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第一章:チキンラン

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「あの……『教授』、ちょっといいですか?」
 そろそろ寝ようかという時間帯になって、俺達3人がブチ込まれてる部屋に姐さんがやって来た。
「どうしました?」
「今日の報告書を『上』に送ろうとしたんですけど……何故かエラーになって……」
 そう言って、姐さんはモバイルPCを「教授」に渡す。
「ちょっと待って下さい……」
 「教授」の娑婆に居た頃の専門は生物学……特に脳科学だったが、理系の学者だったせいか、この手の事は、俺達の中で一番詳しい。
「えっと……このフェリーのWi-Fi経由で送ろうとした訳ですか?」
「ええ」
「機器トラブルらしいですね……このPCじゃなくて、フェリーの方の……」
「と言うと?」
「船内のWi-Fiには繋ってますが……外部にPingが送れないですね……」
「じゃあ、フェリーの職員に……ん?」
「どうした、刑務官センセイ?」
 姐さんは、自分の携帯電話ブンコPhoneを取り出した途端、妙な表情かおになった。
「偶然だと思います、これ?」
 そう言って俺達に向けた携帯電話ブンコPhoneの画面では……。
 アンテナが立ってない。
「後藤さんと『教授』は……ボディ・アーマーとガスマスクを装着して下さい」
「はい」
「了解」
「俺も変身しといた方がいいかい?」
 久米は、そう言いながら、シャツを脱ぐ。
「お願いします」
 姐さんはモバイルPCを操作し……。
「これ……どう云う事ですか?」
 護送対象のベトナム人達には……GPS付の足輪を付けてる筈だった。
 だが……PC上で起動されたアプリの画面には……全員分がエラーの表示。
「ちょっと待って下さい……信号が届いてない?」
 「教授」が画面を見ながら、そう言った。
 すう……。
 姐さんが深呼吸。
 それと共に……微かな「気」が放出される。
「8人……。4人づつの2手に分れて、この部屋に近付きつつあります」
 人の気配を感知する「魔法」だ……しかし……。
 これは……いうなれば……レーダーや潜水艦のアクティブ・センシング……場合によっては、相手にこっちが「気」を放った事を気付かれる。
「敵は……その……?」
「『気』の量・パターンからして……同業魔法使いじゃ有りませんが……『魔法』を阻害する護符を使っています」
「じゃ……物理攻撃で……」
 俺は両手に強化プラスチック製の棍棒を握る。
 折り畳んでいる状態では六〇㎝ほど……延ばせば、いわゆる「六尺棒」サイズになる。
「いくぞ……」
 狼男形態になった久米が部屋のドアを開け……。
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