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11.トモ
しおりを挟むえっと。どうすれば…?
かれこれ30分ほど、無言のままなのですが。いえ、正確にはこちらから電話を切ろうとするたび「切るなッ」とお怒りになるため、切るに切れない状態というか。そりゃあ、シュウさんの気持ちは分かる。だけど、でも。
翠ちゃんが森野君と本格交際を開始し、既に2週間が経過した。その間、シュウさんは日替わりで女のコと付き合っている。そのせいで、ちょっとしたプレイボーイとして評判だ。ほんと何してんだか。とっとと翠ちゃんに告白すればイイだけの話なのに。
「…い…」
「ええっ?何、もう一回言ってくださいよ」
「ブスだの不細工だのと罵っていた手前、今さら可愛い、大好きとは言えない…」
くおおおッ。『大好き』?!
も、悶え死ぬ。
ツンデレなんっすか。
ツンデレなんっすね??
「わ、私が間に入りましょうか?彼女はシュウさんに好きな人がいると思って、泣く泣く身を引いたワケだから、意中の人が自分だと分かれば、きっと…」
ああ、また沈黙タイムに突入。
10分後、ようやく彼は口を開く。
「俺的には、翠の方から告らせたい。アイツが俺のこと、好きだと言ってきたら、『仕方ないなあ』というテイでOKするつもりだ」
め、面倒くさッ。
「でもシュウさん。このままじゃ翠ちゃん、森野君と交際続行ですよー」
「…これだけは譲れない。じゃないと、付き合い出した後、俺の立場が弱くなる」
ああ、再び沈黙タイムにッ。今度は、私の方から口を開く。
「日替わりで女のコと付き合うの、止めたらどうですか?どんな考えかは知りませんが」
「それは、俺に意中のオンナなんかいないと、翠に気付かせるためで…」
わ、分かりにくッ。
「そんなの絶対、翠ちゃんは気づきませんよ?お願いですから、もう諦めて告白しましょうよ」
おうふッ。またまた沈黙タイム??間髪入れずに私が畳みかける。
「森野君、手ェ早いですよ。このままじゃ、翠ちゃんヤラれちゃう。今日なんて自分んちに遊びに来いと誘ってたし」
ガシャーン、ドン、ゴゴ…。電話の向こうで何かが破壊される音がした。
「(ハァ、ハァ)トモちゃん、案内して」
「へ?ど、どこに」
「リノモの家」
「……」
たぶん、『森野』と言いたいんだろうけど。動揺し過ぎで謎の単語になってるし。
「住所、知ってるんだろ?」
「え、ああ、前に皆んなでシアタールームを借りたことがあるから、分かるけど…」
ピンポーン、と我が家の玄関チャイムが鳴り、母が呑気に『はーい』と応答している。いきなり私の部屋のドアが開き、母が笑顔でこう言った。
「シュウ君が迎えに来てるわよ」
「へ?」
電話からも聞こえてくる。
「ああ、俺。トモちゃんちに着いたから」
仕方なく階段を降りて、玄関へと向かう。そこに立っている彼は、本当に完璧な外見で。こんなに美しい人間が存在するのかと、毎回、見るたび驚くのだが。それに反比例するかのように、中身が残念すぎて、もう、切ないほどだ…。
……
バス停を5つ数えると、そこは森野君の家。いつ見ても、豪邸だ。敷地に入ってからも、玄関までが小さな森状態。10LDKというその間取りにも驚くが、リビングには暖炉まで有ったりする。
シュウさんに急かされインターフォンを押した。
「…なに?」
「森野君?トモです。ちょっと話があるの」
「あのさ、いま俺、ミドリと2人きりなんだよ」
「だ、だよねえ~。こりゃまたお邪魔しました」
…と、帰ろうとする私を、シュウさんが強引にインターフォンへと戻す。人差し指で『続けろ』とジェスチャーするので、仕方なくそれに従うことにした。
「あのね、どうしても話したいことがあるんだ」
「何?」
「会って直接話したいの。我儘言ってゴメン」
「チッ。ちょっとだけだぞ?すぐ帰れよ?」
し、舌打ちされたよ、怖いい。
でもシュウさんはもっと怖いい。
玄関ポーチで森野君を待ちながら、私は訊ねる。
「で、どうするんですか、これから」
「トモちゃんは森野に片想い中ってことにしよ。その相談を受けて、俺はココまで同行したと。翠、トモちゃんに遠慮して森野と別れるかもな」
「えー、ヤダヤダ、絶対に嫌ですッ」
「俺と翠の明るい未来のためだ。翠の『お初』は俺が貰う。協力してくれ、頼む」
イヤイヤと首を左右に振り続ける私に、絶対君主のシュウさんは、平然と言う。
「この世で、翠の『お初』以上に大切なものがあるだろうか?いいや、ナッスィングッ。翠の最初のオトコは、俺以外にいないッ!!」
うう、あまりの気迫に負けちゃいそう。
そのとき、玄関ドアを開錠する音がし、中から森野君が顔を出す。うう、こっちはこっちで素晴らしく不機嫌そうな顔…。
「早く入れよ」
「あ、はい。お邪魔します」
「失礼するぞ」
私の後ろからスルリと入ったシュウさんを見て、森野君が『へ?』と言ったけど、それを無視して彼はどんどん先に進んでいく。
「翠!翠、どこにいる。返事しろ~」
「ちょ、ヒトんちに来て、なに勝手なことを…」
後を追う森野君。しかし、すぐに奥のドアが開き、おずおずと翠ちゃんが顔を出す。
「どうしたの?なんで2人がいるの?」
一瞬、シュウさんの顔が歓喜にまみれたが、それはすぐ仏頂面へと戻る。相変わらず、ものすごい精神力だな。大好きな翠ちゃんと、久々に再会したんだもんね。そりゃあ内心、小躍りしてるんでしょうよ。でも、それがバレないよう必死で堪えて。
ほんと憎めないな、この人。
翠ちゃんにふさわしくなるため、自分を磨きまくり。誰が見てもハイスペックな男になったというのに、告白すら出来ないって。そのヘナチョコっぷりが、もうね。いじらしいというか、放っておけないというか。
うん、協力しよう、しますとも。しなきゃまた、大騒ぎするんでしょ?で、私を巻き込んじゃうんでしょ?だとすれば、翠ちゃんとの恋を成就させるのが一番の解決方法だわ。
決心を固め、私はシュウさんの隣りに並ぶ。
さあ、翠ちゃん、覚悟はいいかしら?
攻撃開始しますよ。
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