上 下
68 / 101
諸神之黄昏 ― Ragnarok : Battle Royal ―

護国軍鬼・零号鬼:二〇世紀末まで

しおりを挟む
「まだ、日本は好きにはなれませんか?」
 十年ぶりに成田を訪れた時、彼女は、そう言った。
「この国や、この国の人間の全てを好きになれる訳じゃない……」
 季節は春だった。
「そう言えば、貴方の故郷にも桜は有るんですか?」
「ああ……有るが……日本の桜より……もっと赤い……」
 彼女の顔には皺が目立つようになり、肌は艶を失ないつつあり、髪には白いものが混り始めていた。
 この戦友の元を離れたのは、結果的に正解だったのかも知れない。
 俺は、何故か、若いままだった。おそらくは、高木美憲よりのりが俺に与えた力のせいだろう。
 この国の数少ない友が老いて死んでいくのを、俺は若いまま見続ける……。
 多分、俺には、それに耐えられる強さなど無い。
「貴方は、日本が嫌いだと言っているのに、私と娘は助けてくれました……」
「弱い者や傷付いた者には手を差し延べる。……人として当然だ……」
「では……この国の弱い人や傷付いた人を助けてもらう事は出来ませんか? 貴方の、その不思議な力で……」

 彼女が住んでいた辺りには、巨大な空港が造られる事になった。
 次に、成田をを訪れた時には、彼女の家や田畑が有った辺りでは工事が行なわれており……彼女の行方は判らなくなっていた。
 どうやら……俺は……友が苦しんでいた時に側に居てやれなかったらしい……。

 俺は、若い体のまま、この国を彷徨い、時に、この国の弱い者や傷付いた者を助ける事が有った。
 時には、俺に似た異能の力を持つ者と出会い……場合によっては戦う事も有った。
 だが、高木美憲よりのりが俺に与えた力は、異能の力の中でも、桁外れのモノらしく……他の異能の者と戦いとなっても苦戦した事は、ほとんど無かった。
 数少ない例外は……どうやら、俺の異能の元になったらしい者達と戦った時だった。
 奴らは、俺を自分達の紛物まがいものと見做しているらしかった。
 しかも、俺と奴らは、互いの居場所がある程度は知る事が出来た。
 俺は、面倒な戦いを避ける為、更に日本を転々とし続けた。

 やがて……日本は空前の好景気となり、日本の王は代替わりして、そこから一転して日本は没落し……その間も、俺は若いままで、日本を彷徨い続けた。
 この国の人間の中で、数少ない友であった女に、最後に会った時に言われた「この国の弱い者・傷付いた者を助ける」……それをやり続けてはいたが……どんなに強大であっても、命を終らせる事は容易くとも、命を救う事には不向きな力を持つ1人の人間に、出来る事は限られていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』

橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。 それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。 彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。 実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。 一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。 一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。 嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。 そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。 誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。

銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶
SF
ヤヴァルト銀河皇国オ・ワーリ宙域星大名、ナグヤ=ウォーダ家の当主となったノヴァルナ・ダン=ウォーダは、争い続けるウォーダ家の内情に終止符を打つべく宙域統一を目指す。そしてその先に待つものは―――戦国スペースオペラ『銀河戦国記ノヴァルナシリーズ』第2章です。

カラー・マン

上杉 裕泉 (Yusen Uesugi)
SF
とある金曜日の夕方のこと。週末のゴルフの予定を楽しみにする朝倉祐二外務省長官のもとに、一人の対外惑星大使が現れる。その女性――水野は、ウルサゴ人と適切な関係を築くため、彼らの身にまとう色を覚えろと言う。朝倉は、機械の力と特訓により見違えるように色を見分けることのができるようになり、ついに親睦パーティーへと乗り込むのだが……

超能力者の私生活

盛り塩
SF
超能力少女達の異能力バトル物語。ギャグ・グロ注意です。 超能力の暴走によって生まれる怪物『ベヒモス』 過去、これに両親を殺された主人公『宝塚女優』(ヒロインと読む)は、超能力者を集め訓練する国家組織『JPA』(日本神術協会)にスカウトされ、そこで出会った仲間達と供に、宿敵ベヒモスとの戦いや能力の真相について究明していく物語です。 ※カクヨムにて先行投降しております。

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

あなたのサイコパス度が分かる話(短編まとめ)

ミィタソ
ホラー
簡単にサイコパス診断をしてみましょう

Solomon's Gate

坂森大我
SF
 人類が宇宙に拠点を設けてから既に千年が経過していた。地球の衛星軌道上から始まった宇宙開発も火星圏、木星圏を経て今や土星圏にまで及んでいる。  ミハル・エアハルトは木星圏に住む十八歳の専門学校生。彼女の学び舎はセントグラード航宙士学校といい、その名の通りパイロットとなるための学校である。  実技は常に学年トップの成績であったものの、ミハルは最終学年になっても就職活動すらしていなかった。なぜなら彼女は航宙機への興味を失っていたからだ。しかし、強要された航宙機レースへの参加を境にミハルの人生が一変していく。レースにより思い出した。幼き日に覚えた感情。誰よりも航宙機が好きだったことを。  ミハルがパイロットとして歩む決意をした一方で、太陽系は思わぬ事態に発展していた。  主要な宙域となるはずだった土星が突如として消失してしまったのだ。加えて消失痕にはワームホールが出現し、異なる銀河との接続を果たしてしまう。  ワームホールの出現まではまだ看過できた人類。しかし、調査を進めるにつれ望みもしない事実が明らかとなっていく。人類は選択を迫られることになった。  人類にとって最悪のシナリオが現実味を帯びていく。星系の情勢とは少しの接点もなかったミハルだが、巨大な暗雲はいとも容易く彼女を飲み込んでいった。

染髪マン〜髪色で能力が変わる俺はヒーロー活動を始めました〜

仮面大将G
ファンタジー
金髪にしたらヒーローになっちゃった!? 大学生になったから髪を染めてみよう。そんな軽い気持ちで美容室に行った染谷柊吾が、半分騙されてヒーロー活動を始めます。 対するは黒髪しか認めない、秘密結社クロゾーメ軍団!黒染めの圧力を押しのけ、自由を掴み取れ! 大学デビューから始まる髪染めヒーローファンタジー! ※小説家になろう様、カクヨム様でも同作品を掲載しております。

処理中です...