12 / 51
「赤き稲妻」第1章:平和の時代(ユートピア)
(5)
しおりを挟む
「明後日朝一番で大阪に移動。香港に赴任する世界政府の行政職員と、その家族を装い、一旦、空路で上海に入り、そこからフェリーで香港まで移動します」
「ちょっと待って下さい。直接、空路で香港に行く方が簡単じゃないんですか?何故、そんなリスクの有る経路を取る必要が有るんですか?」
私はコ事務官の説明を遮り、そう聞いた。
「7=7の殺害と前後して、多数のテロが香港で起きていました。現在、テロは終息に向かっていますが、電力・通信などのインフラもダメージを受け、香港・マカオの軍事空港および民間空港の復旧予定が全く不明なのです」
「了解」
「軍服その他の業務に必要な備品は、私が手配しますが、私服や下着や靴下は必ず夏物を持って行って下さい。私物で必要なものが有れば、明日、午後に私が買いに行きますので、昼食前までに、私に言って下さい。私物の代金は給与から天引きです」
私達が一時借用している基地内の空き部屋にに、私、コ事務官、アーリマン1=13、そして急に呼び出されたエメリッヒ博士が集合していた。
給与から天引きと言われても、私も、アーリマン1=13も、軍の外で金銭を使うような事は、ほとんど無い。
「そこで、エメリッヒ博士が行政府職員、少尉がその娘、私がメイドで、アーリマン1=13が私の妹、と云うのが、香港に到着するまでの我々の表向きの身分になります」
それで、エメリッヒ博士がここに居る理由が判った。
「『鎧』の修理は部下達が進めてくれている。今の所、私が特段の判断や指示をしなければいけない問題は無さそうだ」
「了解しました、博士、コ事務官」
「私も了解した……香港と云う事は、化粧品などは夏用の方が良いのだろうか?」
アーリマン1=13が微妙にズレた事を言った。
「まだ3月ですよ。日本では夏用の化粧品なんか売ってないでしょう。それに、化粧品が必要な年齢ですか?」
「私ぐらいの年齢の女性だと、そろそろ化粧をするものでは無いのか?いや、軍の施設育ちなので世事にはうといのでね」
「もう少し後の年齢になっても遅くないと思いますよ……」
コ事務官がそう言った。
「では、任務に関係ない個人的な頼みで済まないが、その時期になったら、化粧のやり方を教えてくれ、コ事務官」
「アーリマン1=13、何故、私では無く、コ事務官に頼むんですか?」
「焼き餅ですか?」
「嫉妬と云うモノかね?」
コ事務官とアーリマン1=13から同時に、全く見当違いの指摘が入った。
「違いますよ。私だって、ちゃんと化粧してるでしょう。どうして、私に頼まないんですか?」
「君も私並に世事にうとそうなのでね。言われてみれば、化粧はしているようだ」
「言われてみれば、って……」
「あぁ、それと、既に、私の階位はアーリマン2=12に変更になった。代りに、アーリマン7=7が、アーリマン1=13に降格だ。これからは、アーリマン2=12と呼んでくれ。もちろん、君の階位が上るか降格すれば、それに伴って私の階位と呼称も変る」
「ややこしいですね……じゃあ、愛称で呼ぶのはどうですか?」
アーリマン1=13改めアーリマン2=12が、えっ、とでも言いたげな驚いた顔になり、続いて困惑、最後には何かを考え込んでいる表情になった。
「どうしたんですか?」
「いや、そんな事を思い付いた『鋼の愛国者』は君が初めてだ。面白い。可愛い愛称を希望するとしよう」
「では、テルマ」
「待て、それは、死んだ君の姉の名前では無いのか?私とは似ていないぞ」
「いや、でも、髪型とか」
「髪型だけなら似ているが、髪の色は違う」
「顔の感じとか」
「そんなに似ているか?」
「しゃべり方とか」
「何かの嫌味かね?彼女は、少なくとも……私より感情表現が豊かだった。私は、それがうらやましかった」
私は「話はこれで終りだ」と云う感じで、溜息をついた。
「じゃあ、まだ考え続けますので、他に良い案を思い付くまでは『テルマ』で」
「判った……どうしたのかね、コ事務官?」
「いえ、お二人が仲の良いお姉さんと妹みたいだったので」
