3 / 3
第一章:デスコマンダー・神保めぐみ
(2)
しおりを挟む
強い「想い」を持つ者が死ぬと、「怨霊」が生まれる。そして、もし「怨霊」が人を殺すと、その中から、また「怨霊」が生まれる。
そんな現象が、いつの頃からか多発するようになっていた。
そして、人間の死が、あまりに身近なであると同時に、あまりに忌しいものである時代が到来した。
たった1人の人間が自然死する事さえも、数十・数百の更なる死を呼びかねない時代。
昨日まで、あるいは一瞬前まで、家族や友人や恋人だった者が「死」によって、自分を命を奪う怪物に変りかねない時代。
そして、自分も「死」によって、大事な誰かを惨たらしく殺す化物に変貌する可能性に怯えねばならぬ時代。
もちろん、大規模自然災害発生時には、人口数十万の都市が丸々1つ「死者の町」と化す事さえ珍しくない。
その現象への対策として生まれたのが「霊的公安機構」および、その実働部隊である「レンジャー隊」だ。
『第3レンジャー隊、現場であるK市S地区のH電機K市工場に到着しました』
死亡事故により「怨霊」が発生したと見られる工場に派遣された千葉県K市支部のレンジャー隊の隊長は、支部にそう連絡した。
霊的公安機構の支部は、各都道府県庁所在地と、一定以上の人口の都市に設置されている。政令指定都市には複数の支部が有る事も多い。
『了解した。ただし、怨霊の撃破よりも従業員の避難を優先させろ。また、工場の機器の破損は可能な限り避けろ』
『待って下さい。貴官はどなたですか?』
応答の声は隊長が聞き慣れぬものだった。
『霊的公安機構総本部・作戦統括部第3課の古賀孝明課長だ。今回の件については我々が指揮を取る』
『何故、「九段」の方が?』
霊的公安機構の全国本部は、東京都千代田区の靖国神社の近くに有り、所在地から「九段」とも呼ばれていた。
『今回の事象が発生した工場は、レンジャー隊の装備の開発および製造を行なっている。一歩間違えば、全国のレンジャー隊の戦力低下を招く。事の重大性を鑑み、総本部が直接、指揮を取る事になった』
『了解しました。しかし、避難誘導が優先であれば、一般警察などの協力を仰ぐべきと愚考します』
『残念ながら、一般警察や自衛隊では怨霊に対抗出来ない。消防などの救急隊では猶の事だ。レンジャー隊で対処するしか無い』
『しかし、レンジャー隊の任務は、あくまで怨霊撃破です。避難誘導などの訓練は受けていません』
『君達の支部と隣のM市に配備されている全レンジャー隊を出動させた。それで対応してくれたまえ』
冗談では無い。それが隊長の感想だった。
レンジャー隊の「人間」は隊長と後方支援要員のみ。戦闘要員の大半は……。
そんな現象が、いつの頃からか多発するようになっていた。
そして、人間の死が、あまりに身近なであると同時に、あまりに忌しいものである時代が到来した。
たった1人の人間が自然死する事さえも、数十・数百の更なる死を呼びかねない時代。
昨日まで、あるいは一瞬前まで、家族や友人や恋人だった者が「死」によって、自分を命を奪う怪物に変りかねない時代。
そして、自分も「死」によって、大事な誰かを惨たらしく殺す化物に変貌する可能性に怯えねばならぬ時代。
もちろん、大規模自然災害発生時には、人口数十万の都市が丸々1つ「死者の町」と化す事さえ珍しくない。
その現象への対策として生まれたのが「霊的公安機構」および、その実働部隊である「レンジャー隊」だ。
『第3レンジャー隊、現場であるK市S地区のH電機K市工場に到着しました』
死亡事故により「怨霊」が発生したと見られる工場に派遣された千葉県K市支部のレンジャー隊の隊長は、支部にそう連絡した。
霊的公安機構の支部は、各都道府県庁所在地と、一定以上の人口の都市に設置されている。政令指定都市には複数の支部が有る事も多い。
『了解した。ただし、怨霊の撃破よりも従業員の避難を優先させろ。また、工場の機器の破損は可能な限り避けろ』
『待って下さい。貴官はどなたですか?』
応答の声は隊長が聞き慣れぬものだった。
『霊的公安機構総本部・作戦統括部第3課の古賀孝明課長だ。今回の件については我々が指揮を取る』
『何故、「九段」の方が?』
霊的公安機構の全国本部は、東京都千代田区の靖国神社の近くに有り、所在地から「九段」とも呼ばれていた。
『今回の事象が発生した工場は、レンジャー隊の装備の開発および製造を行なっている。一歩間違えば、全国のレンジャー隊の戦力低下を招く。事の重大性を鑑み、総本部が直接、指揮を取る事になった』
『了解しました。しかし、避難誘導が優先であれば、一般警察などの協力を仰ぐべきと愚考します』
『残念ながら、一般警察や自衛隊では怨霊に対抗出来ない。消防などの救急隊では猶の事だ。レンジャー隊で対処するしか無い』
『しかし、レンジャー隊の任務は、あくまで怨霊撃破です。避難誘導などの訓練は受けていません』
『君達の支部と隣のM市に配備されている全レンジャー隊を出動させた。それで対応してくれたまえ』
冗談では無い。それが隊長の感想だった。
レンジャー隊の「人間」は隊長と後方支援要員のみ。戦闘要員の大半は……。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
視える棺―この世とあの世の狭間で起こる12の奇譚
中岡 始
ホラー
この短編集に登場するのは、「気づいてしまった者たち」 である。
誰もいないはずの部屋に届く手紙。
鏡の中で先に笑う「もうひとりの自分」。
数え間違えたはずの足音。
夜のバスで揺れる「灰色の手」。
撮ったはずのない「3枚目の写真」。
どの話にも共通するのは、「この世に残るべきでない存在」 の気配。
それは時に、死者の残した痕跡であり、時に、境界を越えてしまった者の行き場のない魂でもある。
だが、"それ"に気づいた者は、もう後戻りができない。
見てはいけないものを見た者は、見られる側に回るのだから。
そして、最終話「最期のページ」。
読み進めることで、読者は気づくことになる。
なぜ、この短編集のタイトルが『視える棺』なのか。
なぜ、彼らは"見えてしまった"のか。
そして、最後のページに書かれていたのは——
「そして、彼が振り返った瞬間——」
その瞬間、あなたは気づくだろう。
この物語の本当の意味に。

子どもの頃住んでいた家がほぼお化け屋敷だった
龍輪樹
ホラー
大学一年の頃まで住んでいた家がほぼお化け屋敷でした。
いわゆる幽霊みたいなものは見たことが無いですし、本人は霊感は無いと思っています。
ただ、変なものによく遭遇しました。
タイトルは家ですが、家以外でも色々あったので、少しずつ書いていきたいと思います。
★注意★
実体験を基にしていますが、フェイクや脚色を入れています。登場する人物、地名、団体等は、実在のものとは一切関係ありません。
あくまでフィクションとしてお楽しみください。
こわくて、怖くて、ごめんなさい話
くぼう無学
ホラー
怖い話を読んで、涼しい夜をお過ごしになってはいかがでしょう。
本当にあった怖い話、背筋の凍るゾッとした話などを中心に、
幾つかご紹介していきたいと思います。
同居人
JUN
ホラー
急な異動で引っ越すことになった主人公は、安いマンションに入居する。しかしこの家に入ったその日からおかしな事が起こり、幽霊が居着いていた事が発覚。しかし害のない幽霊らしいと、寂しさもあって、同居生活を始めた。
都市伝説ガ ウマレマシタ
鞠目
ホラー
「ねえ、パトロール男って知ってる?」
夜の8時以降、スマホを見ながら歩いていると後ろから「歩きスマホは危ないよ」と声をかけられる。でも、不思議なことに振り向いても誰もいない。
声を無視してスマホを見ていると赤信号の横断歩道で後ろから誰かに突き飛ばされるという都市伝説、『パトロール男』。
どこにでもあるような都市伝説かと思われたが、その話を聞いた人の周りでは不可解な事件が後を絶たない……
これは新たな都市伝説が生まれる過程のお話。

視える棺2 ── もう一つの扉
中岡 始
ホラー
この短編集に登場するのは、"視えてしまった"者たちの記録である。
影がずれる。
自分ではない"もう一人"が存在する。
そして、見つけたはずのない"棺"が、自分の名前を刻んで待っている——。
前作 『視える棺』 では、「この世に留まるべきではない存在」を視てしまった者たちの恐怖が描かれた。
だが、"視える者"は、それだけでは終わらない。
"棺"に閉じ込められるべきだった者たちは、まだ完全に封じられてはいなかった。
彼らは、"もう一つの扉"を探している。
影を踏んだ者、"13階"に足を踏み入れた者、消えた友人の遺書を見つけた者——
すべての怪異は、"どこかへ繋がる"ために存在していた。
そして、最後の話 『視える棺──最後の欠片』 では、ついに"棺"の正体が明かされる。
"視える棺"とは何だったのか?
視えてしまった者の運命とは?
この物語を読んだあなたも、すでに"視えている"のかもしれない——。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる