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第1章:ミッドナイト・ライダー
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「おい、何で、もう浮遊の効果が切れてる?」
浮遊の魔法で酒場の2階のベランダ席から大通りに降りた途端に、ローアがブチ切れた。
「え……だって……」
「『だって』じゃねえ。この状況だと、空飛んでかねえと、標的に追い付けねえだろうがッ‼」
……あ、まぁ、ローアの言う通り、通りは燃え盛りながら大通りを走ってる山車のせいで起きた火事から逃げようとしてる人達が山程居て、大混乱状態だ。
「母ちゃん、2階席の客が、どさくさに紛れて、食い逃げしようとしてるよッ‼」
その時、たまたま表に出てた酒場の看板娘が大声で怒鳴る。
「黙れッ‼」
ローアは得意の「猿ぐつわ」の魔法を、酒場の看板娘に……あ……えっ……?
看板娘は、魔法の猿ぐつわを力づくで引き千切る。
……って、何者だよ、こいつ?
「おい、若造。何、ビビっとるんじゃいッ?」
「ちょ……ちょっとシュタール……」
シュタールは戦斧を横殴りに振う。
いや……普通は「振り降す」だろうけど、小人症の人間を改造して作った偽ドワーフでは、身長が足りないんで、人間の頭を狙うのは困難だ。
だから、胴体を狙って横に振り……。
ガシンっ‼
シュタールの戦斧と、看板娘がたまたま手にしていたフライパンが激突し……。
「に……逃げた方が……いいよ……これ……」
「って、この娘……何者?」
フライパンには傷1つなく、シュタールの戦斧が手から弾け飛ぶ。
「あ……あ……あ……」
うろたえた表情で……自分の両手を見るシュタール。
その両手は……。
あ……どう見ても……アル中による手の震えだ。
そのせいで、握力が落ちてたらしい。
ドゴォッ‼
看板娘の前蹴りがシュタールの胴体に命中。
それも命中した場所は、正中線上じゃなくて、アル中のせいで弱ってる肝臓の辺り。
派手に吹っ飛んだ訳じゃない。
ただ、板金鎧が思いっ切り凹んだだけで。
蹴りのダメージだけじゃなくて、凹んだ鎧に内臓を圧迫されてるせいだと思うけど……シュタールは血と胃の中身を吐き……。
「食い逃げは捕まえたのかい?」
店の奥から……おかみさんの声。
たしか……この看板娘、何かドジする度に、おかみさんにブチのめされてた……。
……つまり……。
おかみさんは、こいつより強い。
おかみさんが出て来たら……僕たちは皆殺しだ。確実に。
ああああ、そう言えば、この辺りの酒場街で、「税金」を請求するヤクザを全然見掛けないと思ったら……そ……そんな……こんな無茶苦茶な裏が有ったのかッ⁉
「すいません、急用で、すぐに行かなきゃいけない所が有るんで、お金は倍払いますッ‼」
僕は、そう言って、財布を差し出した。
「足りないよ」
看板娘は、財布の中身を見ると、冷たくそう言った。
「へっ?」
「あんたらが飲み食いした分には足りてるけど、あんたが言った倍には足りない」
「あ……すいません、後で冒険者ギルドに請求して下さい」
「まぁ、いいけどね。なら行った、行った」
「はいいいいッ‼ あと、こいつの葬式代も冒険者ギルドに……」
僕は、一応は、まだ生きてるけど……助かるのは無理っぽそうな状態のシュタールを指差して、そう言った。
「わかった、わかった。さっさと消えな」
「は……はい……。ローア、シュネ、行く……」
そう口にした瞬間、僕は、ようやく気付いた。
あの2人は、既に近くには居なかった。
浮遊の魔法で酒場の2階のベランダ席から大通りに降りた途端に、ローアがブチ切れた。
「え……だって……」
「『だって』じゃねえ。この状況だと、空飛んでかねえと、標的に追い付けねえだろうがッ‼」
……あ、まぁ、ローアの言う通り、通りは燃え盛りながら大通りを走ってる山車のせいで起きた火事から逃げようとしてる人達が山程居て、大混乱状態だ。
「母ちゃん、2階席の客が、どさくさに紛れて、食い逃げしようとしてるよッ‼」
その時、たまたま表に出てた酒場の看板娘が大声で怒鳴る。
「黙れッ‼」
ローアは得意の「猿ぐつわ」の魔法を、酒場の看板娘に……あ……えっ……?
看板娘は、魔法の猿ぐつわを力づくで引き千切る。
……って、何者だよ、こいつ?
「おい、若造。何、ビビっとるんじゃいッ?」
「ちょ……ちょっとシュタール……」
シュタールは戦斧を横殴りに振う。
いや……普通は「振り降す」だろうけど、小人症の人間を改造して作った偽ドワーフでは、身長が足りないんで、人間の頭を狙うのは困難だ。
だから、胴体を狙って横に振り……。
ガシンっ‼
シュタールの戦斧と、看板娘がたまたま手にしていたフライパンが激突し……。
「に……逃げた方が……いいよ……これ……」
「って、この娘……何者?」
フライパンには傷1つなく、シュタールの戦斧が手から弾け飛ぶ。
「あ……あ……あ……」
うろたえた表情で……自分の両手を見るシュタール。
その両手は……。
あ……どう見ても……アル中による手の震えだ。
そのせいで、握力が落ちてたらしい。
ドゴォッ‼
看板娘の前蹴りがシュタールの胴体に命中。
それも命中した場所は、正中線上じゃなくて、アル中のせいで弱ってる肝臓の辺り。
派手に吹っ飛んだ訳じゃない。
ただ、板金鎧が思いっ切り凹んだだけで。
蹴りのダメージだけじゃなくて、凹んだ鎧に内臓を圧迫されてるせいだと思うけど……シュタールは血と胃の中身を吐き……。
「食い逃げは捕まえたのかい?」
店の奥から……おかみさんの声。
たしか……この看板娘、何かドジする度に、おかみさんにブチのめされてた……。
……つまり……。
おかみさんは、こいつより強い。
おかみさんが出て来たら……僕たちは皆殺しだ。確実に。
ああああ、そう言えば、この辺りの酒場街で、「税金」を請求するヤクザを全然見掛けないと思ったら……そ……そんな……こんな無茶苦茶な裏が有ったのかッ⁉
「すいません、急用で、すぐに行かなきゃいけない所が有るんで、お金は倍払いますッ‼」
僕は、そう言って、財布を差し出した。
「足りないよ」
看板娘は、財布の中身を見ると、冷たくそう言った。
「へっ?」
「あんたらが飲み食いした分には足りてるけど、あんたが言った倍には足りない」
「あ……すいません、後で冒険者ギルドに請求して下さい」
「まぁ、いいけどね。なら行った、行った」
「はいいいいッ‼ あと、こいつの葬式代も冒険者ギルドに……」
僕は、一応は、まだ生きてるけど……助かるのは無理っぽそうな状態のシュタールを指差して、そう言った。
「わかった、わかった。さっさと消えな」
「は……はい……。ローア、シュネ、行く……」
そう口にした瞬間、僕は、ようやく気付いた。
あの2人は、既に近くには居なかった。
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