「ちょっと待って下さい、何が言いたいんですか、事務官?それに……アーリマ……じゃなかった、テルマ。何でテレてるんですか?」
「いや、君が私に君の姉の名前をつけた理由は、何かと思ってな……」
「それから何を想像して、顔を赤くする事に……どうしました?」
「いや、まさかとは思うが、先日の戦闘の際から気になっていた事が有る。君は、君の姉であるテルマを殺した上霊が何者か、当然ながら知らされていたと思うが……」
「いえ。任務に直接関係の無い事なので……」
「軍と言っても、お役所なので、そう云うものですよ」
コ事務官が補足説明をした。
「そうか……。なるほど……。先日の交戦相手の2人目、水を操る上霊に敗北して命を失なった『鋼の愛国者』が、ここ数年で複数名居る。おそらく偶然だが、その1人が君の姉テルマだ」
「そ……そんな……じゃあ、この前の2人目の上霊は……」
「君にとっては姉の敵と云う事になるな……それと、もう1つ気になる事が有る。この事も聞いてるかね?」
「何ですか?」
「私達が上霊や起動中の『鎧』の存在を感知出来る事は知っているな」
「はい」
「ここ数ヶ月、起動中の『鎧』に似た反応が存在している……」
「7=7を殺した謎の『鎧』ですか?」
「違う。そして、3つほど不審な点が有る。1つ目。『鎧』に似ているが反応が弱い。『鎧』だとしても使われている核は、せいぜい1つだ。2つ目。君の言う7=7を殺した謎の『鎧』と思われる反応は別に出現していて、しかも反応は我々の『鎧』より遥かに強い。おそらく核の数は5つか6つだ。3つ目。我々が『鎧』の反応を検知出来るのは、『鎧』が起動している時だけだが、この微弱な『鎧』に似た反応は、常時、存在し続けている」
「ちょっと待って下さい、その反応の場所は?」
「おおよその場所しか判らないが、距離・方向からして……世界地図は有るかね?……うむ、中国南部の沿岸地帯だ」
「まさか香港の騒動には、そいつが関わっているのか?……馬鹿な仮説を思い付いたのだが……まさか、そいつは、核を埋め込まれた人間などと言う事は……」
エメリッヒ博士がそう言うと、テルマはきょとんとした顔をした。
「待ってくれ、博士。君達は、核が作られた、そもそもの目的を知らされていないのかね?」
そう言うとテルマは黙って考え込み始めた。
「そちらこそ、ちょっと待ってくれ、どう云う事だ?」
「すまない、博士。どうやら、私達『神の秩序の巫女』にとっては当然の事が、君達にとっては機密事項だったようだ。忘れてくれ」
「……いや、忘れてくれと言われても……」
「この情報が必要になれば話す。そして、私の予想が正しければ、話さねばならぬ時が、もうすぐ来る。今の私に言えるのは、それだけだ」
「ちょっと待って下さい。直接、空路で香港に行く方が簡単じゃないんですか?何故、そんなリスクの有る経路を取る必要が有るんですか?」
私はコ事務官の説明を遮り、そう聞いた。
「7=7の殺害と前後して、多数のテロが香港で起きていました。現在、テロは終息に向かっていますが、電力・通信などのインフラもダメージを受け、香港・マカオの軍事空港および民間空港の復旧予定が全く不明なのです」
「了解」
「軍服その他の業務に必要な備品は、私が手配しますが、私服や下着や靴下は必ず夏物を持って行って下さい。私物で必要なものが有れば、明日、午後に私が買いに行きますので、昼食前までに、私に言って下さい。私物の代金は給与から天引きです」
私達が一時借用している基地内の空き部屋にに、私、コ事務官、アーリマン1=13、そして急に呼び出されたエメリッヒ博士が集合していた。
給与から天引きと言われても、私も、アーリマン1=13も、軍の外で金銭を使うような事は、ほとんど無い。
「そこで、エメリッヒ博士が行政府職員、少尉がその娘、私がメイドで、アーリマン1=13が私の妹、と云うのが、香港に到着するまでの我々の表向きの身分になります」
それで、エメリッヒ博士がここに居る理由が判った。
「『鎧』の修理は部下達が進めてくれている。今の所、私が特段の判断や指示をしなければいけない問題は無さそうだ」
