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第2章:悪いやつら
今村亮介 (2)
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「少し遅くなったが……おめでとう。第一志望に入れたそうだな」
憂鬱な時間が始まった。
肉が焼ける煙の向こうに居るのは……俺の父親だ。
もっとも、両親は何年も前に離婚し、俺は母親の名字を名乗っているが。
「うん……」
気のない返事をする。
「勉強はついて行けてるか……県内有数の進学校だろ」
「まぁ……何とか……」
「そう言や、先月のアレで、まだお前の学校の辺りには、電気が来てないんじゃなかったか?」
「給電車が来てるし、屋上にソーラーパネルを臨時で設置したんで……何とかなってる」
もっとも、給電車が運動場を占領してるんで、体育の授業は屋内で出来る事しかやってないが……。
親父も馬鹿じゃない。いや……下手したら頭は良い方だろう。
ヤクザとは言え……そこそこの「組」の№2にまでなってる……らしい……ので、空気は読めるし、他人の気持ちを推測するのは……どちらかと言えば得意……なようだ。
もっとも、仕事柄、他人の気持ちを理解出来ても、それを他人を屈服させるのに使っている。
だから……。
何となく、親父も気まずそうだ……。
仕事でのコミュニケーション能力は高いが……その「仕事」はロクなモノではない。
そして、仕事と関係無い対等の相手……例えばお袋とか……とは、どう接すれば良いか判らない……。
自分より目下だが、理性では屈服させるべきではない事が判っている相手……例えば自分の子供とか……には、それ以上にどう接すれば良いか判らない……。
相手に屈服するか相手を屈服させるかのコミュニケーション能力は極めて高いが、そうでないコミュニケーションに関しては徹底的に無能。
俺から見た親父は、そんな男だった。
俺が成りたい自分とは何から何まで正反対の人間だ。
「まぁ……言わずもがなの事だが……」
芝居がかった……けど、俺が行ってた中学の演劇部がやった劇が名演技に思えるような……そんな口調。
「俺みたいな仕事に就くんじゃねえぞ」
当り前のように「当り前だ」と言いたくなったが……何と返せば良いか判らない。
と言うか、この前、会った時にも同じ事を言ってたよなぁ……。
「あのさ……母さんから、父さんに今度こそ訊いてこいって言われてたんだけど……」
「何だ?」
「沙夜香の本当の親は一体……」
「あっ……」
「あっ……」
両親が離婚した時に存在が発覚した何故か親父が育てていた謎の女の子……今は俺の母親が育てている「妹」の事について訊こうとした途端、親父と……別の誰かが間抜けな声を上げた。
憂鬱な時間が始まった。
肉が焼ける煙の向こうに居るのは……俺の父親だ。
もっとも、両親は何年も前に離婚し、俺は母親の名字を名乗っているが。
「うん……」
気のない返事をする。
「勉強はついて行けてるか……県内有数の進学校だろ」
「まぁ……何とか……」
「そう言や、先月のアレで、まだお前の学校の辺りには、電気が来てないんじゃなかったか?」
「給電車が来てるし、屋上にソーラーパネルを臨時で設置したんで……何とかなってる」
もっとも、給電車が運動場を占領してるんで、体育の授業は屋内で出来る事しかやってないが……。
親父も馬鹿じゃない。いや……下手したら頭は良い方だろう。
ヤクザとは言え……そこそこの「組」の№2にまでなってる……らしい……ので、空気は読めるし、他人の気持ちを推測するのは……どちらかと言えば得意……なようだ。
もっとも、仕事柄、他人の気持ちを理解出来ても、それを他人を屈服させるのに使っている。
だから……。
何となく、親父も気まずそうだ……。
仕事でのコミュニケーション能力は高いが……その「仕事」はロクなモノではない。
そして、仕事と関係無い対等の相手……例えばお袋とか……とは、どう接すれば良いか判らない……。
自分より目下だが、理性では屈服させるべきではない事が判っている相手……例えば自分の子供とか……には、それ以上にどう接すれば良いか判らない……。
相手に屈服するか相手を屈服させるかのコミュニケーション能力は極めて高いが、そうでないコミュニケーションに関しては徹底的に無能。
俺から見た親父は、そんな男だった。
俺が成りたい自分とは何から何まで正反対の人間だ。
「まぁ……言わずもがなの事だが……」
芝居がかった……けど、俺が行ってた中学の演劇部がやった劇が名演技に思えるような……そんな口調。
「俺みたいな仕事に就くんじゃねえぞ」
当り前のように「当り前だ」と言いたくなったが……何と返せば良いか判らない。
と言うか、この前、会った時にも同じ事を言ってたよなぁ……。
「あのさ……母さんから、父さんに今度こそ訊いてこいって言われてたんだけど……」
「何だ?」
「沙夜香の本当の親は一体……」
「あっ……」
「あっ……」
両親が離婚した時に存在が発覚した何故か親父が育てていた謎の女の子……今は俺の母親が育てている「妹」の事について訊こうとした途端、親父と……別の誰かが間抜けな声を上げた。
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