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第1章:インサイダーズ
高木瀾(たかぎ らん) (1)
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私達が赤ん坊の頃に両親が離婚したせいで、別々に育てられる事になった双子の妹(なお、二卵性双生児らしいんで「言われてみれば姉妹っぽい」程度しか似てない)の治水と暮すようになってから判った事が有る。
男尊女卑が当然だった二〇世紀の日本における自称「料理好きの男」ってのが、どんな感じだったのかを。
と言っても……治水は少なくとも生物学上は女性だが。本人の性自認に関しては……判断保留中。
治水は自称「料理好き」だ。そして、昔のワンパターンな漫画みたいに「自称『料理好き』だけど作った料理の味は食えたもんじゃない」なんて事は無い。
私だって味覚に自信が有る訳じゃないが……平均すると中の下ぐらいだろう。美味いとは言えないが、昔のワンパターンな漫画みたいな事態は、まず起きない。
問題は……「平均すると」と言わざるを得ない事だ。
味の平均は中の下ぐらい。分散は……そこそこ以上に大きい。
やる気の分散は……それ以上に大きい。
「これ……何?」
「池波正太郎って昔の小説家知ってる?$その人のエッセイに載ってた」
フライパンで焼き目を付けた厚揚げに大根おろしと麺つゆをかけたモノと、ネギ入りの炒り卵。
それが今日の晩飯のおかずだった。ご飯のおかずって言うより、大人の人達向けの酒のツマミのような気もするが。
昨日は、逆に手間かけた料理……数時間かけて鶏ガラスープを取った鶏の水炊きだった。
一昨日は鶏の唐揚げとインスタントの味噌汁。
その前の日は、治水のやる気が完全に0で、近所のリンガーハットに行く事になった。
「たまには……私が作ろうか?」
「いいよ。あたし、料理するの好きだし」
異論は有るが……それを口にするのは、もう少し信頼関係を築いてからにしよう。
「ところでさ……この炒り卵も……その池波正太郎の本に載ってたの?」
「うん……」
「池波正太郎って……東京の人だったよな?」
「それが……?」
「何で、炒り卵に入ってるネギが青ネギなんだ?」
「えっ?」
「関東の人が書いた本に出てる……『ネギ入りの炒り卵』の『ネギ』って……白ネギである確率が高い気がするんだけど……」
「あ……えっと……いいじゃない。美味しければ、どっちでも」
今日の出来は……炒り卵の塩味が少しキツ過ぎる気がする。
「ところでさ……紫ちゃんと……どう云う関係だったの?」
はぁ?
いや……そりゃ……。
「いや……何って言うか……判るだろ?」
あの時は……自分でも判る位、平常心を失なってた。あの状態では、嫌でも気付いてる筈だ。
「へっ?」
「『へっ?』って何が『へっ?』」
「全く判んない」
「いや……その……私をからかってるんなら……」
「何言ってんの?」
それは、こっちのセリフだ。本気で気付いてないのか?
「ただいま~」
その時、玄関の方で、桜さんの声がした。
男尊女卑が当然だった二〇世紀の日本における自称「料理好きの男」ってのが、どんな感じだったのかを。
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私だって味覚に自信が有る訳じゃないが……平均すると中の下ぐらいだろう。美味いとは言えないが、昔のワンパターンな漫画みたいな事態は、まず起きない。
問題は……「平均すると」と言わざるを得ない事だ。
味の平均は中の下ぐらい。分散は……そこそこ以上に大きい。
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「これ……何?」
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それが今日の晩飯のおかずだった。ご飯のおかずって言うより、大人の人達向けの酒のツマミのような気もするが。
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一昨日は鶏の唐揚げとインスタントの味噌汁。
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「たまには……私が作ろうか?」
「いいよ。あたし、料理するの好きだし」
異論は有るが……それを口にするのは、もう少し信頼関係を築いてからにしよう。
「ところでさ……この炒り卵も……その池波正太郎の本に載ってたの?」
「うん……」
「池波正太郎って……東京の人だったよな?」
「それが……?」
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「えっ?」
「関東の人が書いた本に出てる……『ネギ入りの炒り卵』の『ネギ』って……白ネギである確率が高い気がするんだけど……」
「あ……えっと……いいじゃない。美味しければ、どっちでも」
今日の出来は……炒り卵の塩味が少しキツ過ぎる気がする。
「ところでさ……紫ちゃんと……どう云う関係だったの?」
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いや……そりゃ……。
「いや……何って言うか……判るだろ?」
あの時は……自分でも判る位、平常心を失なってた。あの状態では、嫌でも気付いてる筈だ。
「へっ?」
「『へっ?』って何が『へっ?』」
「全く判んない」
「いや……その……私をからかってるんなら……」
「何言ってんの?」
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「ただいま~」
その時、玄関の方で、桜さんの声がした。
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