改名要請

蓮實長治

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改名要請

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「法的根拠が見当りません。無理です」
『何が無理だ? 早くしろ。もう……マスコミに容疑者達の名前が流れてしまったんだぞ』
 たしかに大事件だったが……東京で起きた事だ、ウチには関係あるまい。
 初めは、そう思っていた。
 ところが、どうやら現行犯逮捕された犯人2人の本籍地が、ウチの市である事が判明したらしい。
 それでも、市役所の戸籍係である俺に火の粉が飛んで来る理由が判らなかった。
『警察は、与党本部に爆弾テロを行なった容疑で、大学の非常勤講師の「おがた ただし」容疑者と、その弟で与党本部職員の「おがた たけし」容疑者を現行犯逮捕しました。この事件の死傷者は、現時点で判明している限りでも、四〇人以上と見られており、複数の閣僚・党役員が含まれて……』
 主要な動画サイトには、既に東京のTV局が臨時ニュースをUPしていた。
『何をグズグズしてる、もう、WEBには容疑者の本名が流れるぞ……。ああああ……今、主要な全国紙の号外が刷り上がったと云う連絡が……』
「ですから、無理なモノは無理です」
『ふざけんな、テロの犯人が、こんな名前だったら……どんな社会的混乱が起きると思ってるんだ⁉』
 電話の向こうに居る政治家だか中央省庁の高級官僚だかは……ヒステリックと言うかオステリックと呼ぶべきか……ともかく、エリート様に似つかわしくない感情的な感じで支離滅裂な罵詈讒謗を喚き散らし続けていた。
 気持ちは判る。
 テロの容疑者が、こんな名前なんて、たしかに悪い冗談にしか思えない。
 しかも、国民が、与党の熱烈支持者と与党を悪の化身と見做す人達の両極端に2分された状態で、与党の支持率に翳りが見え始めた時に、与党本部でテロを起した奴の名前がコレだ。
 でも……向こうだって判ってる筈だ。
 本人の申請や同意なく、戸籍上の名前を変えるなんて法律上は無理だと。
『てめぇのせいだ。とうとう、WEBニュース上に奴らの本名が流れたぞ。クソッ‼ 別件逮捕その他、あらゆる手を使って、貴様の社会的生命を抹殺してやるから覚悟しておけッ‼』
 そんな事言われても……どうすれば良かったんだ?
 WEBニュースサイトを開く。
 そこには臨時ニュースが上がっていた。
『与党本部への爆弾テロの容疑で大学非常勤講師の緒方と与党本部職員の緒方を現行犯逮捕』
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