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第一章:凡夫賊子/Ordinary People

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「マズいっすよ。本物の『異能力者』かも知れない奴の家にカチコミかけるなんて……」
 奴が住んでる団地までやって来て、仲間の1人の野口がそう言い出した。……そう、俺達がこの前、「正義の味方」「御当地ヒーロー」を自称するテロリストどもに殺されかけたあの団地だ。
 あれから、まだ一〇日経っていないのに、あいつらの陰謀によって、俺は殺人犯にされかかり、俺の一家は家庭崩壊寸前、親父はノイローゼで市長の仕事をマトモに出来なくなっているらしい。
 このツケは、必ずや自称「正義の味方」どもに支払わせてやる。
 銃で他人ひとを撃って良いのは、撃たれる覚悟が有る奴だけだ、と云う事を「正義の暴走」をやらかしやがってるクソ共に思い知らせるのだ。
「よし、わかった。先頭はお前だ、野口」
「えっ?」
「逃げようとしたら、どうなるか判ってるな」
「でも、まだ、この前の怪我が治ってなくて……」
 野口は片手を見せる。何の傷だったっけ?……ああ、「正義の味方」どもを銃殺しようとしたら、うっかり、排莢の際のスライドで自分の手を怪我した時のアレか?
「でも、これは持てるだろ?」
 そう言って、俺はバットを渡した。
「は……はい……」
 ヤツの部屋は団地の上の方の階だった。
 しかも、この団地にはエレベーターが無い。
 普段、運動してない奴らばかりなので、目的の部屋の前に辿り着いた頃には、全員が息も絶え絶えだった。
 野口はドアのチャイムを鳴らす。
 そして、ドアスコープから見えない位置に移動。
「どちら様ですか~?」
 かなり齢の男の声。
府川ふかわ健三さんのお宅はこちらでしょうか~? 宅配便です」
「はい、ちょっと待って下さい」
 玄関のドアが動く。
 野口はバットを振り上げ……。
「あれ?」
 出て来たのは……えっ?
 奴の父親は……まだ五〇代の筈なのに……七〇過ぎにしか見えない、痩せ細った男。
 髪はほとんど無く……わずかに残った髪も白髪。
 Wikipediaに載ってた現役サッカー選手だった頃の写真の面影は……ほんの微かにしか無い。
 そして、奴をブン殴る筈だった野口は……。
 馬鹿野郎が……。
 野口は、出て来た奴を横からバットで殴り付けるつもりだったらしいが、うっかり開いたドアが盾になって殴れない位置に居やがった。
 そして……。
 奴は俺の方を見て……。
「あれ……?」
「うわああああッ‼」
 俺は慌てて、爺ィと呼ぶには、多少若い齢の筈なのに、爺ィとしか呼べない外見のその男に体当りをした。
 その男の体は玄関のドアに激突し……。
「ぎゃあッ‼」
「ぐへえッ‼」
 何故か、悲鳴が2つ。
 1つは、玄関から出て来た標的の父親と思われる男。
 もう1つは……。
 標的の父親らしい男は、わざと玄関のドアに勢い良く激突しやがった。
 そのせいで、玄関のドアも勢い良く動き、ドアの背後うしろに居た野口がドアに思いっ切り激突。
「このクソ爺ィ。俺の手下ダチに何て真似しやがるッ‼」
 俺は冷静で理性的な大人の男だ。
 しかし、この状況では、仲間を傷付けた男に然るべき制裁を加えなければならない。
 これは俺が大嫌いな「正義の暴走」なんかじゃない。
 俺は、標的の父親らしき男の胸倉を掴み……。
「お……緒方さん……ここじゃマズいっすよ」
「な……何言ってるッ‼ こいつのせいで野口は……野口は……」
「あの……ここは『関東難民』だらけの団地っすよ。この団地全体が、俺達の敵も同じっすよ。やるなら、部屋の中で」
「あ……ああ、そうだったな、ちょっと来やがれ」
「あ……あんた達……誰だ……?」
 どんな「悪」よりタチが悪い「正義の暴走」をやらかしてるクソ野郎の質問など無視して当然だ。
 俺達は、標的の父親を部屋の中に連行した。
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