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13.龍之介
しおりを挟む嵐が去ったので、シアタールームのソファにずぶりと埋もれて座っている。
「ごめんねー、森野君。本当に翠ちゃんのこと、好きだったんでしょ?」
なぜかあの台風カップルが去ったあとトモだけココに残り、ソファに座って一緒に『トゥルー・ロマンス』のDVDを観ていた。
なんかそういう気分なんだ、仕方ない。
「んあ~。しょうがないよ、あっちの方が好きだっつうんだもん。こればっかりはさァ。ところで、ミドリに何て耳打ちしたんだ?」
あ、ちょっとエロいシーンだ。トモよ、お前、ガッツリ見過ぎ。
「え、ああッ。ごめん。こう言ったのよ。
>『シュウさんは翠だけを愛してる。
>でも、あの性格だから、自分から言えないの。
>この前、ボヤいてたんだよ。
>『翠の方から告白してくれれば、
>仕方ないって、付き合えるのに』と。
>すごくすごく待ってるみたいだから、
>好きって言ってあげなよ。
>なんかとっても残念な男なんだ、あの人
…って。翠ちゃん、今まで迫害されてたから。なかなか信じてくれなくてねぇ」
椅子に浅く座り直し、俺は深くて長いタメ息を吐く。
「はは。ミドリに告白されて、あの男、ちょっと泣いてたんだぞ?そんで、ポケットに指輪を常備してるって、俺だったら怖いけどなあ」
「そっか、シュウさん泣いてたのかあ。って、男のクセに自分から告白できないわ、私を巻き込んで、こんなところに突撃するわ、挙句の果て、最後にはプロポーズしちゃうわ。
いったい何なの、あの人??
確かにスッゴク変だわ」
トモは笑いながら続ける。
「森野君、言われてみれば、怖いかもね。でもさ、オンナってそういう、ダメな男に惚れちゃうんでしょ?前にアナタがそう言ってたじゃない」
「…そうだな。あの男、ダメダメだよな。アレに比べれば、俺、ちゃんと女に告れるし、普通にデートも会話もできる。結構、レベル高いと思わないか?」
ドヤ顔でそう言う俺に、トモはまたニヤニヤしながらこう答えた。
「この世の中に、ダメじゃない男なんて存在するの?ごめんね、私、今までそんなの見たこと無い。森野君、あなたもそこそこ立派なダメ男だよ」
俺は訊ねる。
「聞き捨てならないなあ。『学園王子』のどこがダメ男なんだよ?」
トモはキョトン、として答える。
「だって、面白くもないのに笑ってるじゃない。小岩井君たちといて、バカ笑いしてるけど、本気で笑ってる姿、見たことないよ、私」
…ったく。
ミドリといい、コイツといい、どうなってんだ。
そんなに俺の正体を暴かないでくれよ。
「楽しくないのなら、無理して笑うこと無いよ。最近、無表情な男ってカッコイイと思うからさ。もう、森野君も若くないんだし、カッコ可愛い路線から、クールカッコイイ路線にシフトする時期なんじゃない?」
…ああ、もう、だから。
お前、俺のこと理解し過ぎ。
「どうせ腹黒の小岩井君のことだし、森野君を妬んでコソコソ陰口叩いてるんでしょ。自分に好意を持っていない男友達なんか、無理して付き合うこと無いよ。精神衛生上、よろしくないと思うんだな。
恋人も、友達も、
自分を好きでいてくれる人を選んだ方が
良いと思いマース!」
ずっと胸の奥で、小さなトゲが引っ掛かっている感じだった。
「…なあ、トモ。訊くけどさ、お前は俺のこと、どう思ってんの」
それでも気づかないフリして、
普通に生活していたのに。
「もちろん好きだよ。だって頑張ってるもん」
「はは。頑張ってるか?俺」
「前に偶然、森野君のノート見たの。すっごく綺麗に分かり易く書いてあって、一生懸命、勉強してるんだなあって感心した」
「うわ、努力してるのバレてやんの。恥ずかし~、俺」
「…なんで?カッコイイじゃない。努力の成果がきちんと出るなんて。体育祭でリレーの選手になったときも、陸上部のコに基礎練習を教わってたんでしょ?」
「そ、そんなことまで知ってるのか…」
真っ赤になり、俺は頷く。
「しかもソレを口止めしてたとかって。そういう話を聞いてさあ、森野君って最高にカッコイイと思ったの。貴方こそ『学園王子』の名にふさわしいわ」
ち、ちくしょ。
嬉しい。嬉しすぎて、死にそうだ。
柔らかいトモの笑顔が、胸に流れ込み
冷たいトゲを溶かしていく。
溶けたトゲは、目から涙となって溢れ出た…。
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