みどりさんの好きな人

ももくり

文字の大きさ
上 下
11 / 15

11.トモ

しおりを挟む
 
 
 えっと。どうすれば…?

 かれこれ30分ほど、無言のままなのですが。いえ、正確にはこちらから電話を切ろうとするたび「切るなッ」とお怒りになるため、切るに切れない状態というか。そりゃあ、シュウさんの気持ちは分かる。だけど、でも。

 翠ちゃんが森野君と本格交際を開始し、既に2週間が経過した。その間、シュウさんは日替わりで女のコと付き合っている。そのせいで、ちょっとしたプレイボーイとして評判だ。ほんと何してんだか。とっとと翠ちゃんに告白すればイイだけの話なのに。

「…い…」
「ええっ?何、もう一回言ってくださいよ」

「ブスだの不細工だのと罵っていた手前、今さら可愛い、大好きとは言えない…」

 くおおおッ。『大好き』?!
 も、悶え死ぬ。

 ツンデレなんっすか。
 ツンデレなんっすね??

「わ、私が間に入りましょうか?彼女はシュウさんに好きな人がいると思って、泣く泣く身を引いたワケだから、意中の人が自分だと分かれば、きっと…」

 ああ、また沈黙タイムに突入。
 10分後、ようやく彼は口を開く。

「俺的には、翠の方からコクらせたい。アイツが俺のこと、好きだと言ってきたら、『仕方ないなあ』というテイでOKするつもりだ」

 め、面倒くさッ。

「でもシュウさん。このままじゃ翠ちゃん、森野君と交際続行ですよー」
「…これだけは譲れない。じゃないと、付き合い出した後、俺の立場が弱くなる」

 ああ、再び沈黙タイムにッ。今度は、私の方から口を開く。

「日替わりで女のコと付き合うの、止めたらどうですか?どんな考えかは知りませんが」
「それは、俺に意中のオンナなんかいないと、翠に気付かせるためで…」

 わ、分かりにくッ。

「そんなの絶対、翠ちゃんは気づきませんよ?お願いですから、もう諦めて告白しましょうよ」

 おうふッ。またまた沈黙タイム??間髪入れずに私が畳みかける。

「森野君、手ェ早いですよ。このままじゃ、翠ちゃんヤラれちゃう。今日なんて自分んちに遊びに来いと誘ってたし」

 ガシャーン、ドン、ゴゴ…。電話の向こうで何かが破壊される音がした。

「(ハァ、ハァ)トモちゃん、案内して」
「へ?ど、どこに」 

「リノモの家」
「……」

 たぶん、『森野』と言いたいんだろうけど。動揺し過ぎで謎の単語になってるし。

「住所、知ってるんだろ?」
「え、ああ、前に皆んなでシアタールームを借りたことがあるから、分かるけど…」

 ピンポーン、と我が家の玄関チャイムが鳴り、母が呑気に『はーい』と応答している。いきなり私の部屋のドアが開き、母が笑顔でこう言った。

「シュウ君が迎えに来てるわよ」
「へ?」

 電話からも聞こえてくる。

「ああ、俺。トモちゃんちに着いたから」

 仕方なく階段を降りて、玄関へと向かう。そこに立っている彼は、本当に完璧な外見で。こんなに美しい人間が存在するのかと、毎回、見るたび驚くのだが。それに反比例するかのように、中身が残念すぎて、もう、切ないほどだ…。
 
 
 
 
 ……
 バス停を5つ数えると、そこは森野君の家。いつ見ても、豪邸だ。敷地に入ってからも、玄関までが小さな森状態。10LDKというその間取りにも驚くが、リビングには暖炉まで有ったりする。

 シュウさんに急かされインターフォンを押した。

「…なに?」
「森野君?トモです。ちょっと話があるの」

「あのさ、いま俺、ミドリと2人きりなんだよ」
「だ、だよねえ~。こりゃまたお邪魔しました」

 …と、帰ろうとする私を、シュウさんが強引にインターフォンへと戻す。人差し指で『続けろ』とジェスチャーするので、仕方なくそれに従うことにした。

「あのね、どうしても話したいことがあるんだ」
「何?」

「会って直接話したいの。我儘言ってゴメン」
「チッ。ちょっとだけだぞ?すぐ帰れよ?」

 し、舌打ちされたよ、怖いい。
 でもシュウさんはもっと怖いい。

 玄関ポーチで森野君を待ちながら、私は訊ねる。

「で、どうするんですか、これから」
「トモちゃんは森野に片想い中ってことにしよ。その相談を受けて、俺はココまで同行したと。翠、トモちゃんに遠慮して森野と別れるかもな」

「えー、ヤダヤダ、絶対に嫌ですッ」
「俺と翠の明るい未来のためだ。翠の『お初』は俺が貰う。協力してくれ、頼む」

 イヤイヤと首を左右に振り続ける私に、絶対君主のシュウさんは、平然と言う。

「この世で、翠の『お初』以上に大切なものがあるだろうか?いいや、ナッスィングッ。翠の最初のオトコは、俺以外にいないッ!!」

 うう、あまりの気迫に負けちゃいそう。

 そのとき、玄関ドアを開錠する音がし、中から森野君が顔を出す。うう、こっちはこっちで素晴らしく不機嫌そうな顔…。

「早く入れよ」
「あ、はい。お邪魔します」
「失礼するぞ」

 私の後ろからスルリと入ったシュウさんを見て、森野君が『へ?』と言ったけど、それを無視して彼はどんどん先に進んでいく。

「翠!翠、どこにいる。返事しろ~」
「ちょ、ヒトんちに来て、なに勝手なことを…」

 後を追う森野君。しかし、すぐに奥のドアが開き、おずおずと翠ちゃんが顔を出す。

「どうしたの?なんで2人がいるの?」

 一瞬、シュウさんの顔が歓喜にまみれたが、それはすぐ仏頂面へと戻る。相変わらず、ものすごい精神力だな。大好きな翠ちゃんと、久々に再会したんだもんね。そりゃあ内心、小躍りしてるんでしょうよ。でも、それがバレないよう必死で堪えて。

 ほんと憎めないな、この人。

 翠ちゃんにふさわしくなるため、自分を磨きまくり。誰が見てもハイスペックな男になったというのに、告白すら出来ないって。そのヘナチョコっぷりが、もうね。いじらしいというか、放っておけないというか。

 うん、協力しよう、しますとも。しなきゃまた、大騒ぎするんでしょ?で、私を巻き込んじゃうんでしょ?だとすれば、翠ちゃんとの恋を成就させるのが一番の解決方法だわ。

 決心を固め、私はシュウさんの隣りに並ぶ。

 さあ、翠ちゃん、覚悟はいいかしら?
 攻撃開始しますよ。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

最愛の彼

詩織
恋愛
部長の愛人がバレてた。 彼の言うとおりに従ってるうちに私の中で気持ちが揺れ動く

幼馴染以上恋人未満 〜お試し交際始めてみました〜

鳴宮鶉子
恋愛
婚約破棄され傷心してる理愛の前に現れたハイスペックな幼馴染。『俺とお試し交際してみないか?』

闘う二人の新婚初夜

宵の月
恋愛
   完結投稿。両片思いの拗らせ夫婦が、無意味に内なる己と闘うお話です。  メインサイトで短編形式で投稿していた作品を、リクエスト分も含めて前編・後編で投稿いたします。

Honey Ginger

なかな悠桃
恋愛
斉藤花菜は平凡な営業事務。唯一の楽しみは乙ゲーアプリをすること。ある日、仕事を押し付けられ残業中ある行動を隣の席の後輩、上坂耀太に見られてしまい・・・・・・。 ※誤字・脱字など見つけ次第修正します。読み難い点などあると思いますが、ご了承ください。

社長から逃げろっ

鳴宮鶉子
恋愛
社長から逃げろっ

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

処理中です...