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Lesson2
しおりを挟む「♪まじめ~まじめ~みっしまありかは~クッソまじめ~」
ここは会社近くの居酒屋で。
目の前にはテーブルで頬杖をついてヘンテコなオリジナルソングを歌う桐生さん、その隣りにはそれに全然動じない先輩の田之倉さんがいる。
「まだ生中、半分しか飲んでませんよね?酔ってないのにソレですか、桐生さん」
「いやぁ。三嶋さんが怒った。コワイ~」
頬を膨らませる私とは対照的に、隣りの進藤さんはふんわり微笑む。
「そうそ。だいぶ進藤さんも仕事に慣れてきたね。最初はどうなるかと思ったけど…」
「た、田之倉さん、その節はご迷惑お掛けしましたっ!」
「進藤さんて彼氏いる~?」
「話の流れをぶった切るのは止めてくださいね、桐生さん。進藤さんには素敵な彼氏がいます」
私の指導係だった玲奈さんが寿退社し、代わりに総務部から異動してきたのがこの進藤瑞穂さんだ。年齢は私の1つ上で25才。知的で透明感たっぷり、そこにちょっぴり甘さが加わったとびきりの美人である。彼女には桐生さんのことを既に説明済だ。
我が営業部の要注意人物・桐生正幸。
全然正しくないのに『正幸』って。そういえば同級生で、すっごく泣き虫なのに『強』って名前の男のコがいたなあ。そうなって欲しいという願いを込めて親は子に名づける…ということは、裏を返すと、きっとそうはならないんだろうな~という予想に基づくもので。ふむふむ、名前とは実に奥深い。
「まだまだ血気盛んな20代の男に、性欲をセーブしろって三嶋さんが言う~」
「こ、声が大きい!誰か黙らせてください!!」
上下の唇を指でつまみ、素早く沈黙させる田之倉さん。さすがですっ。
「桐生さんと三嶋さんは、そういう関係なの?」
「て、天然ですか進藤さん。本気でそんなこと思ってませんよね?この、真面目ひと筋で生きてきた私と、ふざけた人生まっしぐらの桐生さんが、交わることは決してありません!心外ですっ」
「…交わるだって。いやらし」
「黙ってください、桐生さん」
「だって俺、もう1カ月もしてないもん。新記録。体にも精神的にもヨクナイ」
「…俺なんて、もう1年以上いや、2年くらいしてないよ」
「いやあああっ。田之倉さんのそんなこと、聞きたくないっ!」
「だって三嶋ちゃん、俺、妖精じゃないから」
宴は、このまま下ネタ全開になり。
その帰り、なぜか私は…
田之倉さんから告白されてしまうのだ。
『残念美人』。
中学の頃から、そう呼ばれていた。
「三嶋って、キレイだけど頭が固くてコワイ」
「三嶋さんは無駄に美人」
そこそこの可愛さでも、ニコニコと愛想が良ければ結構モテる…その事実を知ったのは、いつだったろうか。告白されたこともある。でも、『電車でいつも見かけて』とか『部活で頑張ってる姿を遠くで眺めていたんだよ』とか。私自身のことをあまり知らず、外見だけを気に入ったという人ばかりで。
人としての魅力が無いんだろうなあ
…とかずっと思っていた。
「先に予防線はっておくよ。もしダメでも仕事は仕事、職場では普通に接して欲しい。あと、気を遣わなくていいから。で、ここから本題ね。どうやらその真面目で不器用なとこが俺的にツボっていうか。好きなんだよね、三嶋ちゃんのこと」
いつもニコニコしている田之倉さんが、すごく真剣な顔してて。逆に私の方がニヤけていた。緊張しすぎると、笑いたくなるというか。その場の雰囲気を変えたくて。あと、桐生さんに『好き』という感情を教えてあげるはずだったのに、傍にいた田之倉さんがそうなっちゃったという、この皮肉な状況が可笑しくて。
ううむ。
恋愛スキル低めなので、どう答えれば…。
頭の中でグルグルと考えを巡らせていると田之倉さんの方から『即答しなくていいよ。宿題にしとく』と言ってくれて。しかも期限は特にないのだと。そんな気長でいいの?という顔をすると、『いいよ。俺の方が立場弱いから』とまで言ってくれて。それを聞いたら妙にキュンとしてしまい、いつの間にか衝動的に答えていた。
「私で良かったら。あの、最初は友達からでお願いします」
余談だが我が営業部の人間は、ルックス重視と言われており。アライグマ似のおじさん社員・山本さんですら、同年代の男性と比較すると、身ぎれいで人好きのしそうな感じがする。オフィス事務用品の販売会社ですからねー。そういうのって、だいたい女性社員が発注担当するし。そんな方々に気に入られようとすると、自然とこういう人選になるのかもしれない…などと勝手に人事部の気持ちになってみた。
何を言いたいかというと、
要するに田之倉さんも男前なんだよね。
なんか癒し系で、ほわほわしているけど。一緒にいても嫌じゃないっていうのは、私からすればなかなか稀有な存在だし。あと、桐生さんと違って女性関係がクリーンなのも素晴らしい。
ここ、重要ね。
そんなワケで、なんとなく交際開始です。あと、今さらですが私、男性経験ありません。今年で24才ですけどね。あはは、あはは……はァ。
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