正偽の味方

蓮實長治

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どこにも終らない夜はない

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 撮影現場である茨城に有る工場まで……高速を使っても2時間以上だ。
 いつもだったらね。
 しかも……何か、今日は渋滞中らしい。
「あの……どっかでトイレ休憩とか……」
 チュ~が、この質問をしたのは……4回目だ。
 もう、1時間半以上経ってるのに……ようやく、茨城県内に入ったばかり。ちなみに、撮影現場は水戸より更に先。まだ道半ばだ。
 どっかで事故が起きてるらしいが……。
「つかさ、もう、ルート変えた方が良くない?」
 スタッフの1人も、そうボヤく。
「わかりました。次のサービス・エリアで……」
「あの……煙草とトイレで……」
「一〇分だけです」
 チュ~の要請は……マイクロバスの運転手により、あっさり却下される。
「あと、どなたか、グループLINEか何かで、他のバスにも、休憩の事を伝えといて下さい」
「は~い」
 運転手の要請にスタッフの1人が答える。
「あの……くれないクンさぁ……」
「へっ?」
 中年の男のスタッフ……確か、照明さんだったと思うが……が、チュ~に話し掛ける。
 何か、プロデューサーの御意向で、なるべく、撮影時以外でも、役名で呼び掛けろ、って方針らしい。
「水、飲み過ぎじゃない?」
「え……えっと……変ですか?」
「うん、そんなに水飲むから、トイレ近くなるんじゃない?」
「でも、喉が乾いて……その……」
「おい、待てよ」
「どうしました?」
「ウチの会社さあ……ヤクザ映画なんかも作ってるでしょ。観た事無い?」
「何がですか?」
「ほら、コレやってる人は、喉が渇き易いって……」
 そう、言いながら、そいつは注射をやる真似を……。
「ちちちち……違違違違違違……ちちちががが……」
「おい、チュ~、落ち着け」
「え?……あ……えっと……あの、もう、仕事中なんで、役名で……」
 あたしの叫びに対して、そのスタッフは困惑気味の口調で、何かズレた返答。
「いや、冗談にしても……」
「何言ってんの? この程度の冗談で、何で、そこまで取り乱すの?」
「いや、仕事中だってんなら、余計、マズいでしょ、覚醒剤シャブネタの冗談なんて……」
「待ってよ、そんなポリコレ・コンプラがエンタメを面白くなくしてんだよ。ほら、この番組のコンセプトは『正義を疑え』でしょ。今の時代、一番疑うべき正義はポリコレとかコンプラであって……」
 やれやれ……SNS中毒者そのまんまの主張だ。
 この馬鹿、SNSに変な情報を流しちまうかも知れね~から気を付けろ、って、プロデューサーにチクっとくかな?
「子供番組で覚醒剤シャブネタなんて使える訳無いでしょ。ポリコレだのコンプラだの以前の話ですよ」
「お固いんだよ、あんたはッ‼ フェミ婆かッ⁉ そうか、男にモてないから、怨みをつのらせて、フェミになりやがったんだな、あんたはッ‼」
 絵に描いたようなSNS中毒者の言い草に……唖然としてると……。
「はい、論破」
 この馬鹿は、勝手にそう解釈しやがった。
 ああ、クソ……脚本家に「次にテラーノイドになる奴は、絵に描いたようなSNS中毒者にしませんか?」って提案すっかな?
 「絵に描いたような」って言葉には……「現実には、まず、居ねえ」ってニュアンスが有ったけど……今や、絵に描いたようなステレオタイプな馬鹿が、どこに居るか知れたものじゃねえ御時世だし……。
 畜生、あたしが子供の頃には、まだ生き残ってた「ネット世代を異様に敵視する爺ィ世代の脚本家」の気持ちが、アラサーになって、やっと理解出来たわ。
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