呪詛返死

蓮實長治

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第8章:人を呪わば墓穴(あな)だらけ……または、墓穴(あな)1つ

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「あの……今、ネット上の都市伝説になってる『SNSにUPされた画像の中に、特定の誰かを呪殺する為の呪符が埋め込まれてるモノが有る』って話ですけど……」
 宮部Qベエを名乗る動画配信者は、自称・霊能者の府川みつぐに、そう訊いた。
「都市伝説も何も、あんたが、やり方を広めちまった『呪い』だろうが……」
「そうですけど……俺は、あの呪いの拡散を止めたかっただけで……まさか、俺がUPした動画の内容から、やり方を見付ける奴が、あんなに多かったなんて、思いも……」
「普通、気付け。自分で『コンピューター・プログラミングの知識が有る人なら、埋め込まれてる画像を抽出するプログラムを自作する事だって出来るそうです』とか言ってただろうが」
「あの……最初の1人は無事だったけど……その後、この呪符が埋め込まれた画像のせいで呪い殺されたとしか思えない人が山程……」
「多分、最初の1人が、たまたま、まぁ……何て言うのかな? 特異体質だったんだろ……どんな呪いも、呪った相手に跳ね返せるような……。しかし、他の奴は、そうじゃなかった」
「え……えっと……そんな人、居るんですか?」
「俺達の同業者の間では、良く言われてる事が有る。『調伏』出来ないタイプの霊とか魔物とかは確実に存在する。そんなタイプの霊を調伏しようとしたら、術者は自分自身の術で『調伏』されたとしか思えねえ死に方をする。そして、その場合……普通の『呪詛返し』とは違って、んだとよ。そんな奴が何か災いをもたらしたら……『お取り引きいただく』タイプの呪法を使うしかねえって……。ただ、どんだけ経験豊富な同業者でも、実際にくたばるまでは、調伏しようとした相手が、そのタイプの奴かを判別する方法は無い。多分だが、そんなのの人間版みたいなのが、居たんだろうよ」
「あの……何で、最初に呪われた女性支援団体の代表に、そんな力が有ったんですか?」
「理由はねえ。人間社会の理非善悪で推察はかれる話じゃねえ。ただ、たまたま、そう言う奴が居た。それだけだ。そして……。あと、もう1つ……」
「何ですか?」
「漫画家の安房清二がSNSにUPした画像を全部調べたか? 問題の画像より前にUPしたヤツもだ」
「えっ?」
「実は、あの馬鹿は、何度も何度も何度も、気に入らない奴を呪い殺してて……何十人目かに、たまたま、『本人も気付かない内に呪詛を返す』能力を持つ奴を呪っちまったんじゃないのか? たまたま、1人目が、そんな特異体質の奴だと考えるより、余っ程、納得出来る。通り魔が最初に狙った奴が、たまたま、通り魔を返り討ちに出来る奴である確率より、何人もの奴を狙ってきた通り魔のターゲットに、たまたま、1人、通り魔を返り討ちに出来るヤツが居た確率の方がデカい。まぁ、安房の野郎が死んだ今となっちゃあ……全てが謎だがな」
 そして……あの呪符で呪い殺せない奴が居たなら……ターゲットを、そいつの周囲の誰かに変更すればいい。
 大企業を狙ったテロの定石と同じだ。
「ところで……一番確認したい事なんですけど……」
「何だ?」
「あの呪符で、本当に人を呪い殺せた場合……?」
「知るかよ……そんな事……いや……ひょっとしたら……」
「ひょっとしたら……何ですか?」
 もし、安房が何度も同じ事をやっていた場合……いつか確実に「呪ってはいけない相手」を呪ってしまうほどに「呪う事」への歯止めが効かなくなる……または、何度も、あの呪いを使った場合、あの呪いそのものが、そいつが将来呪うであろう相手の中から誰かを無作為に選び、その誰かに「呪詛返し」の力を与えるとしたら……?
 そして、あの呪いが使われれば使われるほど、あの呪いそのものが、呪われそうな何者か達に「呪詛返し」の力を与えているのに、あの呪いを誰もが使い続けたとしたら……?
 そんな考えが府川の脳裏に浮かんだ。
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