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「即落とし」刑事の即落ち
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「あれが、柎署からの応援の『即落とし』のムラさんか?」
「ええ……」
「何つ~か……普通だな……」
「いや、でも、それまで、どんだけ否認してた被疑者でも、あの人が取調べると、3時間以内に自白するそうですよ」
「じゃあ、お手並み拝見といくか……。巧くいったら、後で『落とし』の秘訣でも教えてもらうか」
モニタ越しに取調べの様子を監視していた刑事達の表情は、取調べをやっている警官の様子も、「参考人」と称する事実上の容疑者の様子も、一瞬たりとも見逃すまい、と言いたげな厳しいモノだった。
「なあ……あんた達の教祖は、どこに雲隠れしたんだ?」
「知りません……知ってても言う訳にはいきません」
他者の精神を未知の方法で操る事が出来る者達の存在が明らかになって5年以上。
「精神操作能力者」は社会のどこに居るかも判らず……しかも、自分が「精神操作能力者」である事を気付いていない事例すら有った。
しかし、判っている事も有る。
「精神操作能力」を使用した際には……副次的に周辺の電磁場の変動が起きる……。しかも、その「電磁場の変動」のパターンを、それ以外の自然現象や人工の電場・磁場と区別する方法は確立されていた。
「精神操作能力」は、未知の力ではあるが、相手の脳内で起きているのは、洗脳されたり、暗示をかけられた場合に近い状態である事も判明している。
つまり、通常の洗脳への対処法の中にも対「精神操作能力」に応用出来るモノも多かった。
洗脳や暗示にかかりやすい人間は「精神操作能力」の影響を受け易く、洗脳や暗示にかかりにくい人間は、その逆。
洗脳や暗示をかけやすい状況とは、「精神操作能力」の効果が上がる状況でもある。
定期的に精神操作をされるか、周囲に居るのが同じ精神操作を受けた者ばかりの状態でこそ、精神操作による効果は続き、一定期間、精神操作能力者や、同じ精神操作を受けた者達の集団から隔離すれば、精神操作の影響は時間の経過と共に薄れていく。
だが、あまりに強い精神操作を受けた場合は、精神操作の影響が薄れた場合でも「傷」は完全に治癒せず、精神操作を行なった当人にさえ思いもよらぬ状況と形で「傷」が顕在化する場合が有る。
精神操作能力者の多くは、努力してなった訳ではない。おそらくは生まれ付きの能力であり……心理学などについての体系的な知識が有る訳ではないので、心理学者や洗脳についての専門知識が有る者からすると……あまりに強引で「力まかせ」な「洗脳」「暗示」に思える場合も少なくない。……つまり、能力者当人にさえ意図せぬ「傷」が、精神操作された者に残る事が……かなり多々有る。
そして、今、取調べられているのは……あるカルト宗教の信者だった。
そのカルト宗教の教祖は精神操作能力者の可能性が高く、本人もその事を自覚しているフシが有り、そして、始めは、教団内で起きた事故死を隠蔽しようとして……あまりに稚拙な隠蔽だったせいで、次から次へと関係者に強力だが稚拙な精神操作を行なったり、更には、もっと物理的な方法で「口封じ」を行なう羽目になり……最終的には教団と信者を捨てて逃亡した。
自分が精神操作能力者である事を自覚している精神操作能力者に、よく有るパターンだ。
他人を操れる事が出来るようになっても、頭が良くなった訳でもなければ、ましてや全知全能になれる訳ではないが……同時に、自分が他人を操れる事を自覚した者に「自分が神にでもなった錯覚を抱くな」と言っても、それが可能なのは、元から神か仏のようだった人物ぐらいだろう。
その結果、起きるのは、あまりに阿呆な真似をして、それを精神操作能力で隠蔽しようとしてドツボに嵌ると云う事態だ。
「は……はい……。正直に言います……。刑事さんのお蔭で……自分が教祖に操られていた事がよく判りました。警察の方が来られる前日に教祖から警察が突き止めていない方法で連絡が有りました。その連絡方法は……」
その信者が、「落ちた」のは、取調べ開始から約1時間後だった。
「おかしいな……? 俺達と、どうやり方が違うんだ?」
「新人研修で使う場合は『悪いお手本』ですね……。やり方が単調過ぎる。でも……」
「ああ、落とせたのは事実……」
その時、署内にサイレンが鳴り響いた。
つい最近になってようやく導入された精神操作能力の使用に伴なう電磁場の変動を検知するシステムのものだった。
『署内で精神操作能力を使った者が居る可能性が有ります。署内の方は、全員、その場を動かないで下さい。この指示に従わなかった方は、署員・外部の方を問わず、全員、勾留の対象となります』
その放送の直後、モニタに写ったものは……。
カルト宗教の信者と「即落とし」と渾名される刑事が居る取調べ室に雪崩れ込む……精神操作への耐性を持つ者達で構成された特殊部隊員達だった。
他者の精神を未知の方法で操る事が出来る者達の存在が明らかになって5年以上。
