青き戦士と赤き稲妻

蓮實長治

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「赤き稲妻」第2章:秘かなる侵略(シークレット・インベージョン)

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 元7=7が襲撃された現場は、それほど交通量は無い片側一車線の道路で、周囲に有るのは民家や個人営業らしい小さい商店だった。
 観光客が喜びそうな物など見当らない住民や通行人の大半が中国系らしい場所に、軽薄な観光客に見えてるつもりの白人が十人以上。目立つなと云う方が無理だ。
「道路にも周囲の建物にも目立つ破損がねぇ……妙だな」
 上海で会った時とほぼ同じ格好のグルリット中佐(「鋼の愛国者」の方の)がそう言った。
「どう云う事ですか?」
 そう聞いた「兄」は、まだ、微妙に虚ろな表情だった。「兄」が着ているのは、派手な柄のシャツで、背中にデカデカと可愛らしい感じの書体で「I L♡VE HONG KONG」と書かれている。
「鎧の頭部やアドラーの頭から血液や脳漿以外に胃液が微量だが検出された。アドラーは腹に一撃食ってる可能性が高い。その時にどうやら嘔吐したようだ。つまり、アドラーと敵との戦いは、ヤツが頭に一撃食らって終りって、単純なものじゃないらしい。なら、この辺りにアドラーと敵が交戦した痕跡が無いかと思ったんだが……当てが外れたようだ」
「では腹部に打撃の痕跡は有ったんですか?」
 私は、中佐にそう聞いた。
「だから、ヤツの死体の腹部には軟弾頭弾が何発も撃ち込まれていて、組織はグチャグチャだ」
「では、鎧の方の損傷は?」
「判らん」
「えっ?」
「装甲に多少の歪みと内部機関に損傷は有ったが、極めて軽微だ。過去の戦闘で受けた損傷や歪みだが、修繕の必要も、整備時の記録に残すほどのものでないと判断されたとしても、何の不思議も無い程度のものだ」
 「鎧」の装甲には、ほとんどダメージを与えず、内部の着装者にのみダメージを与える「何か」。しかも、「鎧」が上霊ルシファーの力や通常の魔導であっても「着装者の心身を直接操作する」攻撃を、ほぼ無効化出来る以上、純粋な物理現象と云う事になる。謎の「鎧」の着装者者が使う打撃技だとすれば、「鎧」により力を増幅された者の攻撃を生身の人間が食らうも同じだ。
「ひょっとして、腹部に与えた打撃こそが敵の真の武器で、その打撃の正体が分れば我々にも対抗策が有る……少なくとも、敵は我々が対抗策を編み出す可能性が有ると考えているのでは?」
「お前の馬鹿兄貴よりは鋭いな」
「……は……はぁ……」
 「兄」は、まだ、放心状態のようだった。
「妙な『ヴリル』は残留していない。魔導の類が使われたとしても、お前の好きな言い方を借りれば『手品』は『手品』でも、素人レベルのものだな」
 その時、魔導大隊の方のグルリット中佐がそう言った。
「ほう……じゃあつまり……敵が護送車がここを通る事を知った手段は、その手の手品じゃない訳か」
「そこまでは言い切れんが、可能性は小さくなったな」
「捕虜の移送ルートは複数の候補の内の1つを出発直前に選んでいた。敵が移送ルートを突き止めた方法が手品絡みじゃないなら、禁軍の中に内通者が居る可能性も有るな」
「厄介な事になったな。あと、厄介ついでだ。俺達は、狙われてるぞ」
「へっ?」
「近い過去に誰かがこの場所で『手品』を使った痕跡らしき『ヴリル』は無い。しかし、今、俺達を狙おうとしているヤツが居て、そいつが使う魔導に伴う『ヴリル』の動きや変化は存在してる」
「……早く言え、馬鹿兄貴‼」
「ちょっと待って下さい。魔導と云う事は、我々を狙っているのは上霊ルシファー以外の何者かと云う事ですか?」
「馬鹿兄貴、1つ、マヌケな質問をしていいか?」
「あまりにマヌケな質問なら、今日の晩飯は、お前に奢ってもらうぞ」
「最近の追剥その他のチンピラってのは、兄貴達みたいな手品を使うのか?」
「今日の晩飯は、お前の奢りだ。それも、ここに居る全員分だ」
 その時、物凄い勢いで一台の車が通りに突入してきた。そして急ブレーキの音。しかし、急には止まれる筈もなく、迷走した後に、近くの雑貨屋に突入した後、ようやく停止した。
「ずいぶん派手で傍迷惑な手品だな、おい……って、おい、まさか?」
 冗談めかして感想を述べた「鋼の愛国者」のグルリット中佐だったが、言っている途中で魔導大隊の面々が厳しい顔をしているのに気付いたようだった。
「そうだ。酔っ払いや馬鹿やマヌケが、あの車を運転してる訳じゃない。お前の云う『手品』だ。あの車の中から、妙な『ヴリル』を感じる。あの車の運転手は、おそらく何者かに操られている」
 いや、待て、あの車は……そんな……。
「すいません。我々が乗っていた輸送船に連絡をして、乗員や残っている魔導大隊が無事かだけでも確認して下さい」
「どうした?」
「あの車は……今日、我々が使った車です。今は、我々が乗って来た輸送船に有る筈なんです。……輸送船で何か不測の事態が起きた場合を除いて」
「……判った」
 そして、車の中から三十代ぐらいの虚な眼差しの白人の男が出てきた。
 顔には、漢字に似ているがどこか違う文字が崩し字風の書体でビッシリと書かれている。
 その男性は……「兄」附きの下士官だった。そして、胸や腹には、これまたビッシリと……。
「……カメラを持っているヤツは、ヤツの顔に描かれてる文様を撮影した後、退避‼それ以外のヤツは、すぐに退避だ‼」
 彼の体にはビッシリと爆弾が巻かれていた。そして、彼の上司である私の「兄」は真っ先に逃げ出した。
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