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第一章:宿怨 ― Hereditary ―
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しおりを挟むそして、あたしは、その「荒木田光」と名乗る女の人を、あたしん家の近くまで案内する事になった。
住宅街つまりは裏通り。
いや、さっき、ここを通り過ぎた、東南アジア系とインド系とヒスパニック系の観光客の一行+護衛兼案内人が、何度も極めて的確にして極めて不適切な単語を呟いているのが聞こえた。
ちくしょう、slumぐらい判るわい、馬鹿野郎。いくら、あたしらの生活費の一部の出所でも、言って良い事と悪い事が有るぞ、馬鹿野郎。
あたしが生まれた頃、この「観光客」達の国には、ヨーロッパの金持ちなんかが「スラム見物」に来ていたみたいだ。そして、今は、そんな国の人達が「東京」に「スラム見物」に来るようになった。どうやら、5~6年前に、海外で「『秋葉原』のスラム」を舞台にした映画が大ヒットしたらしい。
そして、大人達は「スラム見物」の「観光客」が来る時間帯には、その「スラム」には居ない。仕事が無くても、どっかに行ってる。
大人や「本土」の人達は、また違うのかも知れないが、あたしぐらいの年齢の「東京」者には、日本が、あの「観光客」達の国どころか、「アジアの四大先進国」と呼ばれる中国・台湾・香港・韓国よりも豊かだった時代が有るなど、実感は湧かないし、信じる事さえ出来ない。……一〇年前の首都圏壊滅は、単に「最後の一撃」に過ぎず、その数年前、2つに分裂した「アメリカ」の片割れである「アメリカ連合国」が日本を事実上占領した頃か、更にそれ以前のあたしが生まれる前から日本は経済的に零落れていたのだ。
だけど、日本が豊かだった時代を覚えている大人達は、かつて「競争相手」とさえ思っていなかった相手に追い抜かれ、そして、見下し半分の同情の目で見られるのは、精神的に、かなりキツい……みたいだ。
「お~い、勇気、居る~?」
荒木田さんとか云う女の人の携帯電話に表示されていた住所は、あたしの幼なじみの石川勇気の家だった。塗装があちこち剥げているプレハブ6階建ての「テラハウス」の3階と4階だ。
「バイト」
勇気の妹の仁愛ちゃんの声。
「じゃあ、聞くけど、ここに一二歳ぐらいの香港の金持ちの糞ガキが来てるか?」
「それっぽいのが遊びに来てたけど、あの子、金持ちだったの? つか、誰?」
「そのガキの知り合いだ。昨日、ここに居る友達のとこに行くと言い残して消えたんで、大騒ぎが起きてる」
「友達って、何の友達?」
中から仁愛ちゃんが出て来た。
「オンラインRPG」
「じゃあ、学校の電算機室じゃないかな? あそこなら夏休み中でもPCが使えるし」
「なら、すまない、場所だけ教えて……いや、待て、まさか……」
「うん、部外者は入れない。まぁ、生徒か先生と一緒なら入れるから、実質、ザルなんだけどね」
「それなら、ここで、待たせてもらって良いかな?」
「連絡とかは出来ないの?」
「GPSで、場所を知られるのを避ける為に……携帯電話そのものを置いて行きやがった」
「ところで、最大の問題。レナ姉、この人、信用していいの?」
「……う……うん、大丈夫だと思う」
多分、仁愛ちゃんが考えているより大きい問題が有る。荒木田さんが、信用出来ない人でも、何とかする方法は……多分、無い。
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