「了解しました、博士、コ事務官」
「私も了解した……香港と云う事は、化粧品などは夏用の方が良いのだろうか?」
アーリマン1=13が微妙にズレた事を言った。
「まだ3月ですよ。日本では夏用の化粧品なんか売ってないでしょう。それに、化粧品が必要な年齢ですか?」
「私ぐらいの年齢の女性だと、そろそろ化粧をするものでは無いのか?いや、軍の施設育ちなので世事にはうといのでね」
「もう少し後の年齢になっても遅くないと思いますよ……」
コ事務官がそう言った。
「では、任務に関係ない個人的な頼みで済まないが、その時期になったら、化粧のやり方を教えてくれ、コ事務官」
「アーリマン1=13、何故、私では無く、コ事務官に頼むんですか?」
「焼き餅ですか?」
「嫉妬と云うモノかね?」
コ事務官とアーリマン1=13から同時に、全く見当違いの指摘が入った。
「違いますよ。私だって、ちゃんと化粧してるでしょう。どうして、私に頼まないんですか?」
「君も私並に世事にうとそうなのでね。言われてみれば、化粧はしているようだ」
「言われてみれば、って……」
「あぁ、それと、既に、私の階位はアーリマン2=12に変更になった。代りに、アーリマン7=7が、アーリマン1=13に降格だ。これからは、アーリマン2=12と呼んでくれ。もちろん、君の階位が上るか降格すれば、それに伴って私の階位と呼称も変る」
「ややこしいですね……じゃあ、愛称で呼ぶのはどうですか?」
アーリマン1=13改めアーリマン2=12が、えっ、とでも言いたげな驚いた顔になり、続いて困惑、最後には何かを考え込んでいる表情になった。
「どうしたんですか?」
「いや、そんな事を思い付いた『鋼の愛国者』は君が初めてだ。面白い。可愛い愛称を希望するとしよう」
「では、テルマ」
「待て、それは、死んだ君の姉の名前では無いのか?私とは似ていないぞ」
「いや、でも、髪型とか」
「髪型だけなら似ているが、髪の色は違う」
「顔の感じとか」
「そんなに似ているか?」
「しゃべり方とか」
「何かの嫌味かね?彼女は、少なくとも……私より感情表現が豊かだった。私は、それがうらやましかった」
私は「話はこれで終りだ」と云う感じで、溜息をついた。
「じゃあ、まだ考え続けますので、他に良い案を思い付くまでは『テルマ』で」
「判った……どうしたのかね、コ事務官?」
「いえ、お二人が仲の良いお姉さんと妹みたいだったので」
「ちょっと待って下さい、何が言いたいんですか、事務官?それに……アーリマ……じゃなかった、テルマ。何でテレてるんですか?」
「いや、君が私に君の姉の名前をつけた理由は、何かと思ってな……」
「それから何を想像して、顔を赤くする事に……どうしました?」
「いや、まさかとは思うが、先日の戦闘の際から気になっていた事が有る。君は、君の姉であるテルマを殺した上霊が何者か、当然ながら知らされていたと思うが……」
「いえ。任務に直接関係の無い事なので……」
「軍と言っても、お役所なので、そう云うものですよ」
コ事務官が補足説明をした。
「そうか……。なるほど……。先日の交戦相手の2人目、水を操る上霊に敗北して命を失なった『鋼の愛国者』が、ここ数年で複数名居る。おそらく偶然だが、その1人が君の姉テルマだ」
「そ……そんな……じゃあ、この前の2人目の上霊は……」
「君にとっては姉の敵と云う事になるな……それと、もう1つ気になる事が有る。この事も聞いてるかね?」
「何ですか?」
「私達が上霊や起動中の『鎧』の存在を感知出来る事は知っているな」
「はい」
「ここ数ヶ月、起動中の『鎧』に似た反応が存在している……」
「7=7を殺した謎の『鎧』ですか?」
「違う。そして、3つほど不審な点が有る。1つ目。『鎧』に似ているが反応が弱い。『鎧』だとしても使われている核は、せいぜい1つだ。2つ目。君の言う7=7を殺した謎の『鎧』と思われる反応は別に出現していて、しかも反応は我々の『鎧』より遥かに強い。おそらく核の数は5つか6つだ。3つ目。我々が『鎧』の反応を検知出来るのは、『鎧』が起動している時だけだが、この微弱な『鎧』に似た反応は、常時、存在し続けている」
「ちょっと待って下さい、その反応の場所は?」
「おおよその場所しか判らないが、距離・方向からして……世界地図は有るかね?……うむ、中国南部の沿岸地帯だ」
「まさか香港の騒動には、そいつが関わっているのか?……馬鹿な仮説を思い付いたのだが……まさか、そいつは、核を埋め込まれた人間などと言う事は……」
エメリッヒ博士がそう言うと、テルマはきょとんとした顔をした。
「待ってくれ、博士。君達は、核が作られた、そもそもの目的を知らされていないのかね?」
そう言うとテルマは黙って考え込み始めた。
「そちらこそ、ちょっと待ってくれ、どう云う事だ?」
「すまない、博士。どうやら、私達『神の秩序の巫女』にとっては当然の事が、君達にとっては機密事項だったようだ。忘れてくれ」
「……いや、忘れてくれと言われても……」
「この情報が必要になれば話す。そして、私の予想が正しければ、話さねばならぬ時が、もうすぐ来る。今の私に言えるのは、それだけだ」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
Neo Tokyo Site 01:第一部「Road to Perdition/非法正義」
蓮實長治
SF
平行世界の「東京」ではない「東京」の千代田区・秋葉原。
父親の形見である強化服「水城(みずき)」を自分の手で再生させる事を夢見る少年・石川勇気と、ある恐るべき「力」を受け継いでしまった少女・玉置レナは、人身売買組織に誘拐された勇気の弟と妹と取り戻そうとするが……。
失なわれた「正義」と「仁愛」を求める「勇気」が歩む冥府魔道の正体は……苦難の果てにささやかな誇りを得る「英雄への旅路」か、それとも栄光と破滅が表裏一体の「堕落への旅路」か?
同じ作者の「世界を護る者達/御当地ヒーロー始めました」「青き戦士と赤き稲妻」と同じ世界観の話です。
「なろう」「カクヨム」「pixiv」にも同じものを投稿しています。
こちらに本作を漫画台本に書き直したものを応募しています。
https://note.com/info/n/n2e4aab325cb5
https://note.com/gazi_kun/n/n17ae6dbd5568
万が一、受賞した挙句にマルチメディア展開になんて事になったら、主題歌は浜田省吾の「MONEY」で……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
第一機動部隊
桑名 裕輝
歴史・時代
突如アメリカ軍陸上攻撃機によって帝都が壊滅的損害を受けた後に宣戦布告を受けた大日本帝国。
祖国のため、そして愛する者のため大日本帝国の精鋭である第一機動部隊が米国太平洋艦隊重要拠点グアムを叩く。
Neo Tokyo Site 01:第二部「激突‼ 四大魔法少女+2‼ − Asura : The City of Madness −」
蓮實長治
SF
平行世界の「東京」ではない「東京」で始まる……4人の「魔法少女」と、1人の「魔法を超えた『神の力』の使い手」……そして、もう1人……「『神』と戦う為に作られた『鎧』の着装者」の戦い。
様々な「異能力者」が存在し、10年前に富士山の噴火で日本の首都圏が壊滅した2020年代後半の平行世界。
1930年代の「霧社事件」の際に台湾より持ち出された「ある物」が回り回って、「関東難民」が暮す人工島「Neo Tokyo Site01」の「九段」地区に有る事を突き止めた者達が、「それ」の奪還の為に動き始めるが……。
「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「pixiv」「Novel Days」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。(pixivとGALLERIAは掲載が後になります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる