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第五章:Premonition

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「今日の朝に博多駅で急病人を助けたそうだが……」
 初日の研修を終えて、職場 兼 現住所の食堂で夕食を食べてると向いに座った日焔さんが、そう言った。
 なお、両方とも図体がデカい上にベジタリアンなので、テーブルの上には大量の野菜料理が並んでいる。
「えっ……と、それが何か?」
「その時、駅員に連絡先として、ここの住所と電話番号が入った名刺を渡しただろ?」
 そう言いながら、日焔さんは、九州料理の「がめ煮」から鶏肉を抜いたような感じの野菜の煮物を口に運ぶ。
「え……っとマズかったですか?」
「それが……君が助けた人物の御家族と勤め先の上司がお礼に来てな……」
「は……はぁ……」
「この施設内ではマズいので……隣の寺で対応した」
 まぁ、確かに、ここには自称「この施設に監禁されてる親」やら「この施設を悪の秘密結社だと妄想した自称『日本を愛してるだけの普通の日本人』」が時々やって来て……正門の辺りで毎度のように撃退されてるんで、下手に部外者を入れる訳にはいかないが……。
「親御さんの名刺だ」
「へっ?……あ……あ……あっ……この人……えっと……そんな……馬鹿な……」
 たしかに……この人を、子供が山程居る施設に入れる訳にはいかない……。
 ってか、もう保釈されたのか……。
 たしかに地域ニュースで何も報道されてないんで、変だと思うべきだった。
 名刺に書かれていた名前と肩書は……「久留米市市会議員 古川リョウ」……この前、中学生の女の子をストーカーしてた性犯罪者だ。
「あと……君が助けた人の勤め先の上司の名刺に書かれてた会社名を調べてみたが……」
「そ……そこも……何かマズいんでしょうか?」
「『大阪』のフロント企業だった」
 約十年前の富士山の噴火による日本の首都圏壊滅……その際に、大阪府は「シン日本首都」を名乗り、どこまで本当かは不明だが……行方不明になった日本の皇族のDNAを入手した事を発表し、クローン技術で天皇家を再生させる計画をブチ上げた。
「ひょっとして、ボクが助けた人の会社って……」
「中古品販売だ。PCや携帯電話ブンコPhoneや、その部品とか……」
「合法なんですか?」
「グレイだな。こっちで買取はやってるが……販売先は……おそらくは『大阪』だ」
 半ば日本国内に有る独立国と化した「大阪」は……外国からはテロリストに支配されてる地域と見做され、電子機器などの「輸出」を制限されている。「大阪」では2~3年前の型式モデルが「最新機種の中の更に最新機種」扱いらしい。
「ええっと……その……」
「判ってると思うが、余計な事はしなくていい。ウチの後方支援部門は優秀だ……合法的に入手出来るデータから、ここまでの事を突き止めたんだからな」
 そうだ……一応は民間軍事企業に「作られ」、そこで「兵器」として育てられたんで、その手の事は良く知ってる。
 例えば、地方紙を1年とって、載ってる記事をちゃんと分析すれば、その県の県庁の課長クラス以上の職員の名前の一覧表を作れるらしい。
 諜報機関がやる事の9割以上は……合法的に入手出来るデータの分析。スパイ映画みたいな危い橋を渡るような真似をしなきゃいけないのは例外中の例外だけだ。
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