「精神操作能力者」は社会のどこに居るかも判らず……しかも、自分が「精神操作能力者」である事を気付いていない事例すら有った。
「ええ……」
「何つ~か……普通だな……」
「いや、でも、それまで、どんだけ否認してた被疑者でも、あの人が取調べると、3時間以内に自白するそうですよ」
「じゃあ、お手並み拝見といくか……。巧くいったら、後で『落とし』の秘訣でも教えてもらうか」
モニタ越しに取調べの様子を監視していた刑事達の表情は、取調べをやっている警官の様子も、「参考人」と称する事実上の容疑者の様子も、一瞬たりとも見逃すまい、と言いたげな厳しいモノだった。
「なあ……あんた達の教祖は、どこに雲隠れしたんだ?」
「知りません……知ってても言う訳にはいきません」
他者の精神を未知の方法で操る事が出来る者達の存在が明らかになって5年以上。
「精神操作能力者」は社会のどこに居るかも判らず……しかも、自分が「精神操作能力者」である事を気付いていない事例すら有った。
しかし、判っている事も有る。
「精神操作能力」を使用した際には……副次的に周辺の電磁場の変動が起きる……。しかも、その「電磁場の変動」のパターンを、それ以外の自然現象や人工の電場・磁場と区別する方法は確立されていた。
「精神操作能力」は、未知の力ではあるが、相手の脳内で起きているのは、洗脳されたり、暗示をかけられた場合に近い状態である事も判明している。
つまり、通常の洗脳への対処法の中にも対「精神操作能力」に応用出来るモノも多かった。
洗脳や暗示にかかりやすい人間は「精神操作能力」の影響を受け易く、洗脳や暗示にかかりにくい人間は、その逆。
洗脳や暗示をかけやすい状況とは、「精神操作能力」の効果が上がる状況でもある。
定期的に精神操作をされるか、周囲に居るのが同じ精神操作を受けた者ばかりの状態でこそ、精神操作による効果は続き、一定期間、精神操作能力者や、同じ精神操作を受けた者達の集団から隔離すれば、精神操作の影響は時間の経過と共に薄れていく。
だが、あまりに強い精神操作を受けた場合は、精神操作の影響が薄れた場合でも「傷」は完全に治癒せず、精神操作を行なった当人にさえ思いもよらぬ状況と形で「傷」が顕在化する場合が有る。
精神操作能力者の多くは、努力してなった訳ではない。おそらくは生まれ付きの能力であり……心理学などについての体系的な知識が有る訳ではないので、心理学者や洗脳についての専門知識が有る者からすると……あまりに強引で「力まかせ」な「洗脳」「暗示」に思える場合も少なくない。……つまり、能力者当人にさえ意図せぬ「傷」が、精神操作された者に残る事が……かなり多々有る。
そして、今、取調べられているのは……あるカルト宗教の信者だった。
そのカルト宗教の教祖は精神操作能力者の可能性が高く、本人もその事を自覚しているフシが有り、そして、始めは、教団内で起きた事故死を隠蔽しようとして……あまりに稚拙な隠蔽だったせいで、次から次へと関係者に強力だが稚拙な精神操作を行なったり、更には、もっと物理的な方法で「口封じ」を行なう羽目になり……最終的には教団と信者を捨てて逃亡した。
自分が精神操作能力者である事を自覚している精神操作能力者に、よく有るパターンだ。
他人を操れる事が出来るようになっても、頭が良くなった訳でもなければ、ましてや全知全能になれる訳ではないが……同時に、自分が他人を操れる事を自覚した者に「自分が神にでもなった錯覚を抱くな」と言っても、それが可能なのは、元から神か仏のようだった人物ぐらいだろう。
その結果、起きるのは、あまりに阿呆な真似をして、それを精神操作能力で隠蔽しようとしてドツボに嵌ると云う事態だ。
「は……はい……。正直に言います……。刑事さんのお蔭で……自分が教祖に操られていた事がよく判りました。警察の方が来られる前日に教祖から警察が突き止めていない方法で連絡が有りました。その連絡方法は……」
その信者が、「落ちた」のは、取調べ開始から約1時間後だった。
「おかしいな……? 俺達と、どうやり方が違うんだ?」
「新人研修で使う場合は『悪いお手本』ですね……。やり方が単調過ぎる。でも……」
「ああ、落とせたのは事実……」
その時、署内にサイレンが鳴り響いた。
つい最近になってようやく導入された精神操作能力の使用に伴なう電磁場の変動を検知するシステムのものだった。
『署内で精神操作能力を使った者が居る可能性が有ります。署内の方は、全員、その場を動かないで下さい。この指示に従わなかった方は、署員・外部の方を問わず、全員、勾留の対象となります』
その放送の直後、モニタに写ったものは……。
カルト宗教の信者と「即落とし」と渾名される刑事が居る取調べ室に雪崩れ込む……精神操作への耐性を持つ者達で構成された特殊部隊員達だった。
他者の精神を未知の方法で操る事が出来る者達の存在が明らかになって5年以上。
「精神操作能力者」は社会のどこに居るかも判らず……しかも、自分が「精神操作能力者」である事を気付いていない事例すら有った。
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