Neo Tokyo Site 01:第一部「Road to Perdition/非法正義」

蓮實長治

文字の大きさ
上 下
3 / 59
第一章:宿怨 ― Hereditary ―

(2)

しおりを挟む

 そして、あたしは、その「荒木田光あらきだひかる」と名乗る女の人を、あたしんの近くまで案内する事になった。
 住宅街つまりはa・k・a裏通り。
 いや、さっき、ここを通り過ぎた、東南アジア系とインド系とヒスパニック系の観光客の一行プラス護衛兼案内人が、何度も極めて的確にして極めて不適切な単語を呟いているのが聞こえた。
 ちくしょう、slumぐらい判るわい、馬鹿野郎。いくら、あたしらの生活費の一部の出所でも、言って良い事と悪い事が有るぞ、馬鹿野郎。
 あたしが生まれた頃、この「観光客」達の国には、ヨーロッパの金持ちなんかが「スラム見物」に来ていたみたいだ。そして、今は、そんな国の人達が「東京」に「スラム見物」に来るようになった。どうやら、5~6年前に、海外で「『秋葉原』のスラム」を舞台にした映画が大ヒットしたらしい。
 そして、大人達は「スラム見物」の「観光客」が来る時間帯には、その「スラム」には居ない。仕事が無くても、どっかに行ってる。
 大人や「本土」の人達は、また違うのかも知れないが、あたしぐらいの年齢としの「東京」もんには、日本が、あの「観光客」達の国どころか、「アジアの四大先進国」と呼ばれる中国・台湾・香港・韓国よりも豊かだった時代が有るなど、実感は湧かないし、信じる事さえ出来ない。……一〇年前の首都圏壊滅は、単に「最後の一撃」に過ぎず、その数年前、2つに分裂した「アメリカ」の片割れである「アメリカ連合国」が日本を事実上占領した頃か、更にそれ以前のあたしが生まれる前から日本は経済的に零落おちぶれていたのだ。
 だけど、日本が豊かだった時代を覚えている大人達は、かつて「競争相手」とさえ思っていなかった相手に追い抜かれ、そして、見下し半分の同情の目で見られるのは、精神的に、かなりキツい……みたいだ。
「お~い、勇気、居る~?」
 荒木田さんとか云う女の人の携帯電話Nフォンに表示されていた住所は、あたしの幼なじみの石川勇気の家だった。塗装があちこち剥げているプレハブ6階建ての「テラハウス」の3階と4階だ。
「バイト」
 勇気の妹の仁愛にあちゃんの声。
「じゃあ、聞くけど、ここに一二歳ぐらいの香港の金持ちの糞ガキが来てるか?」
「それっぽいのが遊びに来てたけど、あの子、金持ちだったの? つか、誰?」
「そのガキの知り合いだ。昨日、ここに居る友達のとこに行くと言い残して消えたんで、大騒ぎが起きてる」
「友達って、何の友達?」
 中から仁愛ちゃんが出て来た。
「オンラインRPG」
「じゃあ、学校の電算機室じゃないかな? あそこなら夏休み中でもPCが使えるし」
「なら、すまない、場所だけ教えて……いや、待て、まさか……」
「うん、部外者は入れない。まぁ、生徒か先生と一緒なら入れるから、実質、ザルなんだけどね」
「それなら、ここで、待たせてもらって良いかな?」
「連絡とかは出来ないの?」
「GPSで、場所を知られるのを避ける為に……携帯電話Nフォンそのものを置いて行きやがった」
「ところで、最大の問題。レナ姉、この人、信用していいの?」
「……う……うん、大丈夫だと思う」
 多分、仁愛ちゃんが考えているより大きい問題が有る。荒木田さんが、信用出来ない人でも、何とかする方法は……多分、無い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Neo Tokyo Site 01:第二部「激突‼ 四大魔法少女+2‼ − Asura : The City of Madness −」

蓮實長治
SF
平行世界の「東京」ではない「東京」で始まる……4人の「魔法少女」と、1人の「魔法を超えた『神の力』の使い手」……そして、もう1人……「『神』と戦う為に作られた『鎧』の着装者」の戦い。 様々な「異能力者」が存在し、10年前に富士山の噴火で日本の首都圏が壊滅した2020年代後半の平行世界。 1930年代の「霧社事件」の際に台湾より持ち出された「ある物」が回り回って、「関東難民」が暮す人工島「Neo Tokyo Site01」の「九段」地区に有る事を突き止めた者達が、「それ」の奪還の為に動き始めるが……。 「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「pixiv」「Novel Days」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。(pixivとGALLERIAは掲載が後になります)

Storm Breakers:第一部「Better Days」

蓮實長治
SF
「いつか、私が『ヒーロー』として1人前になった時、私は滅びに向かう故郷を救い愛する女性を護る為、『ここ』から居なくなるだろう。だが……その日まで、お前の背中は、私が護る」 二〇〇一年に「特異能力者」の存在が明らかになってから、約四十年が過ぎた平行世界。 世界の治安と平和は「正義の味方」達により護られるようになり、そして、その「正義の味方」達も第二世代が主力になり、更に第三世代も生まれつつ有った。 そして、福岡県を中心に活動する「正義の味方」チーム「Storm Breakers」のメンバーに育てられた2人の少女はコンビを組む事になるが……その1人「シルバー・ローニン」には、ある秘密が有った。 その新米ヒーロー達の前に……彼女の「師匠」達の更に親世代が倒した筈の古き時代の亡霊が立ちはだかる。 同じ作者の別の作品と世界設定を共有しています。 「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「pixiv」「Novel Days」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。(pixivとGALLERIAは掲載が後になります)

【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~

こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。 人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。 それに対抗する術は、今は無い。 平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。 しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。 さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。 普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。 そして、やがて一つの真実に辿り着く。 それは大きな選択を迫られるものだった。 bio defence ※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。

Neo Tokyo Site04:カメラを止めるな! −Side by Side−

蓮實長治
SF
「お前……一体全体……この『東京』に『何』を連れて来た?」 「なぁ……兄弟(きょうでえ)……長生きはするもんだな……。俺も、この齢になるまで散々『正義の名を騙る小悪党』は見てきたが……初めてだぜ……『悪鬼の名を騙る正義』なんてのはよぉ……」 現実の地球に似ているが、様々な「特異能力者」が存在する2020年代後半の平行世界。 「関東難民」が暮す人工島「Neo Tokyo」の1つ……壱岐・対馬間にある「Site04」こと通称「台東区」の自警団「入谷七福神」のメンバーである関口 陽(ひなた)は、少し前に知り合った福岡県久留米市在住の「御当地ヒーロー見習い」のコードネーム「羅刹女(ニルリティ)」こと高木 瀾(らん)に、ある依頼をするのだが……。 「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「pixiv」「Novel Days」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。(pixivとGALLERIAは掲載が後になります)

青き戦士と赤き稲妻

蓮實長治
SF
現実と似た歴史を辿りながら、片方は国家と云うシステムが崩れつつ有る世界、もう一方は全体主義的な「世界政府」が地球の約半分を支配する世界。 その2つの平行世界の片方の反体制側が、もう片方から1人の「戦士」を呼び出したのだが……しかし、呼び出された戦士は呼び出した者達の予想と微妙に違っており……。 「なろう」「カクヨム」「pixiv」にも同じものを投稿しています。 同じ作者の「世界を護る者達/第一部:御当地ヒーローはじめました」と同じ世界観の約10年後の話になります。 注: 作中で「検察が警察を監視し、警察に行き過ぎが有れば、これを抑制する。裁判所が検察や警察を監視し、警察・検察にに行き過ぎが有れば、これを抑制する」と云う現実の刑事司法の有り方を否定的に描いていると解釈可能な場面が有りますが、あくまで、「現在の社会で『正しい』とされている仕組み・制度が、その『正しさ』を保証する前提が失なわれ形骸化した状態で存続したなら」と云う描写だと御理解下さい。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

カレンダー・ガール

空川億里
SF
 月の地下都市にあるネオ・アキバ。そこではビースト・ハントと呼ばれるゲーム大会が盛んで、太陽系中で人気を集めていた。  優秀なビースト・ハンターの九石陽翔(くいし はると)は、やはりビースト・ハンターとして活躍する月城瀬麗音(つきしろ せれね)と恋に落ちる。  が、瀬麗音には意外な秘密が隠されていた……。

処理中です...