魔導兇犬録:哀 believe

蓮實長治

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第五章:Over the Limit

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 当面は、弁護士さんに「『魔法少女』って、身寄りがない未成年者を、ちゃんとした説明抜きで働かせてるマズい事業じゃないのか?」という方向から攻めてもらう事になり、あたし達「プリティ・トリニティ」と「フラワレット・カルテット」のメンバーは運営に知られてない知り合いの家に分散して泊まる事に……とそこまで話し合った所で重大な問題が発覚。
 ……あたし達は同じ「魔法少女」チームの仲間以外にロクな「友達」が居なかったのだ。
 そこで、たまたまこの件に関わってた眞木さんの家に一時的に居候する事になった。
「え……?」
 団地の近くの公園を経由して近くのバス停に向かおうとしたら……。
「何で……」
 そう言ったのは……あたしじゃない。
「何で……魔法少女をやめるなんて言うんだ……?」
「え……江見さん……」
 しわくちゃの背広とワイシャツに……無精髭……。いつも付けてる眼鏡はしてない。……でも……。
「誰だ?」
「あたし達のマネージャーですけど……でも……」
 江見さんの目は血走っていて……。
「何かに……取り憑かれてるのか?」
「は……はい……」
「いざとなったら、これを使ってくれ……。私には使えないんでな。『気』だか『魔力』だかを注入して周囲に撒き散らせば発動する……そうだ」
 そう言って、眞木さんのお姉さんは分厚い封筒を渡す。
 中には……紙幣ぐらいの大きさの御札のようなモノが何枚も入っている。
「でも、一度に全部使うなよ……」
「がああ……」
 突然、江見さんが叫び声を上げ……。
 その時……あたしは、眞木さんのお姉さんがやってる事に……違和感を感じた……。
 何だろう……。
 みんながいつもやってるのに……何故か……眞木さんのお姉さんがやってるのを一度も見た事が無い……。
 江見さんが、あたし目掛けて突っ込んで来ると同時に……眞木さんのお姉さんがコートのポケットから手を出す……。
 あ……。
 眞木さんのお姉さんは……どんなに寒くてもポケットに手を入れた事が一度も無かった……けど……今は……。
「ぐえええ……」
 眞木さんのお姉さんは……手に握られた小瓶の中に入っていたオレンジ色の粉末を江見さんの顔にかける。
「逃げるぞ」
「あ……あの……それ……何ですか?」
「唐辛子だ」
「えっ?」
「沖縄産の一番辛い品種の一番細かく挽いた……おい……後ろ……」
「へっ?」
 うそ……涙を流しながら……どうやら目が見えてないように見える江見さんが……あたし達を追い掛けてきてる。
「御札を使ってくれ」
「は……はい……」
 御札を何枚か取り出して、その御札に軽く「魔力」を送ってみると……。
「こ……これ……?」
 恐怖……。
 何かを怖がっている人間のような気配……。
 それが御札から放たれている。
 そうか……。
 あたしは、その御札を江見さんに向けて投げる。
 江見さんは唐辛子粉のせいで、一時的に視力を失なっているか……大幅に落ちてるらしい。
 でも……あたし達を追って来れた。
 多分……江見さんに取り憑いてる「何か」があたし達の気配を追ってきたんだろう。
 でも、そこに「怯えてる人間」にそっくりな気配を放つ御札を撒き散らした。
 江見さんは立ち止まり……困ったような感じで、首を振り続ける。
「逃げるぞ」
「は……はい……」
 けど……。
「向こうも馬鹿じゃないか……」
「どうして?」
 江見さんは、また、走り出した。
「気配の見分けは付かなくても……移動してる気配を本物だと判断……クソ……」
 今度は前の方に男の人が2人。
 その2人の男の人の服が……昔のマンガの「北斗の拳」みたいに破れて、はじけ飛び……。
 河童と狼男っぽい獣人に変身。
「一端、止まろう……」
「で……でも……」
 前には……河童と狼男……後ろには……何かに取り憑かれた江見さん。
「があああ……」
 江見さんは……あたし目掛けて……。
「伏せろ……」
「はい……」
 江見さんが宙を飛んだ……。
「うわっ?」
「がっ?」
 眞木さんのお姉さんが江見さんを背負い投げして……そして、江見さんと河童が激突。
「ガキ……てめえ……何も……?」
 次の瞬間、眞木さんのお姉さんが狼男の腹にパンチを叩き込んだ。
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