上 下
10 / 69
第一章:凡夫賊子/Ordinary People

(9)

しおりを挟む
「一郎……俺が悪かった……謝る。一生かけてお前に償いをする……。お前を、そんな人間に育ててしまった責任を取る。だから……せめて……深雪みゆきと優斗くんから輝かしい将来を奪うのだけはやめてくれ……。お前にも人の心が有るなら……実の妹とその亭主ぐらいは見逃してやってくれ……たのむ」
 親父オヤジの頭は……いつも以上にハゲが目立つ髪型だった……。ロクにブラシも入れてないモノを「髪型」と呼べればだが……。
 顔に浮ぶ表情は……俺の悪い頭では巧く表現出来ないが……どうやら、もう、怒る気力も無いようだ。
 義理の弟の優斗は……頭を抱え……、妹の深雪は、ゴミでも見る表情……。そして「警備顧問」の猿渡のおっちゃんは……居心地が悪そうな表情。
「父さん……優くん……やるべき事は簡単だよ。この馬鹿兄貴を、とっとと県警けいさつに突き出そうよ。今、やるべき事は『正しい事』だよ。あたしらの一家の将来が、どうなるかも単純な話だよ。……間違った事をやればやるほど、ドツボにハマってくだけ」
「そ……そんなのは……女子供の感情的な理想論だ……。……ウチの一家が受けるダメージを少なくする方法を冷静に考えてだな……」
「感情的になってるのは、父さんだよ。冷静に考えたら『この馬鹿兄貴を切り捨てれば、ウチの一家が受けるダメージが最小限になる』以外の答なんて出る筈が無いよ。大体、『ウチの一家』の問題なのに、何で、この場に母さんが居ないの?」
「おい、俺が何をやったって言うんだ? 俺は何もやってないぞ」
 顔を伏せてるバカ義弟おとうと以外は……完全にバカを見る目付きになった。
「でも……まだ時間的な余裕は有りますよ」
 そう言ったのは猿渡のおっちゃん。
「そこ、余計な事、言わない」
「ですけどね……ミニコミ誌の編集者の行方不明事件を捜査してんのは福岡県警。で、殺しの現場は……」
「隣の県だ……。確かに……時間は……稼げる……。県警同士の管轄ショバ争いで……。助かった……」
「ええっと……何か良く判んないけどさ……。猿渡さんの『奥の手』は使えないの?」
 とりあえず、馬鹿のフリをして聞くだけ聞いてみた。
「まだ……使えますよ……。最初にデータベースを作った暴力団は潰れましたが……古いバックアップが別の組織に流れて、それを元に新しいデータベースが作られてます」
「じゃあ、猿渡さん、まだ……そのデータベースを使えんの?」
「アクセスは出来ますよ。でもね……伝家の宝刀は抜くフリをする為に使うモノなんですよ……。本当に抜いちゃったら、それは宣戦布告。始まるのは、我々と複数の広域警察に近隣の県警の本気の戦争ですよ。血みどろのね」
 そうか……まだ最終兵器は残ってはいる……。
 猿渡のおっちゃんが「ヤクザに情報を流してたマル暴の刑事」ってトンデモない立場なのに「表向きは自己都合退職」で済んでるのは……この「最終兵器」のお蔭だ……。
 福岡と隣県の県警……いくつかの広域警察……そして近隣の地方検事……。そいつらの個人情報が……全部じゃないが「裏」に流れた。
 その一部を流したのは……この猿渡のおっちゃんだ。
 そして、警察や検察は……ヤクザと、このおっちゃんに金玉を握られてるも同じだ……。
 例えば、警察のエラいさんの子供が行ってる学校と、その子供の通学路……。あるいは、検察官が老いぼれた親を預けてる老人ホームの住所。自分の組織のエラいさんの家族が、いつ、誘拐されるか判んないとなれば……警察でも……。
 ……万が一の事を考えて……猿渡のおっさんから……その情報を提供してもらう必要が有るが……さて、どうするか……?
 ふと気付いたら……何故か、いつの間にか……クソ義弟おとうとだけじゃなくてクソ妹も……夫婦仲良く頭を抱えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】Atlantis World Online-定年から始めるVRMMO-

双葉 鳴|◉〻◉)
SF
Atlantis World Online。 そこは古代文明の後にできたファンタジー世界。 プレイヤーは古代文明の末裔を名乗るNPCと交友を測り、歴史に隠された謎を解き明かす使命を持っていた。 しかし多くのプレイヤーは目先のモンスター討伐に明け暮れ、謎は置き去りにされていた。 主人公、笹井裕次郎は定年を迎えたばかりのお爺ちゃん。 孫に誘われて参加したそのゲームで幼少時に嗜んだコミックの主人公を投影し、アキカゼ・ハヤテとして活動する。 その常識にとらわれない発想力、謎の行動力を遺憾なく発揮し、多くの先行プレイヤーが見落とした謎をバンバンと発掘していった。 多くのプレイヤー達に賞賛され、やがて有名プレイヤーとしてその知名度を上げていくことになる。 「|◉〻◉)有名は有名でも地雷という意味では?」 「君にだけは言われたくなかった」 ヘンテコで奇抜なプレイヤー、NPC多数! 圧倒的〝ほのぼの〟で送るMMO活劇、ここに開幕。 ===========目録====================== 1章:お爺ちゃんとVR   【1〜57話】 2章:お爺ちゃんとクラン  【58〜108話】 3章:お爺ちゃんと古代の導き【109〜238話】 4章:お爺ちゃんと生配信  【239話〜355話】 5章:お爺ちゃんと聖魔大戦 【356話〜497話】 ==================================== 2020.03.21_掲載 2020.05.24_100話達成 2020.09.29_200話達成 2021.02.19_300話達成 2021.11.05_400話達成 2022.06.25_完結!

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

骸を喰らいて花を咲かせん

藍染木蓮 一彦
SF
遺伝子操作された少年兵たちが、自由を手に入れるまでの物語───。 第三次世界大戦の真っ只中、噂がひとり歩きしていた。 鬼子を集めた、特攻暗殺部隊が存在し、陰で暗躍しているのだとか。 【主なキャラクター】 ◾︎シンエイ ◾︎サイカ ◾︎エイキ 【その他キャラクター】 ◾︎タモン ◾︎レイジ ◾︎サダ ◾︎リュウゴ ◾︎イサカ

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

彼女の嘘と、幼き日の夢

如月ゆう
SF
 目を覚ますと、そこは見知らぬ場所だった。  目の前には少女が一人。宝石のような紅い瞳と真っ白な肌と髪が特徴的で――。  これは私と彼女が出会い、別れるまでの物語。  ― ― ― ― ― ― ― ―  小説投稿サイト『エブリスタ』より『三行から参加できる 超・妄想コンテスト 第76回「優しい嘘/悲しい嘘」』投稿作品の原文です。  ありがたいことですが、ピックアップルーキー賞を頂きました。

【完結】カラスとすずらん ~意識低い系冒険者パーティの台所を預かっています~平凡なわたしと、闇を抱えた彼の恋の話~

天草こなつ
恋愛
「わたしは彼の、灯火になりたい」――。 平凡な日常を送る少女と、たくさんのものを背負わされ平凡に生きることができない男。 そんな二人の、甘く切ない恋の話。 二人や仲間達がそれぞれ関わっていくうちに、過去や傷と向き合い自分のあり方を見つけていく人生と心の話。 ◇◇◇ 【1部:1~6章】『意識低い系冒険者パーティの台所を預かっています』 レイチェルは薬師の学校に通うごく普通の女の子。 恋愛小説大好き、運命の出会いに憧れる、恋に恋する18歳。 この世界の不思議な事象や伝説なんかとは無縁の平凡な日常を過ごしている。 目下の楽しみは、図書館にいる司書のお兄さんに会うこと! ある日彼女は冒険者ギルドでアルバイト募集の貼り紙を見つける。 仕事内容は冒険者パーティの皆さんのご飯を作ること。 高い給料に惹かれて行ってみると、なんと雇い主はあの司書のお兄さん……!? 彼の名前はグレン。 見た目に反してちょっと天然でマイペース、日常がポンコツな残念イケメン。 彼を筆頭に、他の仲間もみんなやる気がない"意識低い系"の変な人達ばかり。 最初こそ面食らってしまったレイチェルだったが、持ち前の明るさと気楽さで徐々に打ち解けていく。 一緒においしい物を食べたりおしゃべりをしたり……そんな日々を楽しく過ごしている中、ある1つの大きな出来事に直面する。 それをきっかけに仲間達の関係、そしてレイチェルの心も動き出す――。 【2部:7章~12章】『平凡なわたしと、闇を抱えた彼の恋の話 』 レイチェルの思い人、グレン。 彼の背負った悲惨な過去、そして心に溜め込んだ闇が全ての陰惨な事象に絡みつき、やがて2人と仲間を悲しみと絶望に引き込んでいく。 【3部:13章~】『どうか、誰か、この手を』 ベルナデッタが聖女候補に選ばれ、実家に戻ることに。 その一方、砦では男性メンバーが全員逮捕されてしまう。 グレンとジャミルはすぐに釈放されたが、カイルだけが戻らない。 それらの出来事には全て、イリアスの意志が絡んでいた。 なぜカイルは戻らないのか。イリアスの企みとは何か……? こちらを元にしたマンガもあります ギャグです 【カラすず( ´_ゝ`)(´<_`  ) 】 https://www.alphapolis.co.jp/manga/172691144/305508181 ◇◇◇ ※5章から色々なキャラ視点で進行する群像劇風味になります。 ※通貨以外の単位は現実の物を使用します。 ※19世紀~20世紀初頭の欧米をイメージとした異世界です。食べ物はなんでもアリです。 カクヨムさん・ノベプラさん・小説家になろうさんにも投稿中です。

処理中です...