呪詛返死

蓮實長治

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第6章:オブリビオン

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「ようやく見付けましたよ。動画投稿サイトのY……で『宮部Qベエ』って名乗られてる方ですよね。覚えてますか? 一度、会ってる筈です。新宿で……」
 五〇過ぎ。背は高めだが痩せ気味。野暮ったい私服と眼鏡。真面目だけが取り柄の管理職クラスのサラリーマンにしか見えない男。……それが動画サイトのコメント欄で俺に連絡をくれた奴だった。
 俺のオカルトネタの動画配信を見てる奴には思えない……が、じゃあ、こいつの趣味は何だと思う、とか言われても……全く想像出来ない……そんな感じのおっちゃんだ。
「新宿って……えっと?」
「私人逮捕系って言うんですか? 何かの漫画のコスプレをしてた『諂曲てんごくそのゆき』を名乗る動画配信者が新宿で死んだ翌日ですよ」
「あ……あの時の……」
 俺も、その件は、自分の動画で取り上げようとした。
 悪名込みの人気が有った私人逮捕系の動画配信者が……新宿の路上で謎の焼死。
 本当かどうかは判らない。ただ、死んだのだけは確かだが……人体発火は流石にねえと思ってるが、それでも、自分の動画で取り上げようとした。
 でも……情報が何も無い。
「実は、その天国だが地獄だかって変な名前の人が死んだのと同じ日に、愛知から上京してた私の弟も急死してましてね。その遺体の引き取りの手続きで、新宿の警察署に行ってたんですよ」
「は……はぁ、それは、お気の毒に……で、わざわざ、御連絡してもらった理由は……?」

「え……えっと……何を……」
 その気付いて当然の事に気付くまで、少しばかり時間がかかった。
「家族ん中から2人続けて死人が出たのぉ?」
「はい、弟の妻は……内海冬美というペンネームで小説家をしてました。そして、都内で事故死しました」
 あ……そ……そいつは……国会議事堂でをしたって噂が有る……。
「弟夫婦の葬儀やら何やらが一段落した後、弟も、弟の妻も……そして、例の動画配信者も、SNSである画像を拡散してる事に気付きましてね……」
 男は、ノートPCの画面を俺に向ける。
 2枚の画像。
 その2枚の縦横比は……ほぼ同じ。
 1枚は……SNSで「干し蛸」を名乗ってた売れない漫画家が描いたポンチ絵。
 いわゆる「表現の自由の戦士」だか「自分を『表現の自由の戦士』だと思い込んでる『表現の不自由の十字軍狂戦士』」だかと揶揄されてる連中の1人だ。
 SNSでは、こいつの絵は、やたらと拡散されてるらしいが……漫画家としての仕事は来ないらしい。
 それも、そうだ。
 自分では、論理的で冷静なつもりらしいが……その漫画とも言えないポンチ絵では、そいつの意見を代弁してるキャラも、そいつが悪と見做してるキャラも同じように感情的になってるようにしか見えない。
 ちなみに「同じように感情的」ってのは、感情的の程度もベクトルも似ているって意味だ。
 つまり、こいつは、キャラの描き分けが……おっそろしく下手だ。
 自称・漫画家のクセに、絵が下手……いわゆる「下手巧」ですら無い、救い様が無い残念な奴だ。
 もちろん、自称・漫画家のクセに絵で自分の伝えたい事を表現出来ないので、やたらとセリフが長い漫画モドキのポンチ絵と化してるが……更に残念な事に文章もクソ下手だ。
 新宿駅や渋谷駅の近辺で街宣をやってる政治活動家は、右翼だろうが左翼だろうが、あんな事をしてる奴らは、この「干し蛸」よりも遥かに頭が良いようにしか思えない。あいつらは、ちゃんと自分の政治的意見を聴衆に退屈させずに聞かせる事が出来る。
 そして、もう1枚は……。
「これ……何……?」
 陰陽師ものの映画やドラマやアニメに出て来そうな……呪符だ。
 でも、五芒星の代りに描かれてるのは……2つの正方形を組合せて作った8つの角が有る星型……。
 そして……「死ね」「苦しめ」「殺してやる」「地獄に堕ちろ」……そんな意味の言葉と……どこかで聞いた事が有る女の名前が書かれている。
「私の弟夫婦も……例の動画配信者も、その画像をSNSで拡散してました。どうも、この画像を拡散すると、呪いで死ぬ……そんな噂が有ったらしいんですが、私の弟の妻は、そんな訳有るかと云う意味の投稿をした後、その画像を拡散しました」
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