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第一章:The Intern
スカーレット・モンク(1)
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愛は戦いである
武器のかわりが
誠実であるだけで
それは地上における
もっともはげしい きびしい
みずからをすててかからねばならない
戦いである――
梶原一騎&ながやす巧「愛と誠」より
まず、棒術の型を5分。
続いて、居合と剣術の型を5分。
最後に素手の型を5分。
「毎日じゃなくていい。2~3日に1回は、それをやれ。動きのパターンが変ったら、その『型』をスムーズに出来なくなる筈だ。そうなったら、腕が落ちてるか……逆に上がってる証拠だ」
あたしの師匠の片方である高木瀾は、そう言った。
数年前に大怪我を負い「ヒーロー」を引退。長いリハビリの結果、ようやく、「近所のコンビニまでなら歩いて行き来できる」ぐらいまでには回復したが……1㎞を超える移動には車椅子と介護ロボットが必須、「現場」に戻るのは一生無理で、本人にも、その気は無い。
かつては「悪鬼の名を騙る苛烈なる『正義の女神』」とまで呼ばれた「伝説のヒーロー」だった事を示すものは……このクサい渾名を本人の前で言った時の、おっかない表情ぐらいだ。
知らない人間から見れば三〇前で人生が終ったように思えるだろうが……本人は妙にサバサバと長い「余生」を楽しんでいるらしかった。
長いと言っても、「ヒーロー」を引退した時の怪我のせいで、多分、六〇まで生きる事すら絶望的らしく、もう人生の折り返し地点を過ぎている。
「よし、次だ」
続いて、もう1人の師匠である関口陽の「気」が高まる。
「吽っ‼」
「師匠」の気合より一瞬前に、脳裏に「守護尊」である摩利支天を表わす梵字を思い浮かべる。
実在が確認されている強大な霊的存在から本当に力を借りている「流派」も有るらしいが、私達の「流派」で云う「守護尊」は「どの系統の術が得意か?」を示す「記号」に過ぎない。
「摩利支天が守護尊」とは、得意な術が、「太陽の光に含まれる霊力」を源とする光・浄化・熱・隠形に関係するものである事を表わす。
そして、私が「隠形」で気配を消すと、師匠が放った「気弾」は目標を見失い、明後日の方向に消える。
遥か大昔の二〇世紀のマンガや格闘ゲームと違って、実際の「気弾」は「呪詛」の一種。
相手の「気配」を認識える事が出来なければ命中させる事は出来ない。
「あの……そろそろ、現場に出してもらえ……えっと……」
あたしが、そう言った途端に、2人の師匠は顔を見合せる。
「お前の希望は叶えてやる。ただし、その代り、学校の勉強もちゃんとやれ。大学ぐらいは出るようにしろ」
瀾「師匠」は、そう言った。
「や……やっぱ、『正義の味方』って、一生モノの仕事じゃないんすか?」
「判らん……『正義の味方』が生まれてから、まだ、三十何年かだ……。今後、どうなるか知れたモノじゃない。世の中が『正義の味方』を必要としなくなっても、生活出来る手段は確保しておけ」
「は……はぁ……」
「それに、私の死んだ師匠から……『お前に弟子が出来たら、必ず教えろ』と言われてた事が有る。お前にも、もし、将来、弟子が出来たら、必ず言っておけ」
「なんすか?」
「自分達が不要になった世界を夢見ない者に、戦士の資格は無い」
武器のかわりが
誠実であるだけで
それは地上における
もっともはげしい きびしい
みずからをすててかからねばならない
戦いである――
梶原一騎&ながやす巧「愛と誠」より
まず、棒術の型を5分。
続いて、居合と剣術の型を5分。
最後に素手の型を5分。
「毎日じゃなくていい。2~3日に1回は、それをやれ。動きのパターンが変ったら、その『型』をスムーズに出来なくなる筈だ。そうなったら、腕が落ちてるか……逆に上がってる証拠だ」
あたしの師匠の片方である高木瀾は、そう言った。
数年前に大怪我を負い「ヒーロー」を引退。長いリハビリの結果、ようやく、「近所のコンビニまでなら歩いて行き来できる」ぐらいまでには回復したが……1㎞を超える移動には車椅子と介護ロボットが必須、「現場」に戻るのは一生無理で、本人にも、その気は無い。
かつては「悪鬼の名を騙る苛烈なる『正義の女神』」とまで呼ばれた「伝説のヒーロー」だった事を示すものは……このクサい渾名を本人の前で言った時の、おっかない表情ぐらいだ。
知らない人間から見れば三〇前で人生が終ったように思えるだろうが……本人は妙にサバサバと長い「余生」を楽しんでいるらしかった。
長いと言っても、「ヒーロー」を引退した時の怪我のせいで、多分、六〇まで生きる事すら絶望的らしく、もう人生の折り返し地点を過ぎている。
「よし、次だ」
続いて、もう1人の師匠である関口陽の「気」が高まる。
「吽っ‼」
「師匠」の気合より一瞬前に、脳裏に「守護尊」である摩利支天を表わす梵字を思い浮かべる。
実在が確認されている強大な霊的存在から本当に力を借りている「流派」も有るらしいが、私達の「流派」で云う「守護尊」は「どの系統の術が得意か?」を示す「記号」に過ぎない。
「摩利支天が守護尊」とは、得意な術が、「太陽の光に含まれる霊力」を源とする光・浄化・熱・隠形に関係するものである事を表わす。
そして、私が「隠形」で気配を消すと、師匠が放った「気弾」は目標を見失い、明後日の方向に消える。
遥か大昔の二〇世紀のマンガや格闘ゲームと違って、実際の「気弾」は「呪詛」の一種。
相手の「気配」を認識える事が出来なければ命中させる事は出来ない。
「あの……そろそろ、現場に出してもらえ……えっと……」
あたしが、そう言った途端に、2人の師匠は顔を見合せる。
「お前の希望は叶えてやる。ただし、その代り、学校の勉強もちゃんとやれ。大学ぐらいは出るようにしろ」
瀾「師匠」は、そう言った。
「や……やっぱ、『正義の味方』って、一生モノの仕事じゃないんすか?」
「判らん……『正義の味方』が生まれてから、まだ、三十何年かだ……。今後、どうなるか知れたモノじゃない。世の中が『正義の味方』を必要としなくなっても、生活出来る手段は確保しておけ」
「は……はぁ……」
「それに、私の死んだ師匠から……『お前に弟子が出来たら、必ず教えろ』と言われてた事が有る。お前にも、もし、将来、弟子が出来たら、必ず言っておけ」
「なんすか?」
「自分達が不要になった世界を夢見ない者に、戦士の資格は無い」
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