2 / 12
第一章:無間道
兄(1)
しおりを挟む
Ancient tales tell how life began in the ice and flames of the old world burning.
古代の神話は語る。氷と旧世界を焼き尽した炎の中から、如何にして新たな命が生まれたかを。
Recent times tell of trial and error, the reign of terror will soon be turning.
だが、今の時代、語られるのは、試みと誤ちの繰り返しの話ばかり。恐怖による統治は、すぐそこまで来ている。
Cages of fear that the future holds nothing but our dismal past with a vengeance.
未来に待つのは、ロクデモない過去からのしっぺ返しだけ……その恐怖は檻へと変る。
Týr「Flames Of The Free」より
「何も見えないのか? 何も聞こえないのか? 気配すら感じられぬのか?」
小さい頃から何度も繰り返されてきた……一族の家長である祖父による質問。
「ご……ごめんなさい……何も……」
祖父と父と叔父達は失望の表情を浮かべた。
友達の家にもロクに行った事が無かった当時の俺は、それが普通の家の普通の座敷なのか良く知らなかった。
ただ、母屋とは別に作られた離れに有る異様に広い板張り部屋の奥には、TVドラマなどで見るような仏壇は無く……子供の頃の俺にとっては恐しげなモノにしか見えない忿怒尊の像と護摩壇が有った。
「この子が駄目ならば、私の息子に……」
「おい、ウチの子だって居るぞ」
「いい加減にしろ」
「兄貴こそ、いい加減にしろ。間違いを認めろ……」
いつものように始まる父親と叔父達の喧嘩。
しかし、この日は……とうとう……。
今となっては記憶が曖昧だ。
薄々、気付いていたのか?
子供心に、その可能性から無意識の内に目を逸らしてきたのか?
何だかんだ言って鈍い性格だった俺は……何も気付いていなかったのか?
「こんな役立たずを天才と勘違いして養子にしたなど間抜けにも程が有る」
「じゃあ……どうしろと言うんだ、この子の本当の親は、もう……」
「いい加減にしろッ‼」
その叔父の名前は覚えていない。
覚えているのは、俺と妹が「沼田のおじさん」と呼んでいた事と……親類の中では常識人だった事だ。
「お前ら、この子を何だと思ってる? 生きた人間だぞ。お前ら、今、何を口走ろうとした?」
「おい、『お前ら』って、誰の事だ? 一番下のクセに俺達の事を『お前ら』?」
祖父は口を開きかけ……しかし……後にして思えば……俺にも良く有った事だった。
何かを言いたいのに、その「何か」を巧く言葉に出来ない。
血のつながりは無いとは言えないにせよ、本当は何親等離れてるかも良く判らない。
そんな間柄なのに……今にして思えば、俺と祖父には似た所が有った。
ただ、一点を除いては……。
その時、俺を除く全員の視線が一点に集まる。
「何だ?」
「まさか……これは……」
俺の父親が意を決したように立ち上がり……。
ゆっくりと……祖父と叔父達の視線が集まっている方に向い……。
この座敷が有る離れの戸が開けられた……。
「そ……そんな……」
「だとしても……女が一族の長になった例は無いぞ……」
「今更……一族が何だ? 俺達の一族が仕えてきた奴らは、もう……」
沼田の叔父が吐き捨てるように言った。
「黙れ~ッ‼」
血のつながりは薄いとは言え、俺と祖父の間には似た所ばかりだった。
反論出来ない事実を突き付けられた時に上げる……怒りと言うよりも苦悶の金切り声も、そっくりだった。
古代の神話は語る。氷と旧世界を焼き尽した炎の中から、如何にして新たな命が生まれたかを。
Recent times tell of trial and error, the reign of terror will soon be turning.
だが、今の時代、語られるのは、試みと誤ちの繰り返しの話ばかり。恐怖による統治は、すぐそこまで来ている。
Cages of fear that the future holds nothing but our dismal past with a vengeance.
未来に待つのは、ロクデモない過去からのしっぺ返しだけ……その恐怖は檻へと変る。
Týr「Flames Of The Free」より
「何も見えないのか? 何も聞こえないのか? 気配すら感じられぬのか?」
小さい頃から何度も繰り返されてきた……一族の家長である祖父による質問。
「ご……ごめんなさい……何も……」
祖父と父と叔父達は失望の表情を浮かべた。
友達の家にもロクに行った事が無かった当時の俺は、それが普通の家の普通の座敷なのか良く知らなかった。
ただ、母屋とは別に作られた離れに有る異様に広い板張り部屋の奥には、TVドラマなどで見るような仏壇は無く……子供の頃の俺にとっては恐しげなモノにしか見えない忿怒尊の像と護摩壇が有った。
「この子が駄目ならば、私の息子に……」
「おい、ウチの子だって居るぞ」
「いい加減にしろ」
「兄貴こそ、いい加減にしろ。間違いを認めろ……」
いつものように始まる父親と叔父達の喧嘩。
しかし、この日は……とうとう……。
今となっては記憶が曖昧だ。
薄々、気付いていたのか?
子供心に、その可能性から無意識の内に目を逸らしてきたのか?
何だかんだ言って鈍い性格だった俺は……何も気付いていなかったのか?
「こんな役立たずを天才と勘違いして養子にしたなど間抜けにも程が有る」
「じゃあ……どうしろと言うんだ、この子の本当の親は、もう……」
「いい加減にしろッ‼」
その叔父の名前は覚えていない。
覚えているのは、俺と妹が「沼田のおじさん」と呼んでいた事と……親類の中では常識人だった事だ。
「お前ら、この子を何だと思ってる? 生きた人間だぞ。お前ら、今、何を口走ろうとした?」
「おい、『お前ら』って、誰の事だ? 一番下のクセに俺達の事を『お前ら』?」
祖父は口を開きかけ……しかし……後にして思えば……俺にも良く有った事だった。
何かを言いたいのに、その「何か」を巧く言葉に出来ない。
血のつながりは無いとは言えないにせよ、本当は何親等離れてるかも良く判らない。
そんな間柄なのに……今にして思えば、俺と祖父には似た所が有った。
ただ、一点を除いては……。
その時、俺を除く全員の視線が一点に集まる。
「何だ?」
「まさか……これは……」
俺の父親が意を決したように立ち上がり……。
ゆっくりと……祖父と叔父達の視線が集まっている方に向い……。
この座敷が有る離れの戸が開けられた……。
「そ……そんな……」
「だとしても……女が一族の長になった例は無いぞ……」
「今更……一族が何だ? 俺達の一族が仕えてきた奴らは、もう……」
沼田の叔父が吐き捨てるように言った。
「黙れ~ッ‼」
血のつながりは薄いとは言え、俺と祖父の間には似た所ばかりだった。
反論出来ない事実を突き付けられた時に上げる……怒りと言うよりも苦悶の金切り声も、そっくりだった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

シチュボ(女性向け)
身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。
アドリブ、改変、なんでもOKです。
他人を害することだけはお止め下さい。
使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。
Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜
華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日
この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。
札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。
渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。
この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。
一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。
そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。
この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。
この作品はフィクションです。
実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる