青き戦士と赤き稲妻

蓮實長治

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「青き戦士」第1章:闇の支配(ダーク・レイン)

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「で、お姉ちゃんさぁ……ここに部外者入れていいの?」
 少し遅れてやって来た、コードネーム「ピンガーラ」が開口一番そうった。この子は、羅刹女ニルリティの子供の頃の妹分でもあったので、今でも羅刹女ニルリティの事を「お姉ちゃん」と呼ぶ。
 ここは、ボクたちの「秘密基地」。で、オペレータ用の席に座って端末を操作してるのは、今日は「ファットマン」と「ピンガーラ」……そして羅刹女ニルリティだ。
「そろそろ引越し予定時期だから問題無いだろ」
 羅刹女ニルリティが、そう答える。
「そりゃ、そうだけどさ……」
「どっちみち、このお姉様達やお嬢様達と私とは、お互いの居場所がおおまかに判る上に、揃いも揃って多少のセキュリティは力づくで破れる奴等ばっかりだ。ここを秘密にしても意味は無い」
 たしかに、情報漏洩対策として、定期的に場所を移してるとは言え、「秘密基地」の筈なのに、そこに居るのは、敵になったり味方になったりと色々とややこしい関係の、しかも、やろうと思えば町1つ簡単に滅ぼせる「人間の姿をした事実上の怪獣ゴジラ」が複数名。外から見たら良く有る貸倉庫にしか見えない場所で、「人間の姿をした怪獣ゴジラ」が何匹も安いパイプ椅子に座って、もの珍しそうに、キョロキョロと辺りを見回してる、ってのもシュールな光景だ。
「ところで、ワンワンとニャンコは?」
「お前、その呼び方はどうかと思うぞ」
 ちなみに、「ピンガーラ」のう「ワンワン」は彼女の兄である「ハヌマン・シルバー」の、「ニャンコ」とは彼氏ボーイフレンドである「ハヌマン・エボニー」の事だ。実は、「ハヌマン・シルバー」の妹とっても、ややこしい事情の義理の妹で、両ハヌマンが同じ系統の獣化能力の持ち主なのに対して、彼女は雷撃を操る「鬼」の末裔で、戦闘時には、青い肌、赤い髪、延びた牙と、角が無い以外は日本の昔話に出て来る「青鬼」そのものの姿に変身する。
「でも、あいつが変身してる時に、ニャンコって呼んで喉元をナデナデすると喜んでくれるよ」
「恋人と変なプレイをするのは、もう少し大人になってからにしろ」
「いや、あたし、もうすぐ二十はたちなんだけど……」
「そう言えば、そうだったな。なら、好きにしろ。あと、あいつらが居ないのは、向こうが核戦争後の世界だったりすると、再生能力ヒーリング・ファクター持ちにはマズい事になるからだ」
 そう。再生能力ヒーリング・ファクター持ちが癌になると、その再生能力が癌の進行を早めるように働いてしまうケースが結構有るので、一般的には、普通の人間よりも再生能力ヒーリング・ファクター持ちの方が放射線や発癌物質には弱い場合が多い。つまり、向こうがNBC兵器のせいで汚染されてたりすると、両ハヌマンにとっては、結構、洒落にならない事態になり、挙句の果てに、この物語は、ヒーローものから難病ものにジャンル変更をしなきゃいけない羽目になる。
 まぁ、一口に再生能力ヒーリング・ファクターっても、その原理メカニズムは色々と有るので例外も無い訳じゃないのがややこしい点なんだけど。
 ちなみに、この手の話を知ってる再生能力ヒーリング・ファクター持ちには、健康オタクがやたらと多いし、ボクたち「強化兵士」の「祖先」にあたる古代種族も、かなり強烈な再生能力ヒーリング・ファクターを持ってたらしいんだけど、「傷の治りが異様に早い代りに、放射線や特定の有毒化学物質に対する耐性が常人以下」だったりすると「兵器」としては運用の幅が狭まってしまうので、ボクたち第2世代以降の「強化兵士」が持ってるのは、あくまでリミッター付きの再生能力ヒーリング・ファクターだ。ボクたちより前の世代の「強化兵士」には、「過剰反応火事場の馬鹿力を出す自己暗示をかけた上で、自分自身の力で筋肉が自壊したら再生能力ヒーリング・ファクターで治癒しながら戦い続ける」なんて無茶苦茶な真似をやってたのが居たけど、ボクたちの場合は、傷の治りや疲労回復の早さが並の人間の数倍程度でしか無い。
 そんなやりとりの横で、ヴェロキラプトル型の支援ロボット「ラプ太」と「ラプたん」はボクの「鎧」の着装作業をやっていた。
「累計5回までは、通常の起動承認なしで制御AIが起動するようにした。6回目以降は、こっちに戻って通常通り起動承認を受けないと、制御AIは途中で停止する」
 この「鎧」は、基本的に一個人に自由に扱わせるには結構マズいレベルの戦力が有るので、後方支援要員サポートメンバーや製造元や整備要員や他の「正義の味方」がいつでも「鎧」を無力化出来る仕組みが何重にも作られている。通常は、誰かが承認しないと制御AIが起動しない、と云うのも、その「安全装置」の1つだ。でも、今回は、その「安全装置」を外さざるを得ない。
「あと、着装作業手順は、その2人に覚えさせたけど、2人そろってないと物理的に着装作業が出来ないから、気を付けろ。向こうで『ラプ太』『ラプたん』の片方でもデカい『怪我』をしたら、それ以降は緊急瞬脱を除く着装・脱装は出来なくなる。片手・片足・尻尾に到るまで動作に支障が有る傷は付けるなよ」
 まぁ、人間なら、片腕を多少怪我しても、その場で「自分が片腕を怪我してる事を前提にした作業手順」を思い付いてくれる可能性は有るし、場合によっては、その場に居た誰かに作業手順を教えてやらせる事だって可能だろうけど、「ラプ太」「ラプたん」のAIでは、訓練・学習した範囲内でのアレンジは可能でも、全く新しい事は思い付けないし、会話機能が有って、向こうの世界に協力者が居るような夢みたいな状況でも、自分が覚えてる手順を協力者に説明するのは不可能だ。
「予備の子たちは無しなの?他の子たちはどうしたの?ほら、ヴァージャー・ウォーデンがすごく即物的なコードネーム付けてるヤツ」
「すまんが、他の子達は明日からのヴァージャー・ウォーデン達の任務で使う予定だ」
「了解」
「いや、『2人』とか『その子達』とか、そいつら、恐竜型のロボットじゃないの?」
 「白の竜神」の巫女からツッコミが入る
「2匹とか2個なんて言い方は、差別的なんで好きじゃない」
「あのさぁ、差別も何も、そいつらロボット……」
「人工知能は搭載してる」
「あたしの事、バカにして、おちょくってんの⁉そんな大した『知能』じゃないよね⁉」
「そっちこそ、何をってんだよ?」
「あんたが、見た目で人を判断するようなヤツだとは思わなかったよ‼」
「はぁ⁉何の事だよ⁉」
「あたしだって、その手のロボットの『知能』が、どんなモノかぐらいは知ってるよ‼」
「うん、確かに社会にとって重要な事は任せられないな。子育てとか、学校の先生とか、野党の議員とか、B級映画の監督とか、偏屈だけど百回に一回ぐらいは良い事をう近所の御老人の代りとかは、多分、無理だ。でも、日本政府が無くなる前だったら、総理大臣ぐらいは勤まってた筈だ」
「この話って、今やる必要が有るのか?」
 最終的にファットマンのツッコミで「ラプ太」「ラプたん」をどう数えるかの問題に決着は付いたようだ。
 その頃、ボクは「鎧」のヘルメットを着装していた。
護国軍鬼アイアン・パトリオット五号鬼・改シリアル#5Ex制御AI起動オペレーティングAI:ブートアップ
 ボクがそう命令すると、ヘルメット内の小型モニタの電源がONになり、声紋認証を求めるメッセージが表示される。
「着装者:コードネーム『ソルジャー・ブルー』」
「起動承認者:コードネーム『羅刹女ニルリティ』」
 続いて、センサ、通信系、人工筋肉の動作確認を行なうかを問うメッセージが表示された。
「動作確認モードに移行」
「聞こえるか?」
「OK」
「音声無線通信はOK。データ通信は遠距離・無中継モードに切り替えてくれ」
「了解。データ通信モード切り替え」
「無線データ通信リンク確立。PING通った。テストデータ通信OK。通信速度測定、問題なし。メイン・カメラからの映像も受信出来てる。メインカメラのズーム機能を使ってみてくれ」
「了解。視覚センサ、望遠モード。距離は初期値一〇m±プラマイ一m。良好」
「よし、受信もOK。部屋の電灯を消して。暗視カメラに切り替えろ。まずは赤外線から」
「赤外線カメラ通常モードに切り替え」
「受信もOK」
「赤外線カメラ、望遠モード。距離は初期値一〇m±プラマイ一m。良好」
「受信もOK。サーモグラフィーモードに切り替えてくれ」
「赤外線カメラ、サーモグラフィーモードに切り替え。良好」
「受信もOK。可視光ノクトヴィジョンに切り替えろ」
「可視光ノクトヴィジョンに切り替え」
「受信もOK」
「可視光ノクトヴィジョン、望遠モード。距離は初期値一〇m±プラマイ一m。良好」
「受信もOK。温度・湿度センサも許容誤差内。余剰エネルギー排出口の開閉を確認する」
「了解。放出量最低で、全排出口より余剰エネルギーを排出」
「問題なし。最後に人工筋肉の動作を確認する」
 ボクは、身に付けた格闘術の「型」を十個、わざと「型」とは違う動きを十個行なった。
「筋電位センサ良好。予備動作検知機能も良好。モニタの視線検知機能も良好。『先読み』の適合率九六・八〇%。人工筋肉の動作も良好。動作確認完了」
「へぇ……こんな準備してたんだ……」
 部外者の一人である「黄の竜神」の巫女が、感心したような口調で、そうった。
「昔のヒーローものじゃあるまいし。着装にも手間はかかるし、その後の動作確認も、ちゃんとやっとかないと、後が怖い。民生用の強化服でも、これ位やるのは常識だ。……とは言え、向こうでは、着装後の動作確認は省略せざるを得ないだろうけど……ん?」
「ん?」
「あれ?」
「きたわね」
「そうね」
「どうしたの?」
神様達クソ野郎どもが、向こうとのポータルを開くって、さ」
「ところでさ、今更だけど、向こうが真空だったり深海の底だったりしたら……」
 ファットマンが、ビミョ~に不安そうにった。
「今、そんな事を気にしても、どっちみち遅いな。見てみろ」
「えっ⁉もう、お前は、ホントに昔から、慎重なのか無茶苦茶なのか判んないな……」
「その場合、私達は死んだとしても、『鎧』を着装してるソルジャー・ブルーが助かる確率は0じゃない」
「それってなぐさめてるつもりか?」
 そして、門が開いた。
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