魔導兇犬録:HOLDING OUT FOR A HERO

蓮實長治

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第五章:Premonition

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「『自由の対価は高い。しかし、支払う価値が有る』と言ったのは、かのスティーブ・ロジャース氏だったかな?」
 昨日の事態のお説教って感じじゃなかった。
 ここは、ボクが住み込みで働いてる児童養護施設の隣に有るお寺の縁側。
 ボクの横に座ってるのは、職場の上司で、このお寺の副住職で、裏の顔は久留米・鳥栖とす小郡おごおり一帯を管轄する「正義の味方」チームのリーダー格である高木日焔さん。
「おい、デカブツ、巧いこつ言っゆ~たつもりかも知れんが、そのセリフ考えたとは編集者か脚本家じゃなかとかね?」
 寺の建物の奥からは、七〇過ぎの住職(ちなみに、ボクの勤め先の理事長も兼任)の声。
「まぁ、いい。『自由の対価は高い。しかし、支払う価値が有る』……そこまでは正しい。しかし、私は、常々、付け加えるべき事が有ると思っていた」
「何の事でしょうか?」
「自由の対価は高い。しかし、支払う価値が有る。ただし、支払い方式は生涯登録解除不可能なサブスクリプションしか無いと思え」
「へっ?」
「自由にモノを考え、好きな事を言える状態を維持するには、場合によっては努力し続ける事が必要になる」
「は……はぁ……」
「自由に生きる事を選んだ者は、ある1種類の自由だけは失なってしまう。それは、。刑務所の受刑者のように思考を放棄し誰かに言われるままの事をやったり、何が正しいかを自分で考えずに誰かが決めた法律や規則を、それらがどう云う必要性で生まれたのかさえ知ろうとせずに、唯一絶対の盲目的に従うべき正義と見做したり、カルト宗教や理不尽企業の一員として洗脳された状態に安住する……そんな生き方こそ楽な人も居るだろうし……そうでない者も長い人生の内には、そんな風に生きる誘惑に囚われる事も有る」
 そうか……。
 「正義の味方」達の最終兵器である「護国軍鬼」を起動させ操る事が出来るのは……脳内に有る「自由意志」を司る部位が正常に機能している人だけ。
 長い間、「護国軍鬼」の着装者だったこの人は……多分、とんでもない茨の道を歩き続けたんだ。
「だが……自分で何が善で何が悪かを考えるのを止めた人達が、ある地域や組織や共同体において、一定の割合を超えてしまった時、その地域や組織や共同体は腐り始める。自分で何が善で何が悪かを考え続ける事は、万人に与えられた当然の権利であると同時に、自分が属する『何か』に対する義務でもある」
「は……はい……」
「で……君は……状況に流され過ぎで、自分で何かを決断するのが苦手なんじゃないかね?」
「かも……知れません……」
 まぁ、そうだよな……。民間軍事企業に兵器として生み出され……命令に従う事ばかりを教えられ続けた。
 ボクを作り出した組織が潰れたはいいけど……自由に生きる事に慣れていない。
「来週の月~金の9時から5時に、ウチみたいな児童養護施設の職員向けの講習が博多で行なわれる。出席しなさい」
「え……えっと……」
「そして、更に次の週の火曜に、受けた講習の中で君が興味深いと思ったモノを他の職員に説明する事。説明時間は2時間。その後、質疑応答三〇分。ただし、質疑応答の際は、君が質問に回答している間と、君の回答が不十分だったせいで追加質問が有った場合には、ストップウォッチを止める。そう云う意味での『質疑応答三〇分』だ。判ったかね?」
「は……はい」
「では、講習の時間と、移動時間、あと他の職員への説明・質疑応答とその準備の時間は、業務時間と見做し、給料は普通に出す。いいかね?」
「は……はい……」
 ああ……自由を重視する職場より……カルト宗教に洗脳された狂信者の方が楽に生きてけるのかも知れない。
 自由の対価は支払う価値は有る。けど……自由が無かった頃に思ってたより、かなり高価たかい上に……支払いは死ぬまで終らない。
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