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“濡れ”衣なのに、何故、こんなに萌える?……もとい燃える?
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「あの……まだ、炎上してませんけど、これ対策した方が良く有りません?」
ネット上に我が教団についての誹謗中傷が書かれていないか? をチェックしていた部下がそう言った。
「どうした?」
「これを見て下さい……」
部下はタブレットPCに表示されているSNSの書き込みを見せた。
書き込みの主は、どうやら、いわゆる「萌え系」の「同人作家」らしい。
『H県K市市役所観光課とアニメ「護国軍鬼ニルリティ」とのコラボが与党政治家のクレームで取り止めになったらしいぞ』
『しかも、クレーム入れた政治家は、1人残らずカルト宗教の「折伏の工学」のイベントに出た事が有るヤツばかりだ』
「え……っと……何だ、そのアニメ?」
「女の子が主人公のヒーローものの深夜TVアニメです」
「お前、観てるの?」
「いえ……ネット検索した結果です。ちょっと待って下さい……もう少し詳しく調べます……。ああ、コアなファン層は居るけど、アンチも多くて、視聴率は……そこそこみたいですね」
「えっと……そ……そんなのに……何で、我が教団のシンパの政治家がクレームを入れてるんだ?」
「ちょっと……調べてみます……」
「ま……まぁ……確かに……我が教団の教えからすれば……推奨出来ないアニメだが……クレームを付ける程の事か?」
そのアニメについてのWikiや公式サイトの内容を部下がまとめてくれた。
舞台になっているのは、コラボをやっているH県K市……政令指定都市が2つ有るH県で3番目の規模の市だが、人口は三〇万程度だ。
問題のアニメの主人公の女の子は、同性愛者である事を隠す気もない上に、かなりフェミニスト寄りの思想の持ち主で、しかも悪役は「男性優位主義的な考えの持ち主」「国粋主義的な集団」が多い傾向にあるようだ。
我が教団の教えでは、同性愛は好ましからざるモノと見做されており、愛国心の涵養と伝統的な男女観や家族の在り方を推奨している。
しかし……同時にオタク層の教団への取り込みも進めている以上、オタク層から反感を買うような事を教団のシンパがやったとすると、一歩間違えば、我々広報課が教団上層部から粛清されてしまいかねない。
「とりあえず、名前が出ている政治家に事実関係を確認してくれ」
「変です。誰からも覚えが無い、と云う回答しか返ってきません」
「嘘を言っている可能性は有るか?」
「我が教団のシンパの議員に関しては……子供や孫の通学路や、離れて暮らしている家族の住所を押さえているので、我が教団に嘘を吐けば何が起きるかは……良く判っている筈です」
「なるほど……では、この書き込みを行なったのは何者かを調べろ」
我が教団の信者は、実は到る所に居る。
問題の書き込みをした人物は、SNS上では本名を名乗っていなかったが……自分で作った同人誌を同人ショップで委託販売していて……運良く、その1つの社員の中に、我が教団の信者が居た。
そして、その人物の住所と本名が判明した。
住所は……問題のH県K市だった。
そして、H県K市の教団支部に連絡を入れ……その人物の身辺調査をやらせた結果……。
数日後……私は、H県K市の教団支部に出張していた。
「おい……撮影は始めてるか? よし……古賀拓真さんですね?」
「は……はい……」
我が教団への誹謗中傷をやった人物は……椅子に縛り付けられ、一見、虚な眼差しと怯えたように見える表情のまま、そう答えた……。
しかし……その表情は、あくまで「ように見える」であって、我が教団の熱心な信者達によく有る表情だった。
三昼夜かけて、我が教団への誹謗中傷をやった人物に、我が教団の御教えの素晴しさを説いた結果……完全とはいかぬまでも心を入れ替えてくれたようだ。
「職業は派遣社員。いわゆる『萌え』系の同人誌も作られている。間違いありませんか?」
「は……はい……」
「現在の派遣先は……H県K市市役所の観光課。これも間違い有りませんね」
「そ……その通り……です……」
「では、何故、我が教団を誹謗中傷するような書き込みを行なったのですか?」
「え……えっと……そ……それは……観光課の課長が……オタク層にうけると思ってアニメとのコラボをやったんですが……」
まぁ、良く有る安易な考えだ。
「そ……そんな事、どこの自治体や公的機関でもやってるんで……誰も注目してくれなくて……」
そりゃ、誰でも思い付く安易な真似だから、そうもなるだろ。
「な……なので……注目してもらうには……炎上させるしかないと云う話になって……」
はぁ? おい、何故、そんな発想になる?
「じゃ……じゃあ……広報の効果を上げる為に、炎上をデッチ上げようとしたんですか?」
「は……はい……。観光キャンペーンの効果が上がらないと……観光課の課長の今後の出世に響くと言われて……」
なるほど……万が一の場合、いつでも切り捨てられる派遣社員にやらせた訳か……。
「貴方も犠牲者です。間違っていたのは、貴方に命令した人達です。私は貴方を許します。我らが教祖と我らが神も貴方を許して下さるように……共に祈りましょう」
私は部下に命じて、彼の拘束を解かせると……彼の両肩に手を置き……。
そして、彼の目から贖罪の涙が溢れ……。
数日後、私は教団より破門された。
教団職員用の社宅を追い出され……途方にくれたまま……町を彷徨い続けていた……。
教団に入信した際に親兄弟との縁は切れているので……行く宛もない。
彼の告白と改心の様子を撮影した動画を動画サイトにUPして、我が教団にかけられた濡れ衣を晴らそうとした筈なのに……何故か、その動画が炎上したのだ。
彼と彼に命令を下した邪悪なる者達は偽の炎上を意図しながら……小火にすら成らなかったのに……私がやった事は、どう云う訳か、大火事になってしまった。
何がどうなっている?
私は正しい事をした筈だ。
それなのに……何故か……。
気付いた時、私は教団本部の前に居た。
無意識の内に……ここに足が向いたのだろう……。
おい……待て……何が起きてる?
何故、教団に警察が……おい……警官達が教団本部から運び出している段ボール箱は何だ?
教団が悪事を行なう筈が無い。
なのに……何故だ?
こんな事は明らかな宗教弾圧だ……。
ああ……ま……まさか……そ……そんな……。
悪魔の仕業だ……ああ、来たるべきハルマゲドンにおいて、神の軍勢となるであろう我が教団を……悪魔が叩き潰そうとしているのだ……。
か……神よ……貴方の忠実な僕達に……救いの手を……。
「あの……『折伏の工学』の広報課長の古川リョウさんですね?」
「へっ?」
私に、そう声をかけたのは、背広姿の2人組の男だった。
「誘拐その他の容疑で、貴方に逮捕状が出ています。警察まで御同行願えますか? まず、貴方には黙秘権と弁護士を呼ぶ権利が有り……」
ネット上に我が教団についての誹謗中傷が書かれていないか? をチェックしていた部下がそう言った。
「どうした?」
「これを見て下さい……」
部下はタブレットPCに表示されているSNSの書き込みを見せた。
書き込みの主は、どうやら、いわゆる「萌え系」の「同人作家」らしい。
『H県K市市役所観光課とアニメ「護国軍鬼ニルリティ」とのコラボが与党政治家のクレームで取り止めになったらしいぞ』
『しかも、クレーム入れた政治家は、1人残らずカルト宗教の「折伏の工学」のイベントに出た事が有るヤツばかりだ』
「え……っと……何だ、そのアニメ?」
「女の子が主人公のヒーローものの深夜TVアニメです」
「お前、観てるの?」
「いえ……ネット検索した結果です。ちょっと待って下さい……もう少し詳しく調べます……。ああ、コアなファン層は居るけど、アンチも多くて、視聴率は……そこそこみたいですね」
「えっと……そ……そんなのに……何で、我が教団のシンパの政治家がクレームを入れてるんだ?」
「ちょっと……調べてみます……」
「ま……まぁ……確かに……我が教団の教えからすれば……推奨出来ないアニメだが……クレームを付ける程の事か?」
そのアニメについてのWikiや公式サイトの内容を部下がまとめてくれた。
舞台になっているのは、コラボをやっているH県K市……政令指定都市が2つ有るH県で3番目の規模の市だが、人口は三〇万程度だ。
問題のアニメの主人公の女の子は、同性愛者である事を隠す気もない上に、かなりフェミニスト寄りの思想の持ち主で、しかも悪役は「男性優位主義的な考えの持ち主」「国粋主義的な集団」が多い傾向にあるようだ。
我が教団の教えでは、同性愛は好ましからざるモノと見做されており、愛国心の涵養と伝統的な男女観や家族の在り方を推奨している。
しかし……同時にオタク層の教団への取り込みも進めている以上、オタク層から反感を買うような事を教団のシンパがやったとすると、一歩間違えば、我々広報課が教団上層部から粛清されてしまいかねない。
「とりあえず、名前が出ている政治家に事実関係を確認してくれ」
「変です。誰からも覚えが無い、と云う回答しか返ってきません」
