あの政党・政治家は嫌いなんで、ヤツらへの批判を許す訳にはいかない

蓮實長治

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あの政党・政治家は嫌いなんで、ヤツらへの批判を許す訳にはいかない

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 いわゆる「マスゴミ」が絶滅危惧種と化して、十数年が過ぎた。
 俺が支持している政治家への下らない揚げ足取りを目にする事は無くなったが……残念ながら、その代償は有った。
 今や……SNSで、俺とは政治的な立場や意見が逆のヤツらもフォローせざるを得ない。
 俺だけじゃない……例え、俺と政治的な立場や意見が違ってるヤツでも、政治に関心が有るヤツは、誰でもそうだ。
 そして、俺が若い頃から、ある経験則が有った。
『たまには自分と違う意見も聞いてみるか、と思って、わざと、政治や社会問題についての考え方が逆のヤツをSNSでフォローすると、何故か、その相手は単なる「政治や社会問題についての考え方が自分とは逆のヤツ」ではなく、「政治や社会問題についての考え方が自分とは逆のヤツの中でも更に人格的に問題が有るヤツ」である可能性が高い』
 今日も今日とて、SNSで俺にとっては単なる「政治や社会問題についての考え方が自分とは逆のヤツの意見」ではなく、「政治や社会問題についての考え方が自分とは逆のヤツの中でも更に人格的に問題が有るヤツの意見」を見なければならなくなる。
 ……これが「マスゴミ」が絶滅危惧種と化したと云う喜ばしい事態の思わぬ副作用だ。
 俺が政党や、それに所属している政治家が何をやっているかの情報を入手したければ……「マスゴミ」の報道より遥かに不快なSNS上の書き込みをチェックし続ける必要が有るのだ。

 俺の親の世代が「マスゴミ」と呼んでいるモノは、俺が子供の頃に絶滅危惧種と化していた。
 俺の親の世代が今の俺ぐらいの齢の頃、更に上の世代から「デジタル・ネイティブ」と呼ばれてたらしいが……それに対して俺達は「政治や社会の様々なニュースは、マスコミの報道ではなく、SNSや動画サイトを通して知るしかない」最初の世代だ。
 だから……親の世代とは、例え、同じ政党や政治家を支持していても、ある重大な断然が有った。
 いや……無党派層なら、そんな断絶は小さいが……選挙の時には、いつも、特定の政党にしか投票しないような人間にとってこそ、……そんな状況が続いていた。
 残念ながら……親の世代は気付いていないようだが……。

 俺が嫌いな政党の政治家が動画サイトに上げたメッセージ……SNSでフォローしているヤツが、それを称賛する書き込みを行なっていた。
 もちろん、フォローしてる理由は「俺が支持しているのとは違う政党の情報を仕入れる為」だ。
 これこそが……「マスゴミ」の言う事に誰も耳を傾けなくなった素晴らしい世界における数少ない素晴らしくない副作用だ。
 「マスゴミ」が機能している頃なら、「失言」として叩かれていた発言も……今や、SNSでは、阿呆な支持者どもの称賛の声は山程有っても、批判の声は、ほとんど無い。
 仕方ない……。
 俺は、その動画へのリンクを貼り、そして、まず、こう書いた。
「#拡散希望……」

「#拡散希望……」
 その一言で始まる、ある政治家の「失言」を批判するSNSの書き込みを見た時、溜息をつくしか無かった。
 俺の親の世代は、これだから駄目なのだ。
 今や、政治に関心が有る人間であればあるほど、自分が積極的に支持している政治家の事しか知らない。
 つまり……無党派層は、ほぼ政治家の事を知らないと云う事だ。
 では、自分が支持していない政治家の当選や、自分が支持していない政党の議席が増えるのを阻止したければ、どうすべきか?
 答は簡単だ。
 
 ある人間にとっての「政治家の失言」は、意見が違う人間にとっては「ある政治家か自分の考えに近い事を言った」になってしまう。
 俺とは政治や社会問題についての意見が違うヤツが、SNSに、支持する政治家の話題を書き込むのを防ぐ手段は無い。
 だが……俺と似た考えのヤツが、だ。
 幸いにも、その書き込みは……キツい言い方で、問題の政治家の「失言」を批判していた。
 なら、手は残っている。
 俺は、を、SNSの運営に「名誉毀損的な内容」として通報した。

「今度の選挙の日、帰って来るんで、泊めてもらえる?」
 住民票は、こっちに置いたままだが、隣の県の大学の寮に入っている息子から、ビデオメッセージが入ってきた。
「ああ……いいけど……」
「父さん……どうしたの? 元気無いけど……」
「いや……今度の選挙の事で……SNSに○○党の候補への批判を書いたら……○○党の支持者のヤツが通報しやがったみたいで、SNSのアカウントが凍結されたんだ……」
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