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第2章:私人逮捕系動画配信者
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「すいませんね。昨日、新宿駅付近で見付かった不審死体について、剣道が出来る方の意見を聞きたくて……。で、新宿署で一番剣道の段位が高いのが有村さんだと伺いまして……」
観察の検死室には……解剖中の全身大火傷の男性の死体と、人の体らしいポンチ絵が描かれたホワイトボードが有った。
ホワイトボードに雑に描かれている人体には……右肩から左腰にかけて線が入っている。
「被害者は自称『諂曲そのゆき』こと松村文哲。死因は、火傷による脱水症状と……あと、喉や肺にも火傷が及んでいた事による呼吸困難」
「たしか、動画配信者だったか?」
新宿署の組対……俗に言う「マル暴」に所属している有村光宙警部補は、そう訊いた。
「よく御存知で……」
「俺ん家のガキが好きなマンガのキャラのコスプレをして、新宿をうろついてた奴なんでな……。でも、組対とは関係ねえだろ……半グレと関わってるって噂は有ったが証拠は出てねえ筈だ」
「直接の死因じゃないですが……変な傷が有りましてね……。本身じゃなくて、模擬刀で無理矢理斬り付けたような傷です」
監察医は、そう説明した。
「へっ?」
「あと、こっちは私の専門じゃ有りませんが、被害者が持ってた模擬刀は曲ってたようです。……何か強い衝撃を受けたような……」
「おい、何を言ってんだ? この死体に模擬刀で付けたような傷が有ったが……凶器と思われる模擬刀は被害者本人が手に握ってた、とでも言うのか?」
「まあ……現場の状況からして……」
「無茶苦茶だ」
「で、死体に付いてた模擬刀によるものと思われる傷がこれなんですが……」
そう言って監察医は、ホワイトボードを指差した。
「実は、私、左利きでしてね……いや、研修医の頃は苦労しましたよ。で、この傷を見て、袈裟切りの真似をしたんですが……こんな風に斬るのは相対的に楽なのに、反対側の肩から袈裟懸けに斬るのは動きにくかったんですよ」
「はあ?」
「ぶっちゃけ、この傷……左利きの人間によって付けられた可能性の方が高いと思われますか?」
「あのな、センセ……そんな事は一概に……待てよ……」
ヤクザのような外見のマル暴の刑事は、少し考え込む。
「こんな風な斬り方は、剣道では『左袈裟斬り』って言うが、反対の肩から同じように斬るのは単に『袈裟斬り』だ」
「つまり……」
「反対側の肩から斬るのが剣道では普通。こんな斬り方は特殊。センセの推理通り、左利きの奴がやったかまでは……判んねえ。少なくとも、この傷で犯人は左利きの奴ですって裁判で主張するのは無理だがな」
「はぁ……」
「おい、ところで、そもそも、目撃者は居ねえのか?」
「……それがですね……」
観察の検死室には……解剖中の全身大火傷の男性の死体と、人の体らしいポンチ絵が描かれたホワイトボードが有った。
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「へっ?」
「あと、こっちは私の専門じゃ有りませんが、被害者が持ってた模擬刀は曲ってたようです。……何か強い衝撃を受けたような……」
「おい、何を言ってんだ? この死体に模擬刀で付けたような傷が有ったが……凶器と思われる模擬刀は被害者本人が手に握ってた、とでも言うのか?」
「まあ……現場の状況からして……」
「無茶苦茶だ」
「で、死体に付いてた模擬刀によるものと思われる傷がこれなんですが……」
そう言って監察医は、ホワイトボードを指差した。
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「つまり……」
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「はぁ……」
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「……それがですね……」
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