「嘘を言っている可能性は有るか?」
「我が教団のシンパの議員に関しては……子供や孫の通学路や、離れて暮らしている家族の住所を押さえているので、我が教団に嘘を吐けば何が起きるかは……良く判っている筈です」
「なるほど……では、この書き込みを行なったのは何者かを調べろ」
我が教団の信者は、実は到る所に居る。
問題の書き込みをした人物は、SNS上では本名を名乗っていなかったが……自分で作った同人誌を同人ショップで委託販売していて……運良く、その1つの社員の中に、我が教団の信者が居た。
そして、その人物の住所と本名が判明した。
住所は……問題のH県K市だった。
そして、H県K市の教団支部に連絡を入れ……その人物の身辺調査をやらせた結果……。
数日後……私は、H県K市の教団支部に出張していた。
「おい……撮影は始めてるか? よし……古賀拓真さんですね?」
「は……はい……」
我が教団への誹謗中傷をやった人物は……椅子に縛り付けられ、一見、虚な眼差しと怯えたように見える表情のまま、そう答えた……。
しかし……その表情は、あくまで「ように見える」であって、我が教団の熱心な信者達によく有る表情だった。
三昼夜かけて、我が教団への誹謗中傷をやった人物に、我が教団の御教えの素晴しさを説いた結果……完全とはいかぬまでも心を入れ替えてくれたようだ。
「職業は派遣社員。いわゆる『萌え』系の同人誌も作られている。間違いありませんか?」
「は……はい……」
「現在の派遣先は……H県K市市役所の観光課。これも間違い有りませんね」
「そ……その通り……です……」
「では、何故、我が教団を誹謗中傷するような書き込みを行なったのですか?」
「え……えっと……そ……それは……観光課の課長が……オタク層にうけると思ってアニメとのコラボをやったんですが……」
まぁ、良く有る安易な考えだ。
「そ……そんな事、どこの自治体や公的機関でもやってるんで……誰も注目してくれなくて……」
そりゃ、誰でも思い付く安易な真似だから、そうもなるだろ。
「な……なので……注目してもらうには……炎上させるしかないと云う話になって……」
はぁ? おい、何故、そんな発想になる?
「じゃ……じゃあ……広報の効果を上げる為に、炎上をデッチ上げようとしたんですか?」
「は……はい……。観光キャンペーンの効果が上がらないと……観光課の課長の今後の出世に響くと言われて……」
なるほど……万が一の場合、いつでも切り捨てられる派遣社員にやらせた訳か……。
「貴方も犠牲者です。間違っていたのは、貴方に命令した人達です。私は貴方を許します。我らが教祖と我らが神も貴方を許して下さるように……共に祈りましょう」
私は部下に命じて、彼の拘束を解かせると……彼の両肩に手を置き……。
そして、彼の目から贖罪の涙が溢れ……。
数日後、私は教団より破門された。
教団職員用の社宅を追い出され……途方にくれたまま……町を彷徨い続けていた……。
教団に入信した際に親兄弟との縁は切れているので……行く宛もない。
彼の告白と改心の様子を撮影した動画を動画サイトにUPして、我が教団にかけられた濡れ衣を晴らそうとした筈なのに……何故か、その動画が炎上したのだ。
彼と彼に命令を下した邪悪なる者達は偽の炎上を意図しながら……小火にすら成らなかったのに……私がやった事は、どう云う訳か、大火事になってしまった。
何がどうなっている?
私は正しい事をした筈だ。
それなのに……何故か……。
気付いた時、私は教団本部の前に居た。
無意識の内に……ここに足が向いたのだろう……。
おい……待て……何が起きてる?
何故、教団に警察が……おい……警官達が教団本部から運び出している段ボール箱は何だ?
教団が悪事を行なう筈が無い。
なのに……何故だ?
こんな事は明らかな宗教弾圧だ……。
ああ……ま……まさか……そ……そんな……。
悪魔の仕業だ……ああ、来たるべきハルマゲドンにおいて、神の軍勢となるであろう我が教団を……悪魔が叩き潰そうとしているのだ……。
か……神よ……貴方の忠実な僕達に……救いの手を……。
「あの……『折伏の工学』の広報課長の古川リョウさんですね?」
「へっ?」
私に、そう声をかけたのは、背広姿の2人組の男だった。
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