Neo Tokyo Site04:カメラを止めるな! −Side by Side−

蓮實長治

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第一章:The Kingdom of Dreams and Madness

高木 瀾(らん) (1)

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「あん時の『秋葉原』の女の子が言ってた『らん』ってのも……コードネームなんだろ?」
 日蓮宗の僧侶をやってる伯父さんから教えてもらった呼吸法「数息観」で平常心を取り戻すまで約1秒。
「あ……ああ、そうだ」
「じゃあ『らん』でいいな?」
「そうしてくれ。普段使ってるコードネームだから……想定外の事でも起きて動揺しテンパってしまった場合でも、自分の事だと判る」
 助かった……関口は、私の一瞬の動揺に気付いてないようだ。
 だが、しまった……。事件が解決……いや、あれを「解決」と呼ぶべきかは疑問の余地は有るが……した直後だったので、私も……私の事を本名で呼んでしまったレナも気が緩んでいたらしい。
「ところでさ……せいぜい、一泊か二泊なのに……その荷物はねぇだろ」
「そっちこそ……」
「いや、こっちは、昨日まで英彦山に修行に行ってたの」
 関口は人工島「Neo Tokyo」の1つ、壱岐と対馬の間に有る「Site04」こと通称「台東区」の自警団「入谷七福神」のメンバーの1人だ。もっとも、今、着ている上着は「入谷七福神」の「制服」である「背中に宝船が描かれたスカジャン」ではない。
 だが、確かに「アウトドア系のレジャーの帰り」と言われれば納得出来そうな格好だ。
 私より1つか2つ上らしい……要は二〇はたち前なのは確実……な彼女が「自警団」の、それも前線メンバーなのは、彼女がいわゆる「魔法使い」だからだ。
 「魔法」の系統は修験道系。「英彦山での修行」と云うのも、「魔法」の修行なのだろう。私が生まれる十年以上前、「異能力者」の存在が明らかになる以前に、マンガやアニメの企画で「修験道系魔法少女」なんてのを提案したら……冗談だと思われるのがオチだっただろうが……事実は小説より奇なりで、私の目の前に実在している。
「じゃあ、バイト代に含まれてる英彦山土産は……」
「先に、ウチの『東京』に居る信用出来る知り合いに送ってる。渡すのはバイトが終った後だ」
「で……ドローン操作のバイトだけど……本当に『イベントの撮影』だけだよな?」
「ああ、安心しろ。そこは問題ない」
 他人にとってはともかく、私にとっては極めて魅力的な報酬に釣られて「バイト」をOKしたは良いが……私達「御当地ヒーロー」と彼女達「自警団」は「文化」が大きく違うので、一抹の不安は有る。
 どちらも、「特異能力者」の存在を一般人が知る事になって以降、世界各国で起きた政府機能の破綻や治安の悪化に対応する為に生まれた「民間の治安維持組織」だが、「御当地ヒーロー」が上下関係が緩く、疎結合の複数チームが連携し、非戦闘員のメンバーの方が数が多いのに対し、「自警団」は体育会系的・ヤンキー的・ヤクザ的な「上下関係に厳しい」「例えば宴会での席次を間違えると血の雨が降る」ような「文化」で、1つの「自警団」が複数のチームから成り立っている場合は各チームの関係は密結合、金や人が豊かな所で無い限りは非戦闘員のメンバーは数も少ないし組織内では軽んじられてる……らしい。
 つまり……「同じ単語を使ってるのに『御当地ヒーロー』と『自警団』では全く意味が違う」なんて事も十分考え得る。
 だが……後にして思えば……ちゃんと確認しておくべきだった。「イベントの撮影でドローン操作をやるヤツが足りないんで、手伝ってくれ」って話が来た時に……どう云う「イベント」なのかを……。
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