59 / 59
エピローグ
狂怒 ― Fury ―
しおりを挟む
あれから一〇年以上が過ぎた。
あれから一〇年以上が過ぎた。
勇気は高専5年生の時に、韓国の工科大学の編入試験に合格し、韓国の釜山に本社機能を移していた「水城」の製造元である高木製作所の子会社・高木研究所の研修生として働く傍ら、大学に通い、そして、修士号を取り、設計部門のエンジニアになった。
しかし、もう、勇気は、かつての職場にも、「秋葉原」にも居ない。テロ組織「神の怒り」に引き抜かれ、その一員となったのだ。
『敵の「鎧」は一体だが、支援用のロボットが確認出来ただけでも5つ。全て下の階。1つは「シルバー・ローニン」のほぼ真下だ』
両眼立体視型のモニタに「敵」の位置・方向・距離が表示される。声の主は、かつて、あたしと勇気を助けてくれた高木瀾。彼女は、「正義の味方」として戦う中で大怪我を負い、一線を退き、開発と後方支援を担当している。
そして、瀾がかつて使っていた白銀の鎧「対神鬼動外殻『護国軍鬼4号鬼・改』」を受け継いだ少女が、手にしていたレールガンの銃口を床に向ける。
『「シルバー・ローニン」、ここがどう云う場所か判っているな?』
『はい。「島」ではなく、㎞単位の巨大な「船舶」と認識しています』
『そうだ。レールガンの威力は2に落してある。威力を上げる必要が有る場合は、こちらの判断を仰げ。くれぐれも「島の底」をブチ抜いたり、「島」の下層の住民に危害を加えないように注意しろ』
『了解』
徹甲弾が「神の怒り」のロボットを床ごと撃ち抜く。
続いて、こちらの偵察用の小型の8足歩行ロボットが、床に空いた穴より下の階に入る。そして、「シルバー・ローニン」が下降用のザイルを設置後、今回のメンバーの中のリーダー格である「緑の護り手」がハンドサインで突入指示を出した。
下の階に降りると、鉄屑と化したロボットが有った。弟と妹を死なせてしまい、長生きを望めない体になってしまったアイツが、自分が生きていた証として、そして、失なった家族が、かつて、この世に在った証として、必死でこの世に残そうとしているモノが、また一体、「死んで」しまっていた。
今回の敵が使っている戦闘用ロボットを設計したのは勇気だ。
勇気は、あの日、「神保町」の魔導師にかけられた精神支配……と言うよりも「呪い」によって、いつしか戦闘依存症とでも呼ぶべき状態になっていた。
1年未満の間とは言え、喜びも悲しみも怒りも感じる事が出来なくなったアイツにとって、普通の人間が「感情」によって得ている「何か」の代用品は……死の危険に伴なう緊張感だった。それだけが……灰色の世界に放り込まれ、自分の意志で、そこに留まったアイツが感じる事が出来る数少ない鮮烈な刺激だったらしい。
その結果、「自警団活動」の最中に無茶をやって、大量の放射性物質を全身に浴びてしまった。
そして、瀾が引退する事になった戦いの際に大破した白銀の「鎧」の再設計・修理には、あたしも関わっている。
今、目の前で起きた事……それは、見方によっては、あたしの子供が勇気の子供を殺したようなものかも知れない。
この「任務」の為に、何年かぶりに、第2の故郷である「秋葉原」に戻って来た。
十数年……ある意味で、たった十数年……子供と大人の中間ぐらいだったあたし達が、おじさん・おばさんの入口ぐらいの齢になる程度の歳月で……世界も、あたし達「正義の味方」「御当地ヒーロー」も在り方を変えた。
変り続ける世界に対応出来ず、警察も軍隊も形骸化し、その代りを「正義の味方」「御当地ヒーロー」が担うようになっていったが、あたし達「正義の味方」「御当地ヒーロー」のやり方も、合格点には程遠く、そして、今も変り続けている。あと五年後・一〇年後には、あたし達も、時代に追い付けなくなっているだろう。今のあたし達に出来る事は、次の世代に、あたし達の経験を伝える事……。それを、次の世代が、新しい時代で、活かしてくれれば……。
今の「本土」の状況は、もう、あの頃の「Neo Tokyo」の状況に近い。他の国も似たようなモノだ。「正義」「悪」「一般人」の垣根は曖昧になってしまっている。
ふと、かつての正義君と仁愛ちゃんの様子を思い出そうとしたが……何故か……あの頃の2人の顔を思い浮かべる事が出来なかった。
あれから一〇年以上が過ぎた。
勇気は高専5年生の時に、韓国の工科大学の編入試験に合格し、韓国の釜山に本社機能を移していた「水城」の製造元である高木製作所の子会社・高木研究所の研修生として働く傍ら、大学に通い、そして、修士号を取り、設計部門のエンジニアになった。
しかし、もう、勇気は、かつての職場にも、「秋葉原」にも居ない。テロ組織「神の怒り」に引き抜かれ、その一員となったのだ。
『敵の「鎧」は一体だが、支援用のロボットが確認出来ただけでも5つ。全て下の階。1つは「シルバー・ローニン」のほぼ真下だ』
両眼立体視型のモニタに「敵」の位置・方向・距離が表示される。声の主は、かつて、あたしと勇気を助けてくれた高木瀾。彼女は、「正義の味方」として戦う中で大怪我を負い、一線を退き、開発と後方支援を担当している。
そして、瀾がかつて使っていた白銀の鎧「対神鬼動外殻『護国軍鬼4号鬼・改』」を受け継いだ少女が、手にしていたレールガンの銃口を床に向ける。
『「シルバー・ローニン」、ここがどう云う場所か判っているな?』
