上 下
1 / 59

序章

しおりを挟む
 あの悪夢と悲劇が起きてから、丁度、一〇年目のその日、「東京」の各地で慰霊祭が行なわれている中、「」発のから二〇人近い男女が「」の一角……「」と呼ばれている場所に有る港に降り立った。
 かつて存在した「本物の上野」から「本物の有楽町」までは、電車で一〇分かそこらだったらしいが、今では「上野」と「有楽町」を行き来するには、高速船でも片道一時間近くかかる。一般のフェリーであれば、それより数割増しだ。
「おい、魔導師がビジネスマンのコスプレか?」
 フェリーから降りた一団のリーダーらしき三〇代の男は、出迎えたスーツにネクタイに眼鏡の同じ位の年齢の女性にそう言った。
 「上野」から来た一団は、男女比は、およそ6:4、背の低い者も居るが、誰もが服から覗く首や腕には筋肉が付いている。服装は一見するとバラバラだが、地味な色の動き易そうなものである点は共通していた。男女問わず髪は長くても五分刈り、全員が「ネックレス」と呼ぶには、あまりにゴツい「数珠」のようなアクセサリーを首にかけている。
「悪いね。『靖国神社』とは、いずれケリを付けるつもりだが……まだ、表立って動けない事情が有るんでね」
「以前の借りは、これでチャラだと思え。これ以上、俺達は、千代田区Site01のゴタゴタに関わる気はぇからな」
「お互い、昔が懐しいな。縄張シマも親分子分もややこしい義理も無い、ただのチンピラだった頃が」
「で、場所と目的は?」
「『秋葉原』の若い奴らと、『本土』から来た他所者よそものが、『靖国神社』が誘拐ぶっさらった子供ガキどもを取り戻しに行こうとしてるらしい。手助けしてやってくれ。その若い連中が持ってるGPSの識別コードと、そいつらの写真は今送った」
「その若い連中を『靖国神社』の連中の死霊術から守ってやれ、と云う訳か」
「そう云う事」
「で、あんたらの差金だと『靖国神社』にバレないようにしろ、と」
「ああ、もちろんだ」
「本当に、一介のチンピラだった頃が懐しいな。こんなややこしい打算も義理も無しで好きに動けた」
 関東甲信と静岡・愛知の多くの地域が富士山の噴火により壊滅して一〇年。俗に云う「関東難民」の内、ある者達は、被災地に残り、またある者達は「本土」で新しい生活を始めた。
 そして、それ以外の多くは……現在、Site01~04が存在し、Site05とSite06が建造中の巨大人工浮島メガフロート――通称「Neo Tokyo」――に移住した。
 唐津と壱岐の間に有るSite01――通称「千代田区」――は、更に4つの地区に分れていたが、一定の治安が保たれているのは通称「有楽町」地区のみで、残りの3つの地区「秋葉原」「神保町」「九段」は、異能の者達によって、かろうじて「暴力ちからによる秩序」が維持されている暗黒街アンダーワールドと化していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

No.82【短編】運び屋~記を運ぶ者~

鉄生 裕
SF
荒廃した世界を舞台に描く、一人の『運び屋』の物語

椿散る時

和之
歴史・時代
長州の女と新撰組隊士の恋に沖田の剣が決着をつける。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ

黒陽 光
SF
 その日、1973年のある日。空から降りてきたのは神の祝福などではなく、終わりのない戦いをもたらす招かれざる来訪者だった。  現れた地球外の不明生命体、"幻魔"と名付けられた異形の怪異たちは地球上の六ヶ所へ巣を落着させ、幻基巣と呼ばれるそこから無尽蔵に湧き出て地球人類に対しての侵略行動を開始した。コミュニケーションを取ることすら叶わぬ異形を相手に、人類は嘗てない絶滅戦争へと否応なく突入していくこととなる。  そんな中、人類は全高8mの人型機動兵器、T.A.M.S(タムス)の開発に成功。遂に人類は幻魔と対等に渡り合えるようにはなったものの、しかし戦いは膠着状態に陥り。四十年あまりの長きに渡り続く戦いは、しかし未だにその終わりが見えないでいた。  ――――これは、絶望に抗う少年少女たちの物語。多くの犠牲を払い、それでも生きて。いなくなってしまった愛しい者たちの遺した想いを道標とし、抗い続ける少年少女たちの物語だ。 表紙は頂き物です、ありがとうございます。 ※カクヨムさんでも重複掲載始めました。

お兄ちゃんのいない宇宙には住めません!~男装ブラコン少女の宇宙冒険記~

黴男
SF
お兄ちゃんの事が大・大・大好きな少女、黒川流歌’(くろかわるか)は、ある日突然、自分のやっていたゲームの船と共に見知らぬ宇宙へ放り出されてしまう! だけど大丈夫!船はお兄ちゃんがくれた最強の船、「アドアステラ」! 『苦難を乗り越え星々へ』の名の通り、お兄ちゃんがくれた船を守って、必ずお兄ちゃんに会って見せるんだから! 最強無敵のお兄ちゃんに会うために、流歌はカルと名を変えて、お兄ちゃんの脳内エミュレーターを起動する。 そんなブラコン男装少女が、異世界宇宙を舞う物語! ※小説家になろう/カクヨムでも連載しています

【実話】友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
青春
とあるオッサンの青春実話です

我々が守る価値はその人類にはあるのか?

あろえみかん
SF
あらすじ:十日前から日常がぐにゃりと歪み始める。足元から伸び上がるこの物質は何なのか、わからないままに夏の日は過ぎていく。六日前、謎の物質が発する声でフルヂルフィは自分の記憶を取り戻す。彼は記憶を消去した上で地球の生命体に潜入し、様々なデータを採集していたのだった。それらのデータで地球と人類の複製がラボで行われる。美しい星に住む人類はその存在意義を守る事ができるのか。それは守るものなのか、守られるものなのか。遠い遠い場所の話と思っていれば、それは既に自分の体で起こっている事なのかもしれない、そんな可能性のお話。

処理中です...