東京五輪大失敗

蓮實長治

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東京五輪大失敗

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「貴方は、かつて、SNSで数千人ものフォロワーを持っていた。有名人でも何でもない人としては驚異的な数だ」
 ボクは警察は警察でも、公安関係の部署の警官に取調べを受けていた。
 参考人と称する事実上の容疑者……いや「犯人」扱いだ。
「い……いや……それが重荷になって……その……」
「なるほど……私の次の質問が『なのに、何故、SNSのアカウントを削除したのか?』だと予想が付いた訳ですね? 何故ですか?」
「ええっと……」
「では……お仲間の個人情報の御提供をお願いします」
「えっ?」
「だから、東京五輪を失敗に導いた秘密結社のお仲間ですよ」
「あの……本当にそう云う連中が居ると……」
「何、すっとぼけてんだっ⁉ おめえがそうだろうがッ‼」
 「悪い警官」役の警官がそう叫んで机を叩いた。
 「善い警官」役の警官は、それを制した。……もしくは、制するフリをした。
 やり口は頭では判っている。しかし……それでも……。
「ええ……私達も……時々は『本当に、そんな連中が居るのか?』と思う事が有りますよ。でもね……上から言われてるんですよ」
 冷静で、何の感情も込もらぬ口調。
「貴方に同情したりするとね……私達も無事じゃ済まないんですよ。貴方が、SNSで東京五輪に批判的な書き込みをした事は判っています。そして、東京五輪を中止に追い込んだ秘密結社の存在が明らかになった後に、SNSアカウントを削除した。……貴方が秘密結社の一員だと考えざるを得ないんですよ」
 そして、冷静だったり感情的ではなかったりする事は……その人が狂っていない事の傍証ですらない。
「あ……あの……」
 ここ何年か……日本でも……アメリカなどの他の国でも……「フィクションだったら編集者に止められる」ような馬鹿な事が次々と起きた。
 公文書は堂々と改竄され……陰謀論が一国の大統領選挙の結果に影響を及ぼし……物理的には有り得るが、そんな真似をやる馬鹿が居る筈は無い……そんな事が次々と起きていた。
 そして、とうとう……東京五輪の開催中止が決った時、政治家達が、とんでもない陰謀論を信じ始めたのだ……。
『東京五輪の開催中止を目論んでいた反日秘密結社が存在する』
 初めの内は、皆、半笑い気味だった。
 しかし……この世界には「同調圧力」と云うモノが有る。
 ……そんな陰謀論を「信じているフリ」をしないと身が危険になるまで、半年かからなかった。
 SNSに東京五輪批判の書き込みをした者は、身の危険を感じ、かつての書き込みや……アカウントそのものを消したが……その行為自体が、秘密結社の一員だと云う傍証にされ……。
「わ……わかりました……っ‼ 貴方達が云う『秘密結社』のリーダーの名前をっ‼」
「ほう……言って下さい……」
 ボクは……東京五輪組織委員会の会長だった元首相の名を叫び……。
 次の瞬間……「悪い警官」の鉄拳が飛んできた。
「秘密結社の関係者は、皆さん同じ事をおっしゃいますね」
 い……いや……どう考えても……東京五輪失敗の最大の戦犯は……ああ、そうか……あいつを戦犯にしない為に、今、偽の戦犯がデッチ上げられている最中なのか……。
 もう……未来は、お先真っ暗なようだ……。ボクの未来も、この国の未来も……。
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