『はい。「島」ではなく、㎞単位の巨大な「船舶」と認識しています』
『そうだ。レールガンの威力は2に落してある。威力を上げる必要が有る場合は、こちらの判断を仰げ。くれぐれも「島の底」をブチ抜いたり、「島」の下層の住民に危害を加えないように注意しろ』
『了解』
徹甲弾が「神の怒り」のロボットを床ごと撃ち抜く。
続いて、こちらの偵察用の小型の8足歩行ロボットが、床に空いた穴より下の階に入る。そして、「シルバー・ローニン」が下降用のザイルを設置後、今回のメンバーの中のリーダー格である「緑の護り手」がハンドサインで突入指示を出した。
下の階に降りると、鉄屑と化したロボットが有った。弟と妹を死なせてしまい、長生きを望めない体になってしまったアイツが、自分が生きていた証として、そして、失なった家族が、かつて、この世に在った証として、必死でこの世に残そうとしているモノが、また一体、「死んで」しまっていた。
今回の敵が使っている戦闘用ロボットを設計したのは勇気だ。
勇気は、あの日、「神保町」の魔導師にかけられた精神支配……と言うよりも「呪い」によって、いつしか戦闘依存症とでも呼ぶべき状態になっていた。
1年未満の間とは言え、喜びも悲しみも怒りも感じる事が出来なくなったアイツにとって、普通の人間が「感情」によって得ている「何か」の代用品は……死の危険に伴なう緊張感だった。それだけが……灰色の世界に放り込まれ、自分の意志で、そこに留まったアイツが感じる事が出来る数少ない鮮烈な刺激だったらしい。
その結果、「自警団活動」の最中に無茶をやって、大量の放射性物質を全身に浴びてしまった。
そして、瀾が引退する事になった戦いの際に大破した白銀の「鎧」の再設計・修理には、あたしも関わっている。
今、目の前で起きた事……それは、見方によっては、あたしの子供が勇気の子供を殺したようなものかも知れない。
この「任務」の為に、何年かぶりに、第2の故郷である「秋葉原」に戻って来た。
十数年……ある意味で、たった十数年……子供と大人の中間ぐらいだったあたし達が、おじさん・おばさんの入口ぐらいの齢になる程度の歳月で……世界も、あたし達「正義の味方」「御当地ヒーロー」も在り方を変えた。
変り続ける世界に対応出来ず、警察も軍隊も形骸化し、その代りを「正義の味方」「御当地ヒーロー」が担うようになっていったが、あたし達「正義の味方」「御当地ヒーロー」のやり方も、合格点には程遠く、そして、今も変り続けている。あと五年後・一〇年後には、あたし達も、時代に追い付けなくなっているだろう。今のあたし達に出来る事は、次の世代に、あたし達の経験を伝える事……。それを、次の世代が、新しい時代で、活かしてくれれば……。
今の「本土」の状況は、もう、あの頃の「Neo Tokyo」の状況に近い。他の国も似たようなモノだ。「正義」「悪」「一般人」の垣根は曖昧になってしまっている。
ふと、かつての正義君と仁愛ちゃんの様子を思い出そうとしたが……何故か……あの頃の2人の顔を思い浮かべる事が出来なかった。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
Neo Tokyo Site 01:第二部「激突‼ 四大魔法少女+2‼ − Asura : The City of Madness −」
蓮實長治
SF
平行世界の「東京」ではない「東京」で始まる……4人の「魔法少女」と、1人の「魔法を超えた『神の力』の使い手」……そして、もう1人……「『神』と戦う為に作られた『鎧』の着装者」の戦い。
様々な「異能力者」が存在し、10年前に富士山の噴火で日本の首都圏が壊滅した2020年代後半の平行世界。
1930年代の「霧社事件」の際に台湾より持ち出された「ある物」が回り回って、「関東難民」が暮す人工島「Neo Tokyo Site01」の「九段」地区に有る事を突き止めた者達が、「それ」の奪還の為に動き始めるが……。
「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「pixiv」「Novel Days」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。(pixivとGALLERIAは掲載が後になります)
Neo Tokyo Site04:カメラを止めるな! −Side by Side−
蓮實長治
SF
「お前……一体全体……この『東京』に『何』を連れて来た?」
「なぁ……兄弟(きょうでえ)……長生きはするもんだな……。俺も、この齢になるまで散々『正義の名を騙る小悪党』は見てきたが……初めてだぜ……『悪鬼の名を騙る正義』なんてのはよぉ……」
現実の地球に似ているが、様々な「特異能力者」が存在する2020年代後半の平行世界。
「関東難民」が暮す人工島「Neo Tokyo」の1つ……壱岐・対馬間にある「Site04」こと通称「台東区」の自警団「入谷七福神」のメンバーである関口 陽(ひなた)は、少し前に知り合った福岡県久留米市在住の「御当地ヒーロー見習い」のコードネーム「羅刹女(ニルリティ)」こと高木 瀾(らん)に、ある依頼をするのだが……。
「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「pixiv」「Novel Days」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。(pixivとGALLERIAは掲載が後になります)
青き戦士と赤き稲妻
蓮實長治
SF
現実と似た歴史を辿りながら、片方は国家と云うシステムが崩れつつ有る世界、もう一方は全体主義的な「世界政府」が地球の約半分を支配する世界。
その2つの平行世界の片方の反体制側が、もう片方から1人の「戦士」を呼び出したのだが……しかし、呼び出された戦士は呼び出した者達の予想と微妙に違っており……。
「なろう」「カクヨム」「pixiv」にも同じものを投稿しています。
同じ作者の「世界を護る者達/第一部:御当地ヒーローはじめました」と同じ世界観の約10年後の話になります。
注:
作中で「検察が警察を監視し、警察に行き過ぎが有れば、これを抑制する。裁判所が検察や警察を監視し、警察・検察にに行き過ぎが有れば、これを抑制する」と云う現実の刑事司法の有り方を否定的に描いていると解釈可能な場面が有りますが、あくまで、「現在の社会で『正しい』とされている仕組み・制度が、その『正しさ』を保証する前提が失なわれ形骸化した状態で存続したなら」と云う描写だと御理解下さい。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
Storm Breakers:第一部「Better Days」
蓮實長治
SF
「いつか、私が『ヒーロー』として1人前になった時、私は滅びに向かう故郷を救い愛する女性を護る為、『ここ』から居なくなるだろう。だが……その日まで、お前の背中は、私が護る」
二〇〇一年に「特異能力者」の存在が明らかになってから、約四十年が過ぎた平行世界。
世界の治安と平和は「正義の味方」達により護られるようになり、そして、その「正義の味方」達も第二世代が主力になり、更に第三世代も生まれつつ有った。
そして、福岡県を中心に活動する「正義の味方」チーム「Storm Breakers」のメンバーに育てられた2人の少女はコンビを組む事になるが……その1人「シルバー・ローニン」には、ある秘密が有った。
その新米ヒーロー達の前に……彼女の「師匠」達の更に親世代が倒した筈の古き時代の亡霊が立ちはだかる。
同じ作者の別の作品と世界設定を共有しています。
「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「pixiv」「Novel Days」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。(pixivとGALLERIAは掲載が後になります)
特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』
橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。
それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。
彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。
実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。
一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。
一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。
嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。
そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。
誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
No One's Glory -もうひとりの物語-
はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `)
よろしくお願い申し上げます
男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。
医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。
男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく……
手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。
採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。
各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した……
申し訳ございませんm(_ _)m
不定期投稿になります。
本業多忙のため、しばらく連載休止します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる