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3.トモ
しおりを挟むほおら、驚いたでしょ?
内心、鼻高々な私。
廊下側の一番後ろの席で、腕組して、浅く椅子に座り、ほくそ笑んでいた。…ら。ものすごい勢いで、森野君がやって来て。
「米田、ちょっと時間ちょうだい」
「え、ええ、何ッ?」
彼は、慌てる私の腕を掴み、階段の踊り場まで強引に連れて行く。
ふわふわの前髪。キュンとツリ目がちな、アーモンド型の目。いつでも笑みを浮かべているような、その口元。少年ぽさを残しながらも、確かにオスとしての色気も醸し出している、顎から肩までのライン。
女の私から見ても、惚れ惚れするもんね。私だって、こんな顔に生まれてたら、ブイブイ言わせちゃうよな。今どき『ブイブイ』なんて言わないだろうけど。見られることには、慣れているのか、私の視線なんかにビクともせず、森野君は言う。
「何アレ?」
「…アレって、翠ちゃんのこと?」
「決まってんだろ。ヤバイ。超ヤバイ。なんでアレ隠してたんだよ」
「ある人から、そうするように言われていたの」
「ある人?」
「そうよ。名前教えても、森野君は知らないと思う」
不満そうな顔。でも、彼は続けて質問してくる。
「理由は?何故いま、あの姿になったワケ?」
私は手短に説明する。
翠ちゃんは子供の頃から、とにかく美しかった。
幼稚園では、男性の保育士さんが彼女のトリコになって誘拐事件を起こし。小学校では、道を歩くだけで、見知らぬ男性に後をつけられて、盗撮されまくり。中学校では、他校の生徒までが校門前で待ち伏せし、勝手に奪い合いのケンカ。
ここで重要なのが、翠ちゃん自身は『容姿』というものを全く気にしていないということ。自分の美しさを理解していないし、相手の見た目にも左右されない。常に、内面しか見ていないのだ。
だから。
ボランティアで老人ホームを訪問して、お爺ちゃんたちを夢中にさせ。クラスの地味男子の話を真剣に聞き、有頂天にさせ。その結果、次から次へと巻き起こる大事件。その事件に、本人は気づいていない。なぜなら、それをすべて『あの人』が解決し、常に翠ちゃんを守っていたから…。
私は更に説明を続ける。
「その『あの人』が、両親の転勤で2年間、アメリカに行くことになったの。不在の間、翠ちゃんを守れないから、トラブルを避けるため、あの格好をさせたのよ。それが今日、戻って来る。で、ようやく、元の姿に戻ったというワケ。だから、諦めた方がいいと思うな」
自信に満ち溢れた表情で、学園王子こと森野君は微笑む。
「なんで?俺じゃ相手にされないってこと?」
「たぶんね」
ここで、誰かが階段を上ってくる足音がした。朝礼までまだ10分以上ある。なんとなく予感がして、その方向を見る。…やっぱり。
「シュウさん!」
「おー、トモちゃん。久しぶり、元気そうだな」
この森野君ですら、一瞬で凡人に見せてしまう、その圧倒的な美しさ。全身からにじみ出る、王者としての風格。アメリカでも飛び級を薦められたという、そのスンバラシイ頭脳。
とにかくこの男、全てがハイパー過ぎる!
「…えと、米田さん、誰?」
「ああ、森野君。この人が例の『あの人』だよ。私たちより1つ年上。翠の隣家に住む、スーパー幼馴染の…永井秋さんです」
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