呪詛返死

蓮實長治

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第5章:本家・祟り屋

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 冗談じゃない。
 何で、男を狙う痴漢が居るんだよ?
 やめろ。
 触るな。
 ああ、クソ。
 朝、仕事場に行くのに電車に乗ったら……どうやら、電車が遅れたか何かで、とんでもない混雑だった。
 9時半ごろなのに通勤ラッシュ時間帯並だ。
 クソ……。
 冗談じゃねえ……。
 怖い。
 気味が悪い。
 声も出ない。
 ああ……でも、やっぱりそうだ。
 男の俺でもこのザマなのに、女だったら、声も出ねえだろうなぁ。
 そうだ、やっぱり、俺がアシスタントをやってる漫画「本家・祟り屋」の「痴漢冤罪」の回と同じだ。
 痴漢されてるのに、「この人、痴漢です」なんて声をあげられる女なんて居る訳ない。
 痴漢は確かに有るだろうが、痴漢されたから声をあげたなんて女は……男を陥れようとする糞フェミ女だけ……。
 えっ?
 何で、俺の手が勝手に動く?
 痴漢野郎の指を掴み……折る。
 どうなって……あぎゃああああッ⁉
 な……何で……痴漢野郎の指を負った筈なのに……俺の指に激痛が……?
「何だよ……うるせえな……」
 真面目そうな三~四〇代のサラリーマン風の男が俺の方を見て、そんな事を言う。
 俺も……わけが……わかんねえんだよ……。
 あれ?
 痴漢がいつの間にか……。
 そして……俺は……気付いた時には、他の客に押されて、ホームに出ていた。
 右手の人差し指が……変な方向に曲ってる。
 ああ、畜生……漫画家のアシスタントの商売道具が……。
 あ……嘘。
 さっきまで、乗ってた電車のドアが閉まり……待って……待って……いや、ペン握れそうにないのに、漫画の仕事場に行って、俺、何する気なん……?
 なん……?
 何だ?
 何だ……ありゃ?
 視線を上げると……ホームの反対側に……左手を右手で押えて、泣き顔になってる……男……。
 上着……俺のと同じ。
 ズボン……俺のと同じ。
 靴……俺のと同じ。
 顔……え……えっと……どうなってる?
 そして、その男は、怯えた泣き顔で、少しづつ後退あとずさり……。
 俺も……後退り……。
 あ……足が……止まんねえ……。
 嘘だ、嘘だ、嘘だ。
 「本家・呪い屋」の「痴漢冤罪」のエピソードでは……この後……。
 善良なサラリーマンを(ちなみに顔のモデルは俺だ)痴漢野郎に仕立て上げた糞女は……足を止める事が出来なくなり……。
 何の冗談だよ……。
 あの回の女の死に方のアイデア出したの、俺だぞ。
 そして、俺は……ホームに落ち……。
 電車が来る。
 でも……こっちじゃない。
 もう1人の俺が落ちた方……えっ?……うぎゃあああ……ッ⁉
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