みどりさんの好きな人

ももくり

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6.トモ

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 「へ?」

 その日の昼休み。
 いつもの焼きそばパンを食べていると、翠ちゃんがボソリと呟いた。

「か、彼氏を作ろうと思うのよ」

 どうした、有川翠。頭でもぶつけたか?

「シュウちゃんに迷惑ばかり掛けられないから。本当はひとりで大丈夫と言いたいところだけど、きっと鼻で笑われちゃうだろうし。彼氏できたってことにすれば、いいでしょ?」

 だって、シュウさんは…。
 
 ああ、もう本当に面倒な人たちだな。傍目で見てる私でさえ分かったのに、なんで当人同士はこんなコトになってるの??

「翠ちゃんはそれでいいの?シュウさんのこと、ずっと好きだったじゃない」
「あのね。ずっとトモに黙ってたけど、シュウちゃんには好きな女の人がいるんだって。私のせいで、その人と付き合えないみたいなの」
 
 もしもーし。
 たぶん、その『好きな女の人』ってさ…。

 ああ、もう私が言っても信じないだろうな。本人が納得できるまで、自由に泳がせよう。…親友の私はそう思ったワケで。まさかこの決断が、更なる面倒を引き起こすとは思っていなかった。

 絶妙のタイミングで、近寄る影。

「聞いちゃった。俺、いいよ、彼氏になっても」
「か、軽っ」
 
 思わず、焼きそばパンに乗っていた紅ショウガを吹き飛ばす。どこから湧いて出たのか、それは学園王子こと森野龍之介で。強引に翠ちゃんの椅子にグイグイと座り、顔を近づけてこう言った。

「俺ならきっとあの人、納得するよ。そのへんの男じゃ見劣りするだろ?」

 いやいや。シュウさんと比べれば、世の中の男ほぼ全てが見劣りしますし。ていうか、きっと誰だろうと認めないと思う。
 
 まさかのまさかで、翠ちゃんは即答する。

「えっ、いいの?森野君、いいひと~!じゃあ、よろしくお願いします」
 
 翠ちゃん、『付き合う』ってさ、おテテ繋いで一緒に登下校するだけじゃないよ。ましてやこの森野だもん。あんなことや、こんなこと、されちゃうよ?きっとシュウさんが怒り狂うだろうなあ。

 …案の定、その日の帰り道。森野と私も一緒に来てと懇願され、並んで歩く。なぜか前列はシュウさんと翠ちゃん。後列は私と森野という、謎の並び。必死の形相で、翠ちゃんがシュウさんに告げる。

「あのね、登校はトモがいるし、下校は森野君と帰るから、シュウちゃんは一緒じゃなくて大丈夫だよ」

 一瞬立ち止まり、それはもう優しく笑ってシュウさんが問い返す。

「意味、わかんないな。この『森野君』は、翠の何なワケ?」
「か、彼氏なのッ。付き合うことにしたんだ私」

 シュウさんは、まだ笑っている。そこに、勇者・森野が口を出した。

「真剣交際しますんで、ご安心ください!」
「……」

 む、無視?!
 でも、まだ笑ってる。

 そのまま、駅で森野君と別れ、ニコニコ微笑んだまま、シュウさんは翠ちゃんを自宅へと連れ込む。私んちは、もう少し先にありまして。ちなみに3人とも同じ町内なんだな。きっと今から荒れ狂うんだろうナ~。私以外、誰も知らない秘密。それは、シュウさんが

 …究極のツンデレであること。

 彼は、翠ちゃんを溺愛していて。
 そのクセ、なぜか2人きりだと凶暴になる。

「翠が可愛すぎて、ツライ」
 
 以前、私にそうボヤいていた。でも、なぜか本人には死んでも言えないそうだ。2年分の愛情を、きっと今から彼女にぶつけるのだろう。人前では、あんなに爽やかで穏やかそうなのに。翠ちゃんの前でだけ、言葉遣いも雑で、凶暴だ。それを彼女から聞いたときの、衝撃ときたら。
 
『好きな女』なんて、そんなのアンタに決まってるでしょ。…そう言いたいけど、きっと言っても信じない。そのくらい、彼の態度は豹変するらしいのだ。
 
 完璧な男なんて、どこにもいない。
 
 永井シュウの生きざまを見ていると、
 心底、そう思うのである。
 
 
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