上 下
13 / 31

メチャクチャな展開

しおりを挟む
 

「俺も…やれば出来るんだけど」

 何を?と問い返そうとして『いや待て、これは我らに向けた言葉では無いかも』と思い直す私とは対照的に、廣瀬さんはそのまま疑問を口にする。

「何をですか?」
「そんなの話の流れで分かるだろうが。俺も、本気出せばそれくらいの働きは出来るってこと」

 マジで?!

 って、この場合の『マジで?!』は『本当にそんな能力をお持ちですか?!』という意味では無く、『そんなこと本気で言ってますか?!』という意味である。だってほぼ社会経験ゼロで不労所得メイン、趣味程度の店舗経営しかしていなかった男が、どうして廣瀬さんと同等に働けるなんて思うの??

「湊には無理だよ」
「はァ?!出来るったら出来るっつうの!!分かった、ちょっと待ってろ」

 そう言って湊はスマホ片手に店外へと出て行った。…かと思うと、暫くしてドスンと椅子に座り、満面の笑みで私に報告してくる。

「朱里んとこの会社で働くことになったから」
「は…い??」

 そう言えばこの人、行動力の高さと人脈の広さがえげつないんだよね。でも、だからって就職だよ??そんな電話一本で手軽に出来るはず無いじゃない?!

「忘れたのか?俺は羽柴社長と家族ぐるみの仲だぞ。羽柴社長だけじゃなく、その本家である帯刀グループの会長とウチの父親が切っても切れない関係でさ、定期的にゴルフしたり…先月は一緒に泊りがけでラスベガス行ったとか言ってたな。帯刀会長はYMシステムサポートの起業時に随分と出資してるらしいから、ソッチ経由で攻めれば断らないんだよ。…というワケで、ウチの親父から帯刀会長を経由して羽柴社長にOK貰った」
「は…あ」

 そんな適当な感じで就職出来ちゃうものなの?まあ、確かに私が就職活動で迷っていた時にYMシステムサポートを薦めてくれたのは湊だったけどさ。でも、筆記試験も面接も無しって卑怯じゃない?

 ブハハハッ!!

 何故か隣りで廣瀬さんが笑い出した。なんだろう、この釈然としない感じ。…というか私の立場、おかしいよね?てっきり廣瀬さんとの仲を妬いたのかと思えば、最早、廣瀬さんとの対決の方がメインになっちゃって、自分と張り合える相手を見つけてワクワクしている感じじゃない?

 ねえ、私の立場は??

「ちなみに廣瀬さん直属の部下にして貰ったから」
「ええっ?!だって、事務畑の人間を削減しろって、あんなに騒いでたのに?」

「なんか1人、どっかに異動させるってさ」
「それ、湊の我儘のせいで誰かが犠牲になったんだよ!!」 

 うわあああ、何だこのメチャクチャな展開。こんなデタラメ、許されるの?

 …などと思っていたのだ、この時は。
 
 
 
 
 その1カ月後。

「瀧本くん、昨日話してた案件なんだけど、ちょっといいか?」
「はい、廣瀬さん大丈夫です」

「常務への説明資料だけど、次年度用の格付はコレを使ってくれ」
「あー、待ってました。これでもう完成しますよ」

>瀧本さんって、何者??
>入社1カ月でもう廣瀬さんの片腕だよね。

>あの2人が並んでると神々しくて直視出来ない!
>人材開発課、マジで眼福なんですけど~。

>でも廣瀬さんって太田さんと付き合ってるでしょ?
>嘘ォ、朱里ちゃんは湊様とじゃないの?

 宣言通りに湊は仕事を次から次へとこなし。そして廣瀬さんを敵視していたはずが、何故か仕事を教わっているうちに異常に打ち解けてしまい、プライベートでも一緒に過ごすことが増えてきて。そして勿論、廣瀬さんにはこの私がセットで付いてくるワケで。

 いつの間にやら、噂ダイスキな人々の格好の餌食となってしまうのである。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...