ハイヒールの靴を履いている訳でもないのに俺とほぼ同じ位の背丈に見える……そして、せいぜい二〇代前半ぐらいの齢らしい女性